第14話

俺は今、駅で待ち合わせをしている。

今日は木藤にデートの何たるかをレクチャーしてもらう日だ。

明日は真白とのデートがあるが、実践経験のない俺はプランを立てたところで焦って右往左往して終わるという木藤の予想を元に実践形式で経験を積むという策に出た。

木藤の言う通り、自分中で一番オシャレと思える服を着てきた。

ネットでトレンドを調べて似た服を集めただけだが…


「暑いなぁ…春だよな?」


外はかんかん照りの快晴。

春なのにも関わらず、雲一つ無いせいか夏のような暑さがそこにはある。

まぁ、夏になったらこれより暑くなるのはわかっているが、冬を明けた我々人類は急な環境変化に弱いのだ。

それは暑さ以外にも言えることだが…


そんなことを考えていると来た道から遠目からでもわかる黒髪で白いワンピースを着こなしたとても透明感がある女性がこちらに向かって歩いてくる。

いや、厳格に言えば俺に向かってるわけでは無いのだろうが、思春期でラブコメ好きな俺からしたら妄想が止まらんのだ。

あぁ、あういう人とお付き合いできる人ってどんな人なんだろう。

一気に現実に戻された俺は空を仰ぐ。


「北方」


「へ?」


「何よ、その反応」


「お前…木藤か…?」


「当たり前でしょ、じゃなきゃ話しかけないわよ」


木藤は少し恥ずかしそうに下を向く。

俺に向かってた黒髪白ワンピース美少女がまさかの木藤だった。

いつもと髪型も違い、少しカールがかった髪がお団子のようにまとめられており、そこには見たことがある金色の髪留めがあった。

え、可愛すぎんか。

俺、いまからこの人とデートの練習するの?


普段友達として見ていた分、このような感情を抱くことに慣れておらず少し気恥ずかしくなってきた。

視線を戻すと変わらず下を向く木藤。

とりあえずこの空気を何とかせねば…


「その髪留め、懐かしいな」


「覚えてだんだ」


「そりゃあ、俺があげたやつだしな」


「そっ、じゃあ早く行こ。最初はどこに行くの?」


お手本のような話の戻し方に感動している場合じゃ無いな。

俺のプランを木藤に見てもらわないと。


「あぁ、最初はそこに行く」


俺は自信満々にすぐそこにある施設を指差す。


「…ゲームセンター?」


◇■◇


駅から歩いてすぐそこにあるゲームセンターに到着した。


「涼しいなぁ…生き返る」


「生き返って早々申し訳ないんだけど、ここで何やるの?」


木藤が質問を投げかけてくる。

俺は胸を張って堂々と宣言した。


「UFOキャッチャーででかいぬいぐるみを獲得してプレゼントする」


「……」


どうした木藤?

そんな口を開けたままにしてもアーンしてあげられないぞ。


「…あんたマジで言ってる?」


「超マジ」


「却下」


なぜだ木藤。

ラブコメにおいてゲームセンターでぬいぐるみを取るのは定番中の定番。

ここから始まる恋だってあるんだぞ。


「…理由を聞こうか」


「まずゲームセンターってとこ、音が大きすぎてゆったり会話もできない」


「うぐっ…」


「あとUFOキャッチャー、取ってもらえたら嬉しいけど今時のUFOキャッチャーはテクニック云々とかでどうにかなるレベルを超えてる。取れなかった時の気まずさを考えるとなし」


「うぐぐっ…」


「あとタイミング。話も盛り上がっていて、偶然そこにあったから入るならわかるけど、初手ゲームセンターは勝負に出過ぎて論外」


「ぐはぁ!!」


もうやめて木藤!

北方のライフはゼロよ、もう勝負はついたのよ!


「まぁ、北方のプランに任せるって言ったのはあたしだからね…とりあえず楽しもう」


「遅いぞ木藤、もう遅すぎる」


初手ゲームセンターが論破されてからプランの全てに疑心暗鬼になってきた。

やっぱり現実はラブコメのようにはいかないのか…

すっかり自信を無くした俺は静かに項垂れる。

そんな俺をよそに木藤は違うところに視線を向けていた。

あれって…プリクラ?

そう言えば少女漫画ではよく見たことあるものだがラブコメだとあんまり見なかったな。


「よし、撮るか」


「え?」


戸惑う木藤をおいてプリクラに足を運び、硬貨を投入する。


「北方、あんた急すぎ。プリクラなんてそれこそ良い感じの空気になった時に撮るのが一番い…」


「撮りたくないか?」


木藤は面を食らったような顔をして下を向く。

そのままもじもじした後そっと顔を上げた。


「…撮りたい」


「よし、撮るか!」


そういえば優也や木藤とプリクラなんて撮ったことなかったな。

いや、そもそもプリクラなんて使ったことないからそういえばもないな。

でも、勘違いかもしれないが、木藤は撮りたがってる気がした。

たまにはこういうのもいいだろう。


「よし、準備できた。あとは任せたぞ木藤」


「え?」


「使い方とかわからんからな、撮った後のレクチャー頼む」


「はぁ、しょうがないわね」


少し会話を挟むとアナウンスが流れはじめた。

俺は緊張でぎこちないピースをしており、撮り終わる頃には木藤はどんなポーズしているかみる余裕など無かった。


覚えていなくていい、忘れたことにしよう。


今まで見たことのないような笑顔が見れたことも。


そして…


その表情を俺以外に見せてほしくないと思ってしまった自分の気持ちを。


【更新について】

仕事が忙しくなり、更新頻度が少し落ちてしまい申し訳ございません。

次回は日曜日までには投稿する予定です。

引き続き応援よろしくお願いします。

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