第7話離婚届
渡は胃を全部摘出する手術を受けた。
だいぶ痩せたが、仕事を1年休み、再び現場復帰した。
小林医師は奇跡だと言い、月1の検査も問題は無かった。
他に転移していなかったのが、奇跡だった。
さやかは、徐々に日常に戻りホッとした。
それから、5年。
ガンの再発は無く、平穏な暮らしをしていた。
結婚して20周年記念の旅行は、韓国だった。
胃を全部摘出した渡は、チャミスルをちびちび飲みながら、カンジャンケジャンを食べて嬉しそうだった。
さやかは、焼き肉が気に入った様子。
それから、今の歳になる。
平和だった。さやかは渡になんの不満も無い。
渡もさやかに不満はない。
だが、その平和が退屈になってきた。
子供は居ない。
ペットは、熱帯魚だけだ。
20年以上結婚生活を送り、徐々に2人の心は離れて行く。
平和なのに、何か物足りない。一度、養子を育てる話しをしたが渡は反対した。
さやかは、この先が不安でしょうがない。
パートに出てみた。友人が陶器の焼き物の販売をしているので、その店のパートをしたいと、渡と相談したら、渡は賛成した。
それから、さやかはパートが楽しくてしょうが無い。
友人に次の店舗の店長にならないか?と言われて夜、渡と相談した。
渡は、
「さやか、お前は騙されている。店長が勤まるわけがない。社会は厳しい。理不尽で構成されている。今すぐパートを辞めなさい」
「どうして?何で応援してくれないの。私も社会に認められたいのよ。お願い」
「……勝手にしろっ!」
渡は自室に籠もる。さやかは、今、貯金をしていた。パート代の一部を貯金していたのだ。もう、200万円はある。ここで、店長になれば自分1人でも生きる事が出来る。
離婚を考え始めた。
さやかは渡の反対を押し切り、店長になった。
仕事が楽しい。
ある日、さやかはテーブルに離婚届を置いて家を飛び出した。
離婚届は自分の記入欄に必要事項を書き、捺印してある。
「ただいま〜」
渡が帰宅した。部屋は真っ暗。
アイツ何してんだ?パートの残業か?
明かりを付けて、缶ビールを取りに行こうとすると、テーブルの書類を目にした。
捺印してあった。
「あの馬鹿、出て行きやがったな?」
渡は離婚届をビリビリに破って、ゴミ箱に捨てた。
渡は一人暮らしが長かったので、冷蔵庫の中身で調理して、ツマミを作り缶ビールを飲んだ。
渡は反省した。何故、妻の言い分を聞かなかったのか?
それは、以前、知り合いが雇われ店長して騙されて、借金を負わされた話しを知っているからだった。ホントにさやかを心配したいたのだが、妻は出て入った。
まぁ、これも人生。
ガンで死にかけた時に、さやかに迷惑掛けたし。
でも、離婚届は破った。
いつでも、さやかが戻れる場所にしたかったからだ。
食事が終わると、シャワーを浴び、洗濯して、ベランダで洗濯物を干した。
24年ぶりの一人暮らし。
渡はじっと待つ事をした。
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