エピローグ


 あれから僕は小説家になった。


 あのとき、彼女に自分の思いを告白していたら…、そんなことを考えたところで戻ることはできない。


 『春時雨』

 

 僕のデビュー作の名前だ。

 春時雨とは、春、晴れていたのにも関わらず、急に雨が降ったり、止んだりする通り雨のことである。




 「なぜ、この言葉を題名にしたんですか」


 僕が小説家になって初めてのサイン会の日、1人の女性から質問された。

 

 「僕の人生に大きな影響を与えた人の名前が、春時雨の中に入っているからだよ」


 少し照れくさかったが、正直に答えることにした。すると、なぜだか目の前の女性の顔がみるみる赤くなっていったので、僕もなんだか恥ずかしくなってしまう。

 

 「あの…サインに、な、名前を書いてもらってもいいですか…」


 「もちろん、お受けしますよ。お名前おしえてください」


 「春野 雨です」


 




 『「」の春時雨』


 僕の春時雨は彼女との出会い、そして、別れだった。


 また、いつか、春時雨になればいい。

 

 でも、次は春時雨じゃなくて、長い長い雨がいい。

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「 」の春時雨 皐月 @hyang_rina

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