第13話

「デ、デートって…」


「あぁ、木藤ならデートの時どこいきたいかを知っておきたくてな」


「…ひぇ!?何でそんなこと知りたいのよ…」


どうしたんだ木藤、様子がおかしいぞ?

いつもと違う反応を見せる木藤を他所に俺は続ける。


「日曜日に真白と出かけることになってな、なにも考えずに誘ったからどこいくか何も考えてないんだ」


「………」


「どうしたんだ木藤?」


「…いや、なんでもない」


やっぱりなにか違和感がある気がする。

そこが今は一番引っかかるがとりあえず本題を伝えなくては。


「だから、今時の女の子は何したいかを、今時の女の子の木藤に教えてもらいたい」


「…いやだ」


「そこをどうにか…」


「…10分だけ考えさせて」


木藤はそう言うと電話を切った。

まぁ、今まで3人でいる時にそんな流行りとか今時の女の子の話とかしてこなかったからな、そういう一面を見られるのが恥ずかしいのかもしれない。


外はすっかり暗くなり、街灯が夜の住宅街を仄かに照らす。

喧騒とした空気感から静寂に戻してくれるこの時間帯が一番落ち着く。

リラックスした俺は再びかかってくるかもわからない木藤からの連絡を待つことにした。


〜30分後〜

…だめかぁ…!

一向に木藤からの連絡が返ってこない。

10分って言ってたのにひどいわよねぇ!

その瞬間、机の上にあるスマホが激しく揺れる。


「もしもし、起きてる?」


「ずいぶん長いアディショナルタイムだったな」


「不満なら教えなくてもいいんだけど」


「この時間が俺を成長させてくれた、大満足だ木藤さま」


「ん、それならよし」


危ないところだったぜ。

ここからは発言に気をつけないといけない、どこに地雷があるかわからないが。

しかし、なんで嫌がるんだ木藤よ。


「あんた明日何やってんの?」


「明日は一日中寝っ転がる予定が一応ある」


「ないわね、じゃあ明日10時に駅前集合」


「あ、あぁ。いいんだが、どうして駅前なんだ?」


「デートプラン考えて欲しいって言ってたじゃない」


「だから謎なんだよ」


「あのね…今まで碌にデートもしたことない奴がいきなりプラン聞いて実行できるわけないでしょ」


盲点だった。

そうだ、俺デートしたことないじゃん。

プランなんか練ったところでグダグダになって終わる可能性の方が高い。

木藤にはお見通しってわけか。


「さすがだ木藤、そこは盲点だった」


「だから…明日練習するわよ」


「なんの?」


「デートの」


なるほどそういうことか。

俺がデートをしたことないことを見越して、真白とのデートをする前に木藤とデートの練習をするってことか。

こいつ天才すぎるな。


「木藤さん、何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」


「とりあえず明日はあんたが一番いけてると思う服を着てきなさい、それと明日のプランもちゃんと考えてきなさい」


「はい!」


「それじゃあ寝るから、おやすみ」


「木藤」


「なに?」


「ありがとな」


「…ん、おやすみ」


電話が切れるとベットに倒れ込む。

あいつがいてくれてよかった。

明日どこ出かけるかちゃんと考えとかないとな。

俺は再びスマホを手に取り駅周辺の施設を探し始める。


◇■◇


嫌いだ。

あんなやつ大嫌いだ。

私は枕を何度もベットに叩きつける。


人の気も知らないで、無神経なお願いしてきやがって。

誰が喜んでデートの手伝いなんかするのよ。

あんな無神経鈍感冴えないバカアホボケナスなんか大嫌い。


でも…


私には何も出来なかった。

アプローチもしてない、いつも仏頂面で素直になれないやつがうまく行くわけがない。

『現実はラブコメとは違う』

あの言葉が今になって胸にしこりを作る。


「…好きだなぁ…」


この時の私はただポタポタと落ちる雫を眺めることしか出来なかった。

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