第4話
とうに王様による乾杯は終わり、俺が入った時にはパーティーが始まっていた。
「ベルナール殿、ようこそお越しくださいました。どうぞパーティーをお楽しみください。」
会場で初めに出迎えてくれたのは少し背の低い、白髪に老人姿の貴族(役の級友)だった。
(花江さんから教えてもらった。この人は…)
「お久しぶりです、ミルド伯爵。お会いできて光栄ですよ。」
「ええ、こちらこそ。あぁそれでは、心ゆくまで、ごゆっくり。」
助かった。事前に花江さんに人物設定を聞いといてよかった。
そう胸を撫で下ろして食べ物を取り分けていると、視線の先にまさかの人物を見つけて思わず表情を崩しそうになった。
(えっ…あれは後藤!?チンピラ役だったんじゃねぇのか!?)
その時、俺の様子を察してか、先生の天の声が。
『一人何役もできるんだよ。あの子は演技が苦手だから、モブとして何度も出演してもらうことにしたんだ』
…そういうことかよ。
じゃあとりあえず、好青年の印象を植え付けるためにヒロイン様にお目見えするとしようかな。
そうしてほかの貴族の女性(役)に混じって緊張した面持(の演技をしてる)日芽…フィーアの元へ行く。
「あ、あらベルナール様。ごきげんよう。」
「こんばんはマドモアゼル。今宵は良い夜ですね。」
そういいながら、俺はフィーアの手に口付け(のマネ)をする。
…演技だから、演技だからこれは。恥ずくない。
「ベルナール様、こちらのワインを」
「ありがとうございます。お優しいのですねえ。この後一緒に…」
「いえ、お断りします。今日はキルフ王子を見に来ているので。」
気丈だなフィーア。
「ふふふ…。そのように断られるのは初めてです…。ご安心を。冗談です。」
そう微笑みかけてやると、
「まぁ、フィーア!勿体ないわねえ。」
「せっかくのお誘いを…。一途ねえ。」
周りの人がフィーアをからかう。
すると、
「あっ、キルフ様!ご機嫌麗しゅう…」
フィーアの元に遠野…キルフ王子がやってきた。
「おやおや、これはこれはキルフ王子。」
「…ベルナール。」
王子は俺を睨みつけた。
「?キルフ王子?」
不思議そうな顔のフィーアを抱き寄せて、王子は依然こちらを睨む。
「胡散臭い奴だ。お前もあんまり近づかない方がいいぞ、町娘。」
言ってくれるじゃねえの。格好良いなりしやがってこの野郎。
「これは王子、ご冗談を。」
「私は昔からお前が苦手なんだ。その飄々とした態度がな。」
「おやおや、嫌われたものですね。それでは私はあなたがたの前から、ひとまず今宵は消えましょう。」
そう言い残して燕尾を翻して、会場の人混みに消える。あとは2人が何とかするだろ。
会場から出ると、使用人…花江さんが待っててくれた。
「…成功した?」
「お陰様でね。ありがとうな。」
「うん。お役に立てたのなら、何よりだよ。」
「花江さんは、これから出番?」
「うん。女王様を会場に連れていくの。」
「そっか。頑張ってね。俺は部屋に戻って、悪巧みでもしておくよ。」
「そっか、じゃあね。次会うときは…何のシーンかな。」
「さあ、フィーアを誑かすつもりだし、そんな辺りかな。」
「あはは…」
花江さんと別れ、部屋に行く途中。
『まって黒谷。独り言をお願い。』
カメラが現れ、天の声が響く。
…そういえばこれって、誰が操作しているんだろう?
『フィーアを気に入った感じで、お願いね?』
指示に従って、薄笑いを浮かべて呟く。
「…フィーアか。くっふふ…本当に面白いですねぇ。」
***
そうしてパーティーのシーンはつつがなく撮影が終わったらしい。しばらくは、物陰で笑ったりフィーアに声をかけるシーンばかりだ。
城下町や宮殿内でフィーアに誘いをかけては断られ、キルフに追い返されるのを繰り返すうちに本当にベルナールはフィーアを手に入れようとし始める。そして…。
「ベルナール様、何か考えごとでも?」
「うるさい、少し待っていろ。」
会議室でベルナールに異変が出始める。
「…ああ、すみません。少し疲れが溜まっていたようです。先程の失言、謹んでお詫び申し上げます。」
「いや、別に良いですが…。」
「あのベルナール殿が言葉を荒らげるとは、余程の心労とお見受けしますぞ。」
「左様。ゆっくり休むがいい。」
「…そうですね。少し失礼します。」
そうほかの貴族に告げて部屋を出る。
そして悔しそうな顔を作り、
「私をここまで梃子摺らせるとは…フィーア…必ず手に入れて、破滅させてやる…!」
最大限の似合わないセリフを吐いた。
カメラが離れ、廊下を歩いていると、女王と精霊にあった。紗枝と…確か、美村だ。元バレークラブの。
「お疲れ、春音。」
「おう、紗枝、美村。」
「お疲れ様!私のことは別に下の名前でいいよ。あっ、ちなみに一応…響ね。美村 響。」
3年一緒の級友のフルネームくらい、さすがに覚えてるけど…。
「そっか。じゃあお疲れ、響。」
美村の顔が赤くなる。
「そっか響ちゃん、春音のこと…。」
「わーっ!何も言わないで!聞かなかったことにして!いいよね!?」
…えっ?
「まだ行ってないじゃーん。…止められなかったら言うつもりだったけど。」
「黒谷くんは何も聞いてない、いいよね?」
えっ…あっ…
「良くなーい。ブーブー」
「紗枝ちゃんは黙ってて!…もう…」
えっ?いや、これって…実質告は…
「とーにーかーくー!ベルナール役頑張ってね!似合ってるよー!」
「ヒュー、女たらしだねえ。それじゃあ頑張ってね、ベ ル ナ ー ル 様 ?」
「あっ…」
2人とも行ってしまった…。
「この先演技に集中できるかな…」
その後20分ほど、その場から動けなかった。
バッドエンドは似合わない ずんださくら @Zunsaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。バッドエンドは似合わないの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます