第27話 おひとり様は最高!?
三日ぶりに家に帰った。疲れ切っていて、体が鉛のように重く、眠い。お師匠様!無事で良かったです!と明るく出迎えてくれたのはカイだった。まだ家にいたらしい。
「カイ。出ていかなかったの?」
「行きませんよ!お師匠様のことを待ってました!」
なんてけなげな愛犬……じゃなくてカイだろう。一瞬、昔、屋敷で飼っていた大好きだった犬を思いだしたが、それは言わないでおこう。
「とりあえず疲れているから、休むわ」
「イグニスさんは!?」
「家で大人しくしてるんじゃないかしら?」
きっとすごーく怒られて、しばらくは外出禁止になってるだろう。
「そういえば、お師匠様に宛に荷物が届いてましたよ」
ハイ、コレ。とカイがくれた宅配便。
「こっ!これはっ!!」
私の目が見開いた。
「中身はなんですか?」
「化粧品なのよ!肌に吸い込む水分量が半端ない化粧水でしょ。あと、煌めくパールのような肌になれるファンデーション。今年の売れ行きNO1なのよね。使うの楽しみぃ!」
「化粧品でしたかって……これ納品書おちま……えええええ!?こんな値段するんですかー!?」
あ、納品書落としちゃった。ヒラリと落ちた紙を拾い、手に取ったカイがその目に入った数字に絶叫した。
「美しくなるためには、お金に糸目はつけちゃダメなのよ。肌の手入れは貯金みたいなものよ。未来の自分に投資してるの!」
「なに言ってるんですか!自作の薬草で、化粧水でも作ってくださいよ。これ一瓶で一ヶ月の食費になります!」
「ちょうど、寝不足と疲れで肌が荒れていたからよかったわー」
「話を聞いてくださーいっ!」
私はスルリとかわして箱を持って自室へ引きこもる。楽しみが来てて良かったわ。じゃなきゃ気分が落ちたままになるところだった。
ゆーっくりお肌の手入れタイムしよーっと!
パッケージをあけて、瓶を鏡台に並べる。フッと息を吐く。鏡の向こうに映る私の姿が揺らぐ。
王様とした取り引きを思い出し、反芻する。
セレネは私のことを即刻処刑してほしかったようで、陛下の処断に納得していなかった。王様の声が頭に響く。セレネには聞こえないように私だけに話したことだった。
命を助けてあげるね。そのかわり、地と風と空の愛し子を探してよ。死にたくないよね?
なぜ私なのですか?
君なら探せる気がしたんだよね。王の直感。
逃げるなら君の命はもらう。必死で探してよ。
――イグニスに愛されて幸せになりたいならね。
その言葉に私の胸はドクンと重い鼓動を打つ。表情に出すなと頭が命じた。それは危険だと。
君の本心はわかってるよ。火の愛し子が好きなんだよね。
私は答えなかった。声が出なかった。
ただ、その時思ったことは一つだった。イグニスに、このことは決して言えない。陛下とのやりとりは絶対に漏らしてはいけない。怒りで城を燃やし尽くすだろう。また公爵家から飛び出して、私と一緒に探すと言い出すかもしれない。
5年という短いか長いかわからない時間を私は一人で秘密を抱えて生きていく。できるかしら。
鏡台の前の揺らぎは消えて、私、一人が映し出された。
……良いわ。しんどくなったら、いつでもナハトが私を食べてくれると言ったもの。紫色の目をした魔族は私のことをずっと待っている。最期は処刑よりもそっちのほうがいいかもしれないわ。
謹慎がとけたのか、それとも抜け出したのか、後日イグニスがやってきて案の定、心配して探ってきたが、私はいつも通りに言った。日常となっている言葉を放つ。
「おひとり様が最高で最強なのよ!皆、家から出ていきなさいよー!私が愛してるのは時間、自由、お金なのよ!」
そう言ったのだった。
おひとりさまの魔女生活 カエデネコ @nekokaede
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