第19話 頼れる仲間

ーーー西暦202☓年8月 鎌倉市 刀鍛治工房”くろがね“ーーー


 全体的にあまり片付いていない、なんとか使用スペースだけは掃除したんだろうなという部屋で、紅蓮達”黒キ剣“の三人と、この工房の主であり紅蓮にとっては前世の親友である青年と向かい合う。


「それじゃあカシウス…じゃなかった、鉄弘が僕の剣を鍛ったんだよね?」

「ああ、そうだぜ」


 自分で淹れた緑茶を飲みながら、目つきの悪い青年━━朱郷 鉄弘すごう かねひろは頷いた。


「独り立ちした時に手慰みで作ってみた剣が巡り巡ってお前の所に辿り着くとはな…」

「これが無かったら前世むかしの記憶は戻らなくって、僕や百合子が死んでたかもだからねー…改めて、本当にありがとう」

「気にすんなっての」


 頭を下げる紅蓮に、鉄弘はひらひらと手を振って大したことでは無いと紅蓮に頭を上げさせる。


「しかし刀鍛治ですか。最近は需要が増えてなりても増えてきたと聞いてはいましたが」

「そもそもカシ…じゃない鉄弘、前世むかし”俺はスポンサーであって鍛冶屋じゃねえ“って言ってたのにねー」

「何の因果か、生まれ変わった家が刀鍛治でな。今世の親父に鍛えられたお陰で今じゃ一端の鍛冶師だぜ?」


 本人曰く、この工房は父親の弟弟子の物だったのだが、本人がダンジョン攻略で戦死して以来空き家だった物を、独り立ち祝に貰ったらしい。


「そういえば鉄弘はいつ昔の記憶が戻ったのー?」

「あー…実はよ、10年位前に親父のお得意さんの紹介でドイツの冒険者に”刀じゃなく西洋剣を作ってくれ“って依頼が来てな。しかも素材に本物の隕鉄まで持ってきてよ」

「それはまた豪勢な」

「でまあそれを手伝ってた時に思い出した訳だ。そういやどっかの馬鹿がふらっと行方不明になった挙げ句、海の果てから変なもの拾ってきたなってよ」

「酷くない!?」

「そういえばそうでしたね…”黒キ剣“の素材が欲しいからと、何で私に何も言わず海を渡って旅に出たんです?」

「ゆ、百合子!? 目が怖い!!」


 前世での事件を蒸し返された紅蓮が慌てて百合子を宥めすかし、鉄弘はいい薬だと得心しながら、改めて自分の作った武具を確認する。


「しっかしボロボロだなこの剣、よく折れなかったな」

「ギルドで毎回、修復魔術を使ってもらっていたんですが…」

「そろそろ誤魔化せないくらいダメージが蓄積してるって言われちゃったんだよねー…」


 そして件の、紅蓮が冒険者資格試験を受けた日から使い続けている長剣を見てもらったのだが、呆れと感嘆の入り混じった鉄弘のため息に紅蓮と百合子は苦笑する。


「なるほど、それでこの剣の製作者に新しい剣を鍛って欲しくてここまで来たわけだ」

「そうだよ。まさか前世むかしの知り合いだとは思わなかったけどねえ…」


 不貞腐れた銀羽がなんとも不本意そうに答える。


「よっぽど悔しかったんだねー(ヒソヒソ)」

「私達にやったのを見事にやり返された訳ですからね(ヒソヒソ)」

「むぐぅ…」


 銀羽はへそを曲げそっぽを向く。

 他人をおちょくって翻弄するのが生き甲斐の銀羽だが、その逆はお気に召さないらしい。


「あのリシャール爺さん腹黒ジジイに一泡吹かせられたってのは気分が良いな」

「そもそもよく初見で分かったよねー」

「私達、言われても最初は信じたくなかったですからね」

「いやお前ら、あのパーティー名ならある程度誰かは絞れるだろ。そっから紅蓮お前が素直に従うなんざリシャール爺さんかのおやっさん位だろ?」

「確かにねー」


 なんだかんだで前世では紅蓮グラッパ長い付き合いだった鉄弘カシウスの考察は的確ではあった。

 してやられた銀羽が本気で悔しそうにしてはいたが。


「とーもーかーく、本題に戻るよ!」

「へいへい。グラ公の武器の話だな」


 強引に自分にとって不利な話題を変更しようとする銀羽にのっかり、鉄弘は手に持っていた長剣をケースに戻して頷く。 


「結論から言うと、俺じゃあグラ公の満足する剣は鍛てねえ」

