第8話夫婦は夫婦

さやかが家を出て、1年半が経つ。

さやかは、陶器販売店の雇われ店長として働いていた。

給料はかなりの額なので、一人で生活できた。ただ、離婚届が届かない事に苛立った。

再度、離婚届を渡の家に送ったが返送はない。

ある日、出勤すると、店舗のシャッターが降りていた。そこに張り紙が。

「差し押さえの為に、本店舗は閉店しました」

慌てて、さやかはオーナーの友達に電話した。

取り引き銀行の撤退で、店は差し押さえ、倒産したと言う。

また、雇われ店長だが、バイトの子に給料を渡さなければならない。

ポケットマネーで賄った。しかし、問題が。

職を失い、歳も歳だし雇う会社は探せど探せど無かった。

苦心の末、清掃のバイトを始めた。

しかし、貯蓄を切り崩して生活する身分。

生活が苦しい。

今更、旦那の渡と関係を修復しようとしても、人間として間違いだし、一人で頑張ったが、貯蓄が底をついた。

思い切って、ダメ元で旦那の渡にメールを送った。

『日曜日会えませんか?』

直ぐに返信があった。

『良いよ。15時に喫茶店ポエムで』

と送られてきた。


日曜日、15時の15分前にポエムに到着した、さやかは渡を待った。

15時きっかりに、渡は現れた。

約2年間も家を出たさやか。

だが、渡はにこにこして、さやかを見つけると、

「暑いから、店に入ろう」

と、普段通りの声だった。

渡はクリームソーダ、さやかはアイスティーを注文した。

店員がクリームソーダとアイスティーを運んで来ると、アイスクリームと格闘しながら、渡は言った。

「お前、金ねえんだろ?帰って来いよ!親戚もお前の失踪は知らない。離婚届も破いたから、まだ、夫婦。帰ってこい。オレは自炊して、多分借金こさえて帰ってくると思って、会社勤めの後、塾講師のバイトで金貯めたんだ。多分、500万円はあると思う」

さやかは、

「ごめんなさい。反省してます。借金は無いけど、また、夫婦に戻れる可能性はありますか?ズルいめちゃくちゃな女だと自覚してます」

「オレがもう少し、お前の話しを聴くべきだった。だけど、夫婦だ、戻ってこい。離婚はせんぞ」

さやかはアイスティーを一口飲んで、

「渡さん、ありがとう。来週戻ります」

「……はぁ〜、良かった。実は家事得意なんだ。掃除もしているし、自炊している。2年弱お前が居なかったが、キチンと生活している。だから、気にすんな。帰って来いよ」

「ありがとう」


2人は目を覚ました。

係員に起こされたのだ。

「いかがでしたでしたか?」

2人の頭に固定されていた、ヘルメット型の電極が離された。

渡は、

「これが、離婚シミュレーターでしたか」

と言うと係員は、

「はい、そうです。離婚の原因となるトラブルをいくつか選択して、奥様の独立のシミュレーションをしてみました」

「ねえ、渡さん、帰りましょ?」

「そうだな」

2人は離婚シミュレーター室を出た。

40代なのに、2人は手を繋ぎ帰宅した。

「やっぱり、渡さんはシミュレーションでも優しかった」

「お前は、まだ、働きたいのか?」

「うん」

「そっか」

「でも、コンビニのバイトにする」

「陶器屋の友達は?」

「全然、友達じゃ無いよ!」

「なら、コンビニバイト、頑張れ!」

「渡さん、今夜は焼き肉にしようよ」

「そうだな。ホルモン大学で食べるか?」 「うん」


2人は幸せな人生を送ったと言う。






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離婚シミュレーター 羽弦トリス @September-0919

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