第15話

プリクラを撮り落書きを終えた後、少しぎこちない空気感のままゲームセンターを後にした。


「……」


「……」


きまずぅぅ!!

お互いに何を話し出せばいいかわからなくなってるあの空気じゃん!

成り行きで2人で遊んだけどあんまり波長合わなくて翌日から学校で会っても少し気まずくなる特有の空気感が漂ってますよー!

でも…不思議と嫌ではないんだよな。

相手が木藤ということもあるが、ただ気まずいだけというわけではなく、何かこう…心地いい気まずさというか…


俺はまた変なこと考えはじめてるな。


自分自身で何考えてるかわからなくなっていると木藤が口を開いた。


「次はどこ行くの?」


そうだった。

俺は明日の真白とのデートに備えてプランの評価と実践経験を積ませてもらっている最中だった。

であれば、論破されるまでは最強で無敵のプランだったものを吟味してもらう必要がある。


「あぁ、次はデザートを食べにカフェに行く」


「デザートって?」


「パンケーキなんだが…」


「パンケーキ…!」


途端に木藤が目を輝かせ始めた。

どうやらパンケーキは正解だったらしい。

さすが知恵袋さん、女子はパンケーキをこの上なく愛する生き物という情報は本当だったらしい。


「あぁ、何でも分厚いパンケーキに色とりどりのフルーツと繊細な生クリームがたっぷり乗っている逸品らしい」


「でも…そんなに食べたら太っちゃうかも…」


ファミレスで信じられない量を平らげたあなたがそれを言うんですか。

まぁ、ダイエットしてるって言ってたしな。

俺は悲しそうな顔をする木藤に一言だけ伝えた。


「低脂質で太りづらいらしい」


「早く行く、案内して北方」


「木藤さーん、案内するのはいいけど先に行かないでー、あと逆方向ですよ」


木藤は足取りを止めて何事もなかったかのようにこちらに戻ってくる。

気持ちはわかるからな、ここは察してやろう。


「よし、行くか」


◇■◇


俺たちはカフェに向かった。

ゲームセンターからそう離れたところでもなかったためすぐに到着した。

店内は緑を基調としたウッドなデザインで普通にカフェと比べて開放感がある。


席に案内されてからメニューを開き、反対側に座る女の子は傍目からでもわかるくらいに目を輝かせている。


パンケーキってマジですごいな。


注文をしてしばらくしてからパンケーキが来た。

とてつもないフルーツと生クリームの量が目に飛び込んでくる。

これが太らないとか絶対嘘だろ…


そう思いふと木藤を見ると目がスペシウム光線と同等かそれに近いレベルで輝いていた。

なんて目だ、濁りが全くねぇ…!


そしてパンケーキを頬張っている木藤からレビューの時間が来た。


「このカフェはいいわね、インテリアは開放的で窮屈な感じしないし、特にパンケーキに低脂質クリームを使ってくれているところが実は体型を気にしてる女の子にも足を運ばせやすい」


「おぉ、ゲームセンターのときと比べて大絶賛だな」


「ゲームセンターはマジないから…ちょっとだけ楽しかったけど…」


「そうですかい、ゲームセンターは考え直さないとだな」


ゲームセンターがダメならゲームショップか?

いや、ベタで行くなら家でゲーム…いや、デートなのにそれはないか。


思考を巡らせる俺を見て、少し呆れる木藤は再度質問を投げかける。


「ちなみにこの後のプランは?」


「まぁそう焦るな、俺のデートプランが気になるのはわかるが」


「うざ」


あぁ、この感じだ。

この言葉なんかにできない、何とも居心地のいい空気感。


その後、俺と木藤はカフェで色々な話をした。

新しいクラスの雰囲気、お互いのクセ、優也の面白エピソード。

お互いからかって、笑って、少し怒られて、そんなかけがえのない時間を過ごしていた。


ただ、この時の俺は気づけなかった。

この居心地の良さが、鎖となってしまっていたことに。



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「幼馴染でも許嫁でもライバルでもない学園のマドンナとラブコメする話」 @Soma1120

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