第7話:襲来ロクデナシ
現れた正体不明の魔法使い。
白銀のローブを着込んだ白髪でルビーのような目をした美少女。
確かにめっちゃ綺麗だが、自分で自分を綺麗というのは如何なものだろう。
……とそんな事は置いておくとして何だこの人? 急に話しかけてきたと思えば、ずっと笑顔で俺を見ているし、それ以上何もしてこないのが怖い。
「ねぇねぇ、その姿ってどんなことが出来るんだい? よければお姉さんに見せてよ!」
何か分からないけど、やばい気がする。
……具体的にどうとは言えないが、本能的にというかなんだろう。この人に関わっちゃいけないというそんな予感。
いやだってさ、綺麗な人だとは思うけど……こんなド深夜に現れた美少女とか厄介ごとの気配しかしない。だから俺は、とにかく離れないとと思って上がった身体能力を使って離れようとして跳んだのだが――。
「ふーん、まずは身体能力の強化だね――でもそれじゃあ私は振り切れないよ?」
このやばい人は、平然と空を飛んで俺に追いついてきたどころか……追いついてきて、そのままいいこいいこーって頭を撫でてきた。
しかも抱きつかれて逃げられなくなったし……もう何が何だか分からない。
ただ分かることはこの人は圧倒的格上で――今の俺じゃあ絶対に逃げられない相手だということだけだ。
「ふふ……とりあえずやっと会えたね、ずっと探してたんだよ?」
「あの本当に誰……ですか? 誰かと勘違いしてません?」
「え、この村で特殊な魔法を使える男の子は君……レイ君だと記憶してるけどもしかして人違いかい?」
「いや、確かに俺がレイですけど」
「ならいいじゃないか、ほら私も座るから膝に乗るといい。授業を始めるよ」
解放したかと思えば、俺を床に座らせてその真隣に腰掛ける正体不明の不審者。
えぇ、何なのこの人? なんか凄い怖い。
というか、なんで俺の名前を知ってるの? もしかしなくても個人情報漏れてる? いやそれよりも、本当に何者だこの人? なんか見たことある気がするが……こんな序盤の村に来ていい人じゃないだろ絶対。
「もしや恥ずかしがっているのかい? この年にしてはませてない? ……ふふ、でも大丈夫そんな子でもお姉さんが朝から夜まできっちりと……いや、今は夜だから朝までしっぽりとかな?」
色々考えようとしたけど、純粋に目が怖かった。
思考して逃げようとしたのにそれが吹っ飛ぶぐらいには怖くて、思わず俺は。
「……ひっ」
「ふふ、そう怖がらなくてもいいだろう? でも……怯えるショタも可愛いね」
分かったこの人やばい人だ。
俺、ここで終わるんだ――そんな予感さえ覚えてきて、前世高校生メンタルすらも敗北した。
「さぁ、魔法の授業を――ッ感知早くない!?」
そしてにじり寄ってくる彼女に恐怖した俺は、動けなくなったのだが――次の瞬間に何かが俺の真横を通り過ぎ魔法使いだろう不審者が吹っ飛ばされた。
「無事か……レイ?」
現れたのは今世での育て親であるアリスの父親。
灰色の髪をしたその男性は、俺を庇うように前に立ちあまりうにも頼もしかった。
「やっぱりナハトか、思ったより早い到着だね。でもなんだいそんな怒って? 私は今からこの子と至福の時を過ごすから邪魔しないでくれたまえ」
しっしと蠅を払うかのような動作をした後すぐにその男性から興味を失って俺へと向き直り何かを思い出したかのような顔でこう言った。
「とにかくだ。はやく魔法を見せてくれたまえ、他にはどんな姿になれるんだ言う? なぁに、ちょっとでいいから、先っちょだけでいい。ここじゃ危ないなら私と二人きりでヤろう?」
「まじやべぇよ、この人」
手をワキワキとさせながら急に詰め寄って来る彼女にそんな感想しか抱けなかった俺はあまりの恐怖に固まった。
助けて、このままだと俺何されるの? やばない? バッドエンド直行? 原作開始前に人体実験でもされるの? 助けてマジで助けてナハトさん。
「おいショタコン、いい加減にしろ」
だけどそれを救ってくれるのは我らが孤児院の主であるナハトさん。
どこからか剣を取り出した彼女はその腹で目の前の変態の頭を殴打した。
こっちに興味を移していた彼女はそれを避けられるわけがなく、そのままきゅーっと目を回しながら地面に倒れた。
「帰るぞぞルクス、この変態は木に縛っておく」
「えぇ、でも放置は不味いんじゃ」
「知らん、こいつが悪い」
そのまま俺の手を引きながらも何らかの魔法で彼女を丘の上の木に縛り付けて、俺を家へと戻った。
「俺はあの変態を見張ってる。明日までは部屋から出ないようにな」
「アッハイ」
「それと、深夜に外出した件については後で説教だ」
仁王と見間違うようなオーラの彼女に逆らえるわけがなく、俺はそのまま部屋にいることにした。何でバレたんだと思ったが、あの変態がさっき口走っていたのを思い出し、恐怖と共にアレに対して俺は怒りを覚えた。
「説教やだなぁ……全部これもあの不審者が悪いよ」
「だよねぇ、ナハトの説教長いよね。私が服とか放置してるとすぐ怒るし」
「分かる。ちゃんと畳まないと怒るんだよね。あ、あと本も戻さないと怒るよね」
「だよねー、こっちは後で読むつもりだから放置してるのにいつも片付けないと怒るんだよー」
「確かにいつも後でちゃんと片付けるって言ってるのになんで……あのなんでここに?」
とても自然な流れで会話していたけど、どうして俺しかいないこの部屋に知らない人が? というか、どうやって部屋から出たんだよこの人。
「ふっあの程度の部屋私にかかれば楽勝さ、どうだい? 方法知りたいだろう?」
「知りたくないです。というか自然な流れで俺を膝に乗せないで下さい」
「いいじゃないか、お姉さんの膝で安心してゆっくり休むといいよ」
何も安心できる要素がないんだけど、そもそもまだ俺この人の名前知らないし。
……未だ呼び方正体不明の魔法使いなんだけど、そろそろ自分の名前ぐらい教えてくれない? 麻痺した思考回路でそんなことを考えながらも、俺はナハトさんの知り合いでこの見た目の魔法使いに心当たりがあった。
いや――でも、こんなんじゃなくなかった?
……俺がゲームで見た限りのこの人は、もっと……いやこんなのだった気がする。
「あ、そういえばまだ名前を教えてなかったね。私はラーヴァ――夢幻の名を賜ったちょっと凄いお姉さんさ」
「……まじかぁ」
「むぅ、なんだいその反応。そこはお姉さんを褒め称える場面だろう?」
「いや、本当にまじかぁ……」
彼女はラーヴァ・メルリヌス。
この世界最強とも言える魔法使いで――アリスが主人公で展開される際のお助けキャラ。何より……アリスの師匠として活躍するやばい人だ。
ラスボス候補生は英雄を夢に見る~やりこんだJRPGの男主人公に転生したんだが、選ばれたのは俺じゃない方の主人公だったらしい~ 鬼怒藍落 @tawasigurimu
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