第壱章
第壱話
少年は山の中を駆け巡る。
草を掻き分け大地を踏み、時には木々を飛び移る。その手には銃のような物を持っている。
彼は周囲を警戒しながら進んでゆく。
彼は「何か」を探していた。
木の影、草むらに何か違和感はないか。
誰かがいた痕跡は無いか。
移動しつつ感覚を研ぎ澄ます。
そこで視界の端に映る人影。
その手に構えている銃口は彼自身に向けられていた。それ自体を視覚に捉えることは出来ても少年は何かを思考する暇は与えられなかった。その時にはその人物はすでに引き金を引き終わり彼の踏み出した足が地面に触れる直前にその弾は彼に被弾した。
「はぁああーーーーーっ!????」
被弾したのはペイント弾のようで、服には鮮やかな黄色がベッタリとついていた。
彼の名前は
「ふふーん、索敵が甘いんじゃないんですかぁ???」
先程まで
「これであたしの勝ち越しが2つかな?」
「いやいや、これで引き分けくらいだろ」
彼らがやっていたのは鬼ごっこのようなゲームだった。ただし、逃げる側にも攻撃手段があり鬼に打ち勝つというルールがある。この2人の決着がついたことによりゲームは終了したようで、先ほどまでの緊張感はどこへ行ったのか2人は互いに今回のゲーム内容について「ここはこうだった」、「ああしたほうがよかった」、「こうしていたのがすごかった」等仲良く言葉を交わしつつ移動していた。
少し開いた場所に着くと、そこには同じ制服を着た少年少女が3人いた。
それぞれペイント弾が当たっているがその色の濃さはそれぞれ違う。時間経過とともに色が褪せていく仕様になっているのだろう。
長い黒髪をふたつに結んでいる少女、
短い金髪の少年、
そして最初に2人に気がつき、声をかけたのは青い髪を2つの三つ編みにしている少年、
「へぇー今日は
「は、えっ!まじで?引き分けじゃないっけ!??」
「ほぉら、だから言ったじゃん」
「えええまじかぁ。………あー…いや、確かにそうだった…??かも………」
「かも じゃなくてそうなの!」
2人は
どうやら彼らは昼の休憩時間だったようだ。しかしこの山の中、周囲を見渡しても学校のような建物は見えない。
それでもその言葉を聞いた3人は少々焦った様子である場所に向かっていく。その先にあるのはこの国で転移門と呼ばれる物だった。
簡素なつくりのそれはその名の通り門の中をくぐると別の場所へ出る。
そう、この門が彼らの学校の敷地内へと繋がっているのだ。
転移門。なぜそんなものが成立しているのかは、この国が「妖力」を軸に発展をしたからだ。
妖力とは、この土地に古くからある生命力の源のようなもの。この土地に生まれるものはその影響を受けるため多かれ少なかれ妖力を持っている。
例えば先ほどのゲームで使用していたペイント弾も、銃に妖力を込めることで弾を撃つことができる。
被弾したときにはじけるその色は妖力によるものなので時間が経つと自然と乾く水のように消えるのだ。
このように妖力を扱う方法を妖術と呼び、それはこの国の基礎学問、妖術学として根付いている。
彼らが通っている
この学園は初等部、中等部、高等部のそれぞれ3学年づつの計9学年で構成されており、子供達は9歳になる年にある条件を満たすとこの学園への入学が決定する。それは本人や周りの意思とは関係なく、そう決まっていることだった。
しかしその入学条件は厳しく、国中から人が集まっているが生徒の総数は200名に満たないほど少ない。
その入学条件とは2つ。
ある一定の妖力量を上回ること。
または、
固有妖術が特殊であること。
妖力はとても便利な力ではあるが、それはその一定の条件を超えてしまうと人々の恐怖の対象になる。
そしてその余りある妖力はその抑え方や使い方を一歩間違えればその身だけで無く周りに被害が出る。
歳が幼い子供はある程度の道具を使う事でその力を抑えることができるが、10歳になると個人の保有している魔力量が爆発的に増え始めるため、そうはいかなくなってくるのだ。
その昔、その年になった子供達の妖力が暴発した事件が多発していた。この学園はその様な時に生まれた学園だと云われている。
実際この学園以外にも妖術学を専攻にしている学校は沢山あるが、この学園はその中でも特別であり国が支援している唯一の学園だ。
もちろん生徒達に安全を保証するため、この学園の教師陣も国の精鋭揃いである。
先程まで遊んでいた5人の少年少女はこの
彼らは午後の授業に遅れないよう、この場を後にした。
双魂伝 @p-tmtro
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