「えぇ、そんなあ!?」

「本気になったら素振りするだけで剣がへし折れる馬鹿の使う剣がそうそう鍛ててたまるか!」

「ぼ、冒険者になってからは訓練で折れてないよー!?」

「ほぅ、紅蓮。つまり君、ボクの指導の時に手を抜いてたと?」

「わぁぁ、まさかのやぶ蛇ぃ!?」

「ま、また紅蓮が難しい慣用句を!?」

「ストレートに傷つくよ!?」


 途中から紅蓮が必死に銀羽にトレーニングメニューの強化を思い止まらせようと土下座する羽目になった。


「ふーむ、紅蓮のトレーニングの為にも頑丈な剣は必須か」

「訓練の度に武器を壊すのは経済的にも安全面でも危険ですしね」

「でも鉄弘が無理って…」

「今はと言っただろうが、今はと」

「…?」


 首をかしげる紅蓮に、銀羽が補足説明を行う。


「話が見えてきたよ。つまり鉄弘、君が紅蓮に見合う名剣を創造するには、実力か素材のどちらか、あるいは両方が足りないといったところかな?」

「ああ、そうだ」


 そう言った鉄弘は、ポケットから1枚のカードを取り出す。 



 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


名前:朱郷 鉄弘すごう かねひろ

年齢:21歳

性別:♂

職業:守護者ガーディアン

技能:盾術Lv2 lv3


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 そこに記されているのは、鉄弘が冒険者であることに証明。


「冒険者はモンスターを倒すほど強くなり、その人間の適性に沿ったスキルを習得する。そして俺の場合は鍛冶だったわけだ。そして、鍛冶スキルはこのレベルになってようやく、を用いた鍛冶が可能になる」


 とはダンジョンの宝箱の褒賞やドロップアイテムとして手に入る、魔素を取り込んだ金属の総称である。

 鉄であれば魔法を帯びた剣に、銀であれば魔を防ぐ神秘の鎧へと至る基本素材であり、加工には技能による補助が必要となる。

 鍛冶や錬金等のスキルを保有する冒険者によって加工される各種武具は、現在のダンジョン攻略になくてはならない存在であり、これらの技能を有する職人は優先的に保護及び支援を受ける。


「だがまあ、今の俺は大規模に色々と受注できるほどの腕はねえ。だからまあ、腕試し兼素材確保の為にも仲間が必要な訳だが」

「よし、じゃあよろしく鉄弘!!」

「決断早いな!?」

「いやだって、元々仲間は増やす予定だったし鉄弘カシウスなら信頼できるし」

「そうかよ…で、リーダーのアンタはどうなんだ?」


 鉄弘はパーティーのリーダーである銀羽に水を向ける。

 対して銀羽は、先程までの憔悴が嘘のようなドヤ顔で無駄に豊満な胸を張る。


「構わないとも。そして追加メンバーが入ったからには、訓練メニューも変えないとね?」

「え…?」

「はい…?」

「…なに?」


 銀羽の蒼い瞳がギラリと光る。


「基礎体力はありそうだけど、どうせ力任せな戦い方してるだろ? 安心したまえ、少なくとも紅蓮の隣に立っても邪魔にならない程度に鍛えてあげよう」

「それ無茶振りって言うやつじゃねーかなぁ!?」

「いやぁ前衛にまともな盾役が来てくれて良かったよー。師匠は僕なら全部避けれるだろって容赦なくモンスターの大群に突っ込ませる予定立ててたからー……」

「ぐっ…分かったよ、やってやる!」


 こうして、やけくそ気味な鉄弘の宣言により、冒険者パーティー”黒キ剣“に4人目のメンバーが加わった。


 


 



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【第一章完結】異世界最強の英雄は、ダンジョンが発生した現代日本でも無双する〜なんか前世の嫁(超絶美女)とか師匠(TS美少女)まで転生して来てるんですけど!?〜 Recent(れむれむ) @Lay0054

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