第4話 学園祭の幕開け、恋の予感

ルミナス魔法学園の学園祭、その開幕の日が遂に訪れた。


早朝、カイト・ウィンドソアは緊張した面持ちで鏡の前に立っていた。学園祭用の特別な制服に袖を通しながら、彼は深呼吸を繰り返す。


「よし、行くぞ」


自分に言い聞かせるように呟き、カイトは部屋を出た。


学園の敷地に一歩踏み出した瞬間、彼は息を呑んだ。いつもの厳かな雰囲気は一変し、色とりどりの装飾や賑やかな声で溢れていた。空中に浮かぶ魔法の提灯、香り豊かな料理の屋台、様々な魔法グッズを売る露店。そして何より、世界中から集まった魔法使いたちの熱気が、空気を震わせていた。


「カイト!」


振り向くと、エレナ・ファイアブルームが駆けてくるのが見えた。彼女の赤い髪が朝日に輝いている。


「おはよう、エレナ。緊張してる?」


「ええ、でも楽しみでもあるわ。私たちの魔法、きっと成功するはず!」


彼女の情熱的な言葉に、カイトは勇気づけられた。


そこへ、優雅な足取りでリリア・フロストブルームが近づいてきた。


「おはよう、カイト、エレナ。今日という日を迎えられて、とても嬉しいわ」


彼女の落ち着いた態度が、不思議と周囲を和ませる。


「みんな、おはよう」


静かな声で挨拶したのは、アリシア・ムーンライトだった。彼女の銀色の髪が、まるで星屑のように輝いている。


「準備は整ったわ。私たちの『四季の調和』、必ず成功させましょう」


四人は互いに頷き合い、魔法ショーの会場へと向かった。


会場は既に観客で溢れかえっていた。最前列には学園長の姿も見える。カイトたちが舞台に立つと、どよめきが起こった。


「あれが噂の四属性魔法を操る天才たちか」

「風、火、氷、星……、全く異なる属性をどう調和させるんだ?」

「楽しみだな。きっと素晴らしいショーになるぞ」


観客の期待に満ちた声が聞こえてくる。カイトは深く息を吐き、仲間たちに目配せした。


「始めよう」


四人は目を閉じ、魔力を集中させる。カイトの周りに風が渦巻き始め、エレナの手から炎が立ち上る。リリアの周囲に氷の結晶が浮かび、アリシアの瞳に星の光が宿る。


そして、四つの魔法が交わった瞬間、奇跡が起こった。


春の柔らかな風に乗って桜の花びらが舞い、夏の太陽のような暖かな光が降り注ぐ。秋の紅葉が風に揺れ、冬の雪が静かに降り積もる。そして、それらすべてを包み込むように、夜空の星々が瞬いている。


観客たちは息を呑んだ。誰もが、魔法の歴史に残る瞬間を目撃していることを悟ったのだ。


そして、会場は大きな拍手と歓声に包まれた。


「素晴らしい!」

「こんな魔法見たことない!」

「魔法の新時代の幕開けだ!」


興奮冷めやらぬ観客たちの中、学園長が壇上に上がってきた。


「諸君、我々は今、魔法の歴史に新たな一ページを加える瞬間を目撃した。カイト・ウィンドソア、エレナ・ファイアブルーム、リリア・フロストブルーム、アリシア・ムーンライト。彼らの功績を讃えよう!」


再び大きな拍手が沸き起こる。カイトたちは、喜びと感動で胸がいっぱいになった。


ショーが終わり、四人は舞台裏で抱き合って喜びを分かち合った。


「やったわ、カイト! 私たち、成功したのよ!」エレナが興奮気味に叫ぶ。


「ええ、素晴らしい経験だったわ」リリアが優雅に言う。


「みんなの力が一つになった……、これこそが真の魔法……」アリシアが静かに付け加えた。


カイトは三人を見渡し、胸が熱くなるのを感じた。彼女たちとの絆が、この奇跡を生み出したのだ。


そして同時に、彼の心に、再び複雑な感情が湧き上がる。エレナの情熱的な笑顔、リリアの凛とした佇まい、アリシアの神秘的な瞳。三人それぞれに、特別な想いが湧いてくる。


「俺は……」


言葉に詰まるカイトに、三人の視線が集まる。


「カイト、どうしたの?」エレナが心配そうに尋ねる。


「あ、いや……、その……」


カイトが言葉を探していると、突然、マックス・サンダーストームが現れた。


「おい、カイト! みんな! すげえぞ、お前ら!」


マックスの大声に、カイトはほっとした表情を浮かべる。


「ほら、見てみろよ、外」


マックスに促され、カイトたちは舞台裏から外を覗いた。そこには、大勢の観客や報道陣が彼らを待ち構えていた。


「インタビューさせてください!」

「四季の調和の仕組みを教えてください!」

「今後の研究の展望は?」


質問の嵐に、カイトたちは戸惑いを隠せない。


「さあ、腹をくくれよ」マックスが背中を押す。「お前らは今や、魔法界の新星なんだからな」


カイトは深呼吸をし、仲間たちに目配せした。


「行こう、みんな。俺たちにしか語れない魔法の物語がある」


四人は互いに頷き合い、報道陣の前に姿を現した。質問に答え、魔法の解説をし、将来の展望を語る。その姿は、まさに魔法界の未来を担う若者たちそのものだった。


インタビューが一段落すると、カイトたちはようやく一息つくことができた。


「疲れたわ……、でも、充実感があるわね」エレナが笑顔で言う。


「ええ、私たちの魔法が多くの人に認められて嬉しいわ」リリアも満足げだ。


「これからが本当の勝負ね。もっと研究を重ねなきゃ」アリシアが前を見据えて言った。


カイトは三人の言葉に頷きながら、複雑な思いを抱えていた。魔法の成功、そして彼女たちとの絆。この気持ちをどう整理すればいいのか。


夜になり、学園祭は最高潮を迎えていた。カイトは屋台が並ぶ通りを歩きながら、今日一日を振り返っていた。


「カイト」


振り向くと、エレナが立っていた。彼女の瞳が、夜空の星のように輝いている。


「ちょっと……、話があるの」


彼女の真剣な表情に、カイトの心臓が高鳴る。


「カイト、私……」


エレナが言葉を続けようとした時、突然、リリアとアリシアが現れた。


「あら、お邪魔かしら?」リリアが少し意地悪そうに言う。


「いえ、大切な話があるの」アリシアも負けじと前に出る。


カイトは三人の視線を受け、動揺を隠せない。彼女たちの気持ちが、痛いほど伝わってくる。


「みんな、俺は……」


言葉に詰まるカイト。そんな彼の背中を、誰かが叩いた。


「よう、モテ男」


振り向くと、マックスが立っていた。


「お前、どうするんだ?」


マックスの真剣な眼差しに、カイトは覚悟を決めた。


「……みんな、話がある。明日の朝、天文台で待ち合わせてくれないか」


三人の少女たちは、少し驚いた表情を見せたが、すぐに頷いた。


「分かったわ」

「了解よ」

「楽しみにしているわ」


彼女たちが去った後、マックスがカイトの肩を叩いた。


「よく言ったな。後は自分の気持ちに正直になるだけだ」


カイトは夜空を見上げた。明日、彼の人生が大きく変わる……。

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