第2話 明かされる過去
ルリが配信を知ってから数週間後、キッチンで夕食の準備をしていた瑛士のもとに新たな災いが訪れる。
「瑛士、これを見よ! 迷宮のライブ配信をやっておるぞ!」
「はいはい、そーですか。それは良かったですねー」
「む? なぜそんなにテンションが低いのじゃ? 配信者を目指す我らにうってつけではないか」
「だーかーら、いつ俺が『配信者を目指す』って言ったんだよ!」
「なんという事じゃ……このびっくうぇーぶに乗らないでどうするんじゃ!」
「……やるなら一人でやってくれ」
鼻息を荒くして詰め寄るルリに対し、大きなため息をつくと再び夕食の準備を進める瑛士。
「お前は他の奴らにはない才能を持っているというのに、なんでそんなに無気力なんじゃ! お主の持つ
「前にも言ったように、俺は読書魔法なんてもうこりごりなんだよ!」
ニンジンを切っていた包丁を勢いよくまな板に叩きつけると、吐き捨てるように叫んだ。あまりにも普段と違う玲士に驚き、一気に血の気が引いていくと涙目になるルリ。
「わらわが……悪かったのじゃよ……」
「いや、俺のほうこそいきなり大声を出してすまない……ルリは何も悪くない」
時間にして数十秒程度だが、二人にとっては何倍も時間が悔過したような重苦しい空気がキッチンを包み込む。すると、瑛士が突然口を開いた。
「この際だからルリに話しておいてやるよ、俺が読書魔法を毛嫌いする理由を……」
「……教えてほしいのじゃ、お主に何があったのか」
顔を上げると瞳に涙をため、真剣な表情で瑛士を見つめるルリ。
「仕方ないな……少し昔の話をしようか」
「よろしく頼む……わらわは聞かねばならぬ」
瑛士は小さく息を吐き、ルリを真剣な眼差しでルリを見た。彼女の覚悟を確認すると包丁をまな板の上に置き、話し始めた。
「あれは十年ほど前のことだった……俺はある研究機関に軟禁されて、無理やり読書魔法を使わされていたんだ」
◇
「嫌だ……もうやめてよ……」
「次はタブレットの画面から三十五番を選び、目標物を打ちなさい」
無機質なコンクリートの壁に囲まれた空間に響く悲痛な声。部屋の中央に設置された金属製の椅子に縛り付けられた男の子。左手の先には数字が羅列されたタブレットが光る。
「ニャーニャー!」
目の前に設置されたコンベアーが動く。すると目の前に現れたのは檻に入れらた数匹の子猫。少年に助けを求めるように檻から前足をだし、鳴き続けている。
「何度同じことを言わせるの? あなたは言われたとおりに打てばいいの! お仕置きを受けたくないなら早く目標物を打ちなさい!」
心が引き裂かれそうになっている少年の気持ちなど無視するように、頭上設置されたスピーカから放たれる冷徹な怒鳴り声が響いた。
「嫌だ……もう嫌だよ! 俺は打ちたく……ぎゃぁぁ!」
「打ちなさい、これは命令です! 選択権などありません。痛い目にあいたくなければ素直に従いなさい」
悲鳴をかき消すようなに無機質な言葉が降り注ぐ。少年が抵抗しようとするたびに金属製の椅子に電流が流れ、全身を激痛が襲う。
「……わかりました」
「最初から従えばいいのです。今すぐ打ちなさい」
少年が左手でタブレットを触り、ゆっくり右手を突き出す。すると手の先から稲妻に似た光が檻に向かい放たれる。
「「ギニャーー!!」」
光が到達した瞬間、子猫の叫び声とともに高圧電流が檻を包み込む。そして室内に肉の焦げた匂いとむせ返るような煙が充満した。
「ああ……ごめんなさい、ごめんなさい……」
少年の瞳から大粒の涙が次々と落ち、太ももを濡らしていく。
「あら? おかしいわね……思ったよりも威力が低いわ。次の検体を用意して!」
室内に声が響き渡るとコンベアーが自動で動き、黒焦げになった檻が運ばれていった。大粒の涙を流し、念仏を唱えるように謝り続ける少年をよそに新たな檻が運ばれてきた。
「えっ……人間?」
目の前に運ばれてきた檻の中にいたのは白いワンピースを身に纏い、力なく横たわる金髪の少女。
「ど、どういうこと? 女の子がなんで?」
「よく聞きなさい。三十七番を選び最高出力で撃ちなさい」
耳を疑う様な言葉が室内に響き渡る。目の前にいる少女に向かって魔法を打てというのだ、最高出力で……
「で、できないよ! 嫌だ! 絶対に嫌だ!」
「口答えは許しません! 痛めつけられたいのですか?」
「絶対に嫌だ……ぎゃあああ!」
少年は必死の抵抗を見せるが、縛り付けられた椅子の上でもがくことが精一派だった。そして、容赦なく流される電流が全身を痛めつける。
「あなたに選択肢はありません。大人しく従いなさい!」
「ぜ……絶対……嫌だ! どれだけ……ぎゃああああ!」
「強情な子供ね、素直に従えばいいものを……そこのあなた! もっと出力を上げなさい!」
「し、しかし、主任。これ以上出力を上げるのは彼の生命が危うく……」
「うるさいわね! このプロジェクトの責任者である私に口答えするとはいい度胸ね。あなたもあのネコのように消し炭にしてあげましょうか?」
「ひっ……わ、わかりました。どうなっても知りませんから……」
「ヒラ研究員が口答えするんじゃないわよ! さあ、はやく三十七番を撃ちなさい!」
「い、いやだ! 痛い! 痛い! でも絶対に撃た……ない……」
ここで少年の意識は途切れ、気が付いた時は病院のベッドの上だった。
◇
「……とまあこんな経験をしたんだ。……重い話をして悪かった! お腹空いただろ? さっさと夕飯を準備するからな」
話し終えた瑛士は無理やり笑顔を作り、夕飯の準備を再開しようとした。その時、腕を組み、神妙な面持ちで話を聞いていたルリが口を開く。
「そうか、お主の過去はよくわかった……その研究所に心当たりがあるのじゃ」
「は? お前に何の関係があるんだ? だいたい研究所は退院してから見に行ったら跡形もなく……」
瑛士が話し始めようとした言葉を遮るようにルリがある会社名を口にした。
「お主がいう研究所の名は、『イース・シェイディ・カンパニー』ではなかろうか?」
頭の先から血の気が引くように真っ青になる瑛士。
口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべるルリ。
彼女はいったい何を企んでいるのだろうか……
次の更新予定
ラストリモート~金髪幼女はカリスマ配信者?迷宮攻略と古の魔法「読書魔法(リーディング・マジック)」~ 神崎ライ @rai1737
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラストリモート~金髪幼女はカリスマ配信者?迷宮攻略と古の魔法「読書魔法(リーディング・マジック)」~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます