第18話
生きることがこんなに悲しいことだとは思わなかった。
二月十三日、昏睡状態の奏は目を覚ました。
他の捜査に手を付けていた牛木だが、その日は、無理矢理時間を作って奏のいる病院へと向かった。
奏はいった。
「私は、お母さんと似ているといわれることがとても嫌で、そして、実際に似ている自分も嫌でした。お母さんに似ていると家族からいわれる度に、軽蔑されている気分でした。あの時も、お父さんに言われた言葉で私はカッとなってしまい、お母さんのような行動をとってしまったのは事実です……。自分の行動が嫌になって、気が付いたら飛び降りていました……」
最後に牛木は凜について聞いた。
「お姉さんはどんな存在?」
「とても羨ましかったし、とても憎かったです。甘えていれば許される。謝っていれば許される。そんな考えが気に入らなかったです。凜は完全に私をお母さんと似せてきた。だから、私も軽蔑してやろうと、障害に関する軽蔑をずっとしていました」
「凜さん、いっていましたよ。私は今のままじゃいけない。奏さんが自分のことを一番わかっていたように、凜さんも同じく自分のことをしっかり、理解していると思います。凜さんに限らず、人それぞれ、芯がないと生きていけないと思うんです。それだけを忘れないでください」
牛木は思った。
自分自身の考えと、相手の思っていることは全くもって違うのだろう。勘違いが生じて事件が起きる。
二宮家には会話が足りなかった。ただ、それだけだ。それだけで、すれ違いが生じて、このような事件が起きてしまった。
奏はしっかりと罪を償うことにした。
そして、凜と再会した日にはしっかりと、話し合うと牛木と約束をした。
その時も凜は怯えているかもしれない。だけど、家族として受け入れ、人間として尊重する心で接してほしいと牛木はいった。
障害というのは、軽いとか重いとか関係なしに根本はどれも似ていて、状況に限らず、知らぬ間になっているものなのだろう。その割に、治すのにはかなりの時間と支えが必要だ。それだけ重くて治すのに時間が掛かることを知ってほしい。
あなたは人に信じてもらえなかったことがあるだろうか。
そんな時あなたはどうしただろう。
妄想だと受け入れたのか、現実だと主張したのか。
それで、あなたの心は満足できただろうか。
どうすればいいかわからなかったら、
その人を、じっくり観察してみればいい。
今回の事件のように、興味深い真実が眠っているかもしれない。
疑心暗鬼に生きるより、
信じて行動する勇気も大事ではないだろうか。
妄想少女の証言 有馬佐々 @tukishirosama
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