共有写真

押見五六三

全1話

「あれ? こんな写真いつ撮ったっけ?」


 皆様もスマホのフォトファイルを整理している時、一度はそう思った経験がございませんか?

 私はずぼらな性格なもんで、撮った写真をフォルダにも移さず、ずっと放置したままだから本当にこれがよくあるんですよね。

 正直五年以上もスマホの中に眠ったままの写真も沢山あって、外食した時に美味しそうだから記念に撮った写真なのに、見返しても店の名前を思い出せないという実に残念な事を恥ずかしながら繰り返しております。


 そんな放置写真も日付とかを見たら大概は何の時の写真かを思い返す事ができるのですが、中にはどうしても思い出せない不可解な写真が残っている事もあるんですよね。

 どう考えても自分はこんなシチュエーションの写真を撮影した覚えはないし、画像を他のサイトからダウンロードをした記憶もない……なのにその見知らぬ写真は、スマホの中に保存されている。

 理由が分からないと、ちょっと気味が悪いですよね。

 もしかしたら、この写真は………と、いらぬ想像を掻き立ててしまいます。



 これは私の知人のAさんから聞いた、そんな身に覚えがないのにスマホの中に保存されていた写真のお話です……。



 この、今からお話しするAさんも、私と一緒で面倒くさがりの機械音痴なもんですから、スマホで撮った写真は整理もせずに放置するタイプだったそうです。


 ある日、Aさんは数年前から愛用しているスマホの容量がいっぱいに成ってきたので、流石に写真を整理しようと思い立ちました。

 その日は休日で時間に余裕があったからか、ずっと眠っていた画像を一枚一枚調べ、要らない写真を削除したり、フォルダーに移動させたりをじっくり行なっていたそうです。

 年末大掃除の時に見つけた古い漫画を読み漁るかのように、Aさんは過去に撮影した写真に夢中になっては、「ああ、あの時はこうだったな」とか「この時は楽しかったなあ」と、笑顔で呟きながら懐しんでいたそうな。


 そんな中、ギャラリーの中に覚えのないアルバムを見つけたそうです。

 そのアルバムを覗くと……。


 __木造の古い建物が建ち並んだ写真。

 __あぜ道にお地蔵さんが並んだ写真。

 __薄暗い山の中を写した写真。


 などなど、どうやら山里らしき場所で撮影された物ばかりだったそうです。


 タイトルが無いので何の時の写真かが分からず、Aさんは思い出す為にスクロールして一枚一枚をしっかり確認していったのですが、写真はどれも人物が一切写っていない風景写真ばかりだったそうで、手掛かりが全く掴めなく途方に暮れたとのこと。

 同日に撮影されたと思しき三十枚以上の写真。一枚二枚ならともかく、どれを見ても何も思い出せない事にAさんは段々と苛立ちを覚え、やがてそれは疑問に変わっていったそうです。


「いくらど忘れがひどい俺でも、一枚も内容が思い出せないなんて有り得ない」


 こうなると何かその写真の存在自体が、得体のしれない気味の悪い物のように思えてきたそうです。

 それはきっと、人はおろか生物が何も写ってない、無機質で、どこか淋しげな写真ばかりだったからかも知れませんね。


 やがてAさんはそんな淋しげな写真達の中に、大きな神社の入口を写したものを一枚発見しました。

 その写真には神社の名前がはっきりと写っており、それが有名な神社だったので、その写真が何県で撮った写真なのかは分かったそうです。

 写真の撮影場所は分かったのですが、謎は更に深まりました。

 何故ならAさんはその県に生まれてこの方一度も訪れた事がなかったからです。


 撮影アングルから見ても写真は明らかに素人が写したように思えるので、その写真がスマホに最初から内蔵されたプリセット画像のはずはない。

 Aさんには息子さんが居られるので、最初息子さんが悪戯して画像をダウンロードしたとか、誤って動画をスクリーンショットをしてしまったとかも考えてみましたが、息子さんは三歳に成ったばかりなので流石にまだそんな事ができる年齢ではないと、この考えも却下されました。

