捨てカカシと小さな魔女

神埼 和人

捨てカカシと小さな魔女

「やーいてっぱんむね!」

「なによ、捨てカカシ!」


 一人はこわれて捨てられたブリキのカカシ、アーモンド。

 もう一人は魔女まじょ召使めしつかいの女ロボット、ショコラ。


 魔女の一家は、麦わら畑の近くの小さな木の家に住んでいました。

 麦わら畑のかたすみを魔女とその召使いが通るたびに、二人はいつも口げんかです。


「メディが生まれてからずっとだから、もう百三十年になるかしらねぇ」


 魔女はもうあきれることにもあきてしまい、召使いロボットをのこして先を歩きます。


「だぁあ、あうぅー」


 その様子をみてロボットの腕の中で喜んでいるのは魔女の子、メディ。

 魔女の子はものすごく成長が遅いので百三十才のメディはまだやっと、はいはいを覚えたばかりです。


「ほらショコラ、メディにも笑われているわよ」

「だって、奥様……」


 そう言って魔女の後を早足で追いながら、召使いロボットのショコラは首だけをくるっと後ろにまわして、アーモンドにあかんべーをします。それにアーモンドも口一文字でイーッと答えるのでした。




 ある日、メディは一人でアーモンドのところにきていました。

 魔女やショコラの目をぬすみ、はいはいで遊びにきてしまったのです。


「やぁメディ」


 アーモンドとメディは大の仲良し。二人でいろいろなことをして遊びます。

 でもアーモンドには元々足がないので、遊ぶのはいつも『しりとり』か『あっちむいてホイ』です。


「僕に足があったら鬼ごっことか、かくれんぼとか、もっといろんなことができるんだけどなぁ……」


 アーモンドがそういうと、メディが「だぁあだぁあ」と答えます。


「え? 僕に足をプレゼントしてくれるの?」


 メディがその小さな指で空をさし、くるくると二回まわすとアーモンドの足元に二本の大根があらわれました。


「あはは……これでは弱すぎて僕の体はささえられないよ」


 するとメディがもう一度指をまわします。こんどはナイフとフォークが一本づつでてきました。


「これはたしかに丈夫だけれど、短すぎて無理だなぁ」


 メディはぷーっとほほをふくらませて怒りながら、もう一度指をまわしました。

 突然どしーん、という大きな音と共に空から落ちてきたのは巨大な丸太でした。

 同時に遠くからショコラの怒る声が聞こえます。


「あんた達! なにやってんのよ! 家が壊れちゃったじゃない!」


 その怒鳴り声にメディは泣きだしてしまいました。

 泣き声はショコラの怒る声よりももっと大きく、空高く飛んでいた大鷲おおわしにまで届きました。

 

 それは一瞬の出来事でした。

 突如、急降下きゅうこうかした大鷲が、メディをさらって飛びさったのです。


「奥様! 奥様! メディが――お嬢様じょうさまが!」


 ショコラは腰をぬかしながら魔女を大声でよびます。

 しかし、さらわれた当の本人は全くそれに気づいていません。

 それどころか、はじめて飛ぶ空にキャッキャと喜んでいます。


「くそう、こんなときになんで俺には足が……」


 アーモンドはくやしくてしかたありません。

 何か投げつけるものはないかと見まわしてみても、近くには石も落ちていませんでした。


「だったら!」


 アーモンドは一本だけ残った腕で自分の頭を外し、大鷲めがけて投げつけました。


 ヒューーーーーーー、ガツン!


 アーモンドの頭は大鷲に当たり。

 大鷲はその衝撃しょうげきでメディを落とし、そのまま逃げていきました。


 しかし、さすがに魔女の子といえどもまだ赤ん坊です。空は飛べません。


「だぁ! あう! だぁ!」


 メディはそれでも指を回し、魔法まほうとなえました。

 するとどうでしょう。アーモンドの頭がカゴになり、メディの服が風船になって、小さな小さな気球ができたのです。


 パンツ一つのメディはそれに乗ってゆっくりと、ショコラと魔女の元へ降りてきました。

 降りながらひっくり返ったアーモンドの頭が言います。


「俺たち、ナイスコンビだな!」

「だぁ!」




「さて、どうしましょうか」


 魔女は腕組みして考えます。


「やめて! お願い、こわさないで!」


 メディを危険な目に合わせた罰にこわされると思ったアーモンドは、頭だけでカタカタとふるえています。


「奥様、私からもお願いします。元はといえばメディの面倒めんどうをちゃんと見ていなかった私のせい……」


 普段ふだん、けんかばかりのショコラもアーモンドを助けようと必死です。


「あなたたち!」


 怖い顔で二人をにらみつける魔女。


「何か勘違かんちがいしてないかしら?」

「え?」

「うん?」


 二人は顔を見合わせて目をパチクリ。


「娘の命の恩人おんじんをこわそうだなんて思ってないわよ。あなたをどうやって助けるか考えているの」


 頭のとれたロボットは日暮れまでに新しい体にくっつけないと死んでしまうのよ、そう魔女は二人に説明します。


「でも、あいにくと新しい体の材料になりそうなものがないのよ。元の体はボロボロでほとんど使えるところがないし……」

「そんなぁ~」


 アーモンドは情けない声を出して、しくしくと泣きはじめます。それを見たメディも今にも泣きだしそうな表情です。


「それなら私の体を使ってください」


 ショコラが言いました。


「だってショコラ、そんなことしたらあなたはどうなるのよ?」


 魔女はおどろいて聞きかえします。


「私はいいんです。私はもう、たくさん歩いたから……」




 そして、数日後。

 魔女がいつものように麦わら畑のわきを、召使いのロボットと共に歩いています。


「うるさいわね、この元捨てカカシ!」

「なんだよ、元てっぱんむね!」


 それは前と後ろに二つの顔をもった、ちょっと変ったロボットでした。

 前から見ると大きな胸とやさしい顔の女のロボット。後から見ると少しおっかない男ロボットの姿をしています。

 魔女のひらめきで、二人の体を一つにしたのです。これなら材料もほとんどいりません。あまった材料でショコラは平らだった胸を大きくしてもらいました。体を差し出した、ちょっとしたご褒美ほうびです。


「あんた達、一緒になってもそれなの?」


 魔女はいつものあきれ顔。


「あうぅだぁー、きゃっきゃっ」


 一人喜ぶメディの声が、麦わら畑に遠く聞こえるのでした。

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