『エビ、襲来。』

ニボシん

エビ、襲来。

 恐怖とは、唐突に襲ってくるものである。エビが、海から陸へ這い上がって来た。


 エビは本来、えら呼吸である。そのため、陸上に上がると酸素を取り込むことができず、ほどなくして死んでしまう。しかし、ある時エビの中で肺呼吸のできる個体が生まれた。突然変異である。その個体は水中ではむしろ息をするのが苦しく、海から陸へやってきた。そしてその個体に続くように1匹、2匹と突然変異を起こしたエビが生まれ、続々と陸へと登ってきた。陸にやってきたエビたちは初め歩行になれず、足取りはたどたどしかった。ところが、しばらくするとワサワサとある10本足が発達してきた。陸に登ってしばらくすると、カサカサと素早く動くことができるようになった。


 エビは陸上生物をじっくりと観察した。すると、羽を伸ばしてバサバサと自由に空中を舞う生き物が多くいることを、確認した。エビたちは、自分たちも飛びたいと思うようになった。そしてしばらくの時は流れ、エビたちの背中に羽が生え出した。初めは一瞬体を浮かす程度のものであった。しかし、しばらくすると羽の強度は増し、扱いも器用になってきた。やがてエビはバサバサと自由に空を飛べるようになった。


 エビが陸に上がり、羽を生やすなど凄まじい進化を遂げていると同時に、繁殖も盛んに行われた。進化したエビたちは陸上でみるみる個体数を増やし、一大勢力となった。


 しばらくは海岸付近で暮らしていたエビたちであったが、もっと世界を知りたいと思うようになってきた。エビたちはそれぞれグループを作り、各々思う方へと飛翔していった。


 エビたちは群れを作ってたくさん旅をした。バサバサと羽を広げ、空を飛んだ。しかし、慣れないことをしたからだろうか、すぐに腹が減った。エビたちは美味しそうな匂いがする地帯に降り立った。降り立った先には丸々としてたわわな果実があった。お腹が空いていたエビたちはワサワサと群がり、果実をムシャムシャ食べ出した。するとエビたちは、これまで感じたことのない大きな音波をキャッチした。しかしどうやらエビたちには害のない音波であるようだった。加えて、エビたちはお腹が空いてしかたなかった。だから特に気にせず食べ続けた。



 エビたちがとらえた音波とは、人間の悲鳴であった。エビが陸に上がり世界中で甚大な被害を出していると、世界各国で大々的に報道された。またその際にエビが空をバサバサと飛ぶ姿が鮮明に報道された。人々は恐怖した。今までこんなやつらを我々は食っていたのか、と気分が悪くなるものもいた。海にいたから気にせず食べていたけれど、陸に上がって素早くカサカサと動き、挙句空まで飛ばれてしまったら…虫、いや、虫以上に気持ちが悪い。これがほとんどの人々の総意であった。エビが自由に動き回る姿は気持ち悪く、吐き気がして、恐ろしかった。初めのうちは。


 しかし恐ろしかったのは、実は人間であった。人々はあんなに気持ち悪がっていたエビにだんだん慣れてきた。たくさん報道されたことにより、見慣れてしまったのである。それと同時に空を飛ぶエビたちを大量捕獲し、食用として出荷する人々も多く出てきた。実際食べてみると普通のエビと味は大差なかった。だから、エビを捕食することでエビからの被害を防ぎ、かつ美味しくいただけるという一石二鳥的な状況を、人類は実現した。もっと恐ろしいことに、人間は空飛ぶエビをキッカケとして、虫に対して耐性がついてきた。虫をあまり気持ち悪いと思わなくなってきた。元来虫は栄養価が高く、食材として優れていると以前から言われていたが、気持ち悪さが先行して流行ることはなかった。しかし、人類はエビで虫の気持ち悪さを克服してしまった。人間たちは虫、特に害虫を次々と捕食していき、虫食グルメの分野をここ数年で一気に築き上げてしまった。エビ、襲来。それは人類を素晴らしく、恐ろしい進化へとさらに引き上げてしまった。

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『エビ、襲来。』 ニボシん @niboshin

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