 奥さんに聞いても覚えはなく、ウイルスに感染したのではないかと心配してくれたそうです。


 自分の推察では埒が明かず、そこでAさんは友人に相談したのですが、その友人は「共有写真ではないか?」と、返してくれたそうです。

 友人の話によると、アプリを利用した共有写真なら、共有相手から知らぬ間に送信された物が、そのままスマホの中に保存される事もあるとのこと。

 Aさんは家族の誰ともそんなアプリを使った写真共有なんかしていないと、最初はこれを不定したのですが、ふと五年前に別れた元カノの事が頭に浮かんだそうです。

 そうなんです。Aさんはその元カノとアプリを通して写真を共有していた時期が確かに有ったそうなんです。

 その元カノさんとは彼女の転勤を境に喧嘩ばかりするように成って破局しました。

 その一年後にAさんは今の奥さんと付き合って直ぐに結婚したそうです。

 元カノさんとは別れてから一回も連絡をとってなかったので、すっかり共有写真の事は忘れていたのだとか。


 Aさんは写真の真相が気に成ってモヤモヤしていた為、奥さんには悪いと思いながらも黙って元カノさんに連絡をとりました。

 元カノさんはAさんからの電話に最初ビックリしたそうですが、写真の事を話すと笑いながら「確かに五年前、その神社がある街に観光に行ったわよ」と、答えてくれたそうです。


 Aさんは得体のしれない写真の正体が分かり、その時は胸をホッと撫で下ろしました。


 礼を言い、あれからお互いが今は幸せだと報告し合ってから電話を切ったAさん。

 削除する前にその元カノさんが撮った写真をもう一度一枚一枚眺めはじめたそうです。

 そういえば転勤前に旅行をすると言っていたから、その時の写真なんだと思って、感慨深く写真を見ていったそうな。

 Aさんは元カノさんとの思い出を重ねて懐しんでいたのですが、ふと又新たな疑問が頭をよぎりました。


「あの共有アプリ……アンイストールしたのに、何で写真は残ったままだったんだろ? というか、この観光写真だけ保存されてるってのは可怪しくないか? だって他の写真が残ってたら、あいつとの共有写真だと、俺は直ぐに思い出せたんだから……」


 そう呟きながら写真をスクロールしていると、一枚の写真がAさんの目に留まります。

 その写真は例の神社の手水舎がある場所の写真でした。

 そして、その写真の端には野球帽を被った少年が、笑いながら立っていたそうです。

 

「あれ? さっき見た時、こんな写真あったっけ?」


 Aさんは、その帽子を被る少年にすごく違和感を感じました。

 なんせ、その少年の被る帽子の球団ロゴマークは、かなりデザインが古く、昭和頃のデザインの物だったからです。

 勿論その野球帽が復刻版という可能性も有るのですが、その少年の服装全体が、何だか古い年代の出で立ちに思えたそうなんです。


 Aさんは何か底知れぬ不安感に襲われ、慌ててもう一度元カノさんに電話し、その少年の事を聞きました。

 すると彼女はこう返してきたそうです……。


「野球帽を被った男の子? そんな男の子写ってないはずよ。だって、あの時近くに居たのは、私と私の友達だけだもん」



「そうよ。神社の前で撮った集合写真があるでしょ? 旅行は私を含めたその女友達五人で行ってたのよ」


「…………」


 Aさんはもう一度神社の入口を写した写真を見ました。

 勿論、彼女も、彼女の言う友達も写っていません。

 でも、確かによく見ると五人写っていてもおかしくないスペースが、ポッカリと真ん中に空いていたそうです……。



 先日、Aさんに写真についてその後どうなったのかを聞いたのですが、「あれは元カノが別れた腹いせに俺をビビらせようとした悪戯だったんですよ。AIを使って人物だけ消した写真を転送してきてたんです。野球帽の少年もAIで作った偽造写真だったんですよ」と、言ってました。


 確かに今のAIの技術ならそれも可能なんでしょうが、果たして……真相は放置したまま闇の中です……。


【おしまい】

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