第5話 想いの行方、新たな冒険の始まり

学園祭の興奮が冷めやらぬ翌日、カイト・ウィンドソアは早朝から天文台へと向かっていた。階段を一段一段上りながら、彼の心は激しく鼓動していた。


天文台の頂上に辿り着いたカイトは、深呼吸をして周囲を見渡した。朝もやの中、学園の全景が一望できる。昨日までの喧騒が嘘のように、静寂が支配している。


「来てしまった……」


カイトは呟きながら、ポケットから小さな魔法のクリスタルを取り出した。風の翠、火の紅、氷の蒼、星の銀。四つの属性を象徴するクリスタルが、柔らかな光を放っている。


「カイト」


振り向くと、エレナ、リリア、アリシアの三人が立っていた。


「みんな、来てくれてありがとう」


カイトは緊張した面持ちで三人を見つめた。


「話というのは……」エレナが期待と不安の入り混じった表情で尋ねる。


カイトは深く息を吐き、決意を固めた。


「みんな、俺は……、旅に出ようと思う」


「え?」

「どういうこと?」

「……」


三人の反応は様々だった。


カイトは続けた。「昨日の『四季の調和』の成功で、俺たちは新しい魔法の可能性を見出した。でも、それはまだ始まりに過ぎない。もっと深く、広く魔法を学ぶ必要がある」


彼は四つのクリスタルを掲げた。


「この四つの属性の調和……、それは単なる魔法の組み合わせじゃない。自然の摂理そのものを体現しているんだ。これを極めるには、もっと世界を見る必要がある」


エレナが一歩前に出た。「でも、カイト。この学園にだって、たくさんの知識があるわ」


リリアも静かに言葉を添えた。「そうよ。私たちと一緒に研究を続ければ……」


アリシアは黙ったまま、カイトをじっと見つめている。


カイトは優しく微笑んだ。「みんなの気持ち、嬉しいよ。でも……」


彼は空を見上げた。「俺には、もっと広い世界が必要なんだ。異なる文化、異なる魔法……、それらを肌で感じ、学ばなければ、本当の調和は生まれない」


三人は黙り込んだ。カイトの決意が、彼女たちの心に響いている。


「そして……」カイトは言葉を選びながら続けた。「正直に言うと、俺は今、みんなへの気持ちを整理できていない」


エレナ、リリア、アリシアの表情が変わる。


「みんな大切な存在だ。でも、今の俺には、誰かを特別に想う資格がない。まず自分自身を見つめ直し、成長する必要がある」


静寂が流れた。朝日が昇り、学園全体を柔らかな光で包み始めている。


アリシアが静かに口を開いた。「……分かったわ、カイト」


エレナとリリアが驚いて彼女を見る。


「私には分かるの。カイトの決意が、星々の導きによるものだって」


彼女は微笑んだ。「カイト、あなたの旅は、きっと素晴らしいものになるわ」


リリアもゆっくりと頷いた。「そうね。カイトの成長を、ここで見守っていられるのは寂しいけれど……、応援するわ」


エレナは涙ぐみながらも、明るく笑った。「もう、カイトったら! でも……、それがカイトなのよね。行ってらっしゃい。そして、必ず戻ってきてね」


カイトは胸が熱くなるのを感じた。「みんな……、ありがとう」


彼は四つのクリスタルを取り出し、三人に渡した。


「これは、俺たちの絆の証だ。俺が旅で得た知識は、このクリスタルを通じて共有する。そして、いつか必ず戻ってくる。その時は……」


言葉を濁すカイトに、三人は優しく微笑んだ。


「待ってるわ」

「必ず、ね」

「星々が、あなたの無事を見守っているわ」


四人は抱き合い、別れを惜しんだ。


天文台を後にしたカイトは、学園の中庭で親友のマックスと会った。


「決心がついたようだな」


「ああ、みんなに伝えてきたよ」


マックスは満足げに頷いた。「よく言ったな。これがお前の選んだ道だ」


「マックス、ありがとう。お前がいなかったら、俺はきっと……」


「いいって」マックスが手を振る。「親友の役目ってやつさ。それより、これを持っていけ」


彼が差し出したのは、小さな魔法の通信機だった。


「いつでも連絡してこいよ。困ったことがあったら、全力で手を貸すからな」


カイトは感謝の念を込めて、マックスと固い握手を交わした。


学園の正門に向かう途中、カイトは学園長と出会った。


「カイト君、旅立つそうだね」


「はい。世界中の魔法を学び、『四季の調和』をさらに発展させたいんです」


学園長は満足げに頷いた。「素晴らしい決意だ。君たちが生み出した魔法は、まさに魔法界の革命といっていい。その可能性をさらに広げるのは、君しかいない」


カイトは真剣な表情で頷いた。


「ただし」学園長は厳しい表情を浮かべた。「魔法の研究に没頭するあまり、大切なものを見失わないように」


「大切なもの……」


「そう、君の仲間たち、そして君自身の心だ。魔法は強大な力だが、それを正しく使うには、豊かな心が必要不可欠だ」


カイトは深く頭を下げた。「肝に銘じます。必ず成長して戻ってきます」


学園長は優しく微笑んだ。「期待しているよ、カイト君」


そして遂に、旅立ちの時。


カイトは学園の正門の前に立ち、振り返った。エレナ、リリア、アリシア、マックス、そして学園長。大切な人々が、彼を見送っている。


「行ってきます!」


カイトの声が、朝もやに包まれた学園に響き渡った。

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転生したら魔法の才能でモテまくりました ツキシロ @tsukishiro10

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