第3話

「おお…すごい…」

宮殿の中は、とても煌びやかだった。

「ここでしばらく生活するのか…。貴族らしく振る舞わないとなあ…。」

そう、これは演劇なのだ。体感時間は超長いけど。とはいえ、外に出れば1時間と経っていないらしいし、保護者の同意も貰った。思う存分演じられるぞ!

とは言うものの、貴族の振る舞い方なんて知らないし…。世界史の勉強、しとくべきだったかな。

受験には使わないけど…


そう思いながら宮殿の廊下を進むと…。

ブウウウン…

ドローンのような目立つ飛行体が接近してくる。

(あれが「カメラ」ってとこか…。)

つまり、最初の出番がやってきたのだ。


『黒谷、聞こえるかな?もう映ってるから、声は出さないでね。歩きながら聞いて。』

道野先生の声だ。どうやら個々人に語りかけれるらしい。

『とりあえず今撮影してるシーンはベルナール登場のシーンだ。堂々と、黙って3階突き当たりの部屋まで歩いてくれ。』

なるほど。ナレーションでも入るのか?多分、資料用のシーンかな。

『今、日芽さん…フィーアがキルフに一目惚れシーンを撮り終わったところだ。君には彼らの恋路を邪魔してもらう。だがこの演劇の目的は私のインスピレーションを掻き立てることだ。だから、ここまで詳しい指示はしない。恋路を邪魔して捕まって処刑されてくれ。』

酷い指示だ。まあ、ちょっとくらいやりすぎちゃっても同意の上だし大丈夫だろう。


そうして指示された部屋まで着くと、カメラが離れていった。ワンシーン撮影終了の合図だ。

「息が詰まる…。」


その時。

コンコンコン…とドアが叩かれた。

「黒谷くん?もういるかな?ちょっと入ってもいい?あっ、カメラはいないから。」

この声は…花江さんか。端っこの席でいつも本を読んでる文学少女だ。

「いいよ。」

「し、失礼しまーす…。」

彼女はお手伝いさんの格好だった。俺と違って、比較的元の姿と似ている。

「黒谷くん、すごい格好だね…。顔は…化粧?」

「うん…まあね…そんなとこ…」

俺の歯切れがこんなに悪いのは道野先生に言われた言葉のせいだ。

『処刑される悪役なんて誰もやりたがらないからお前に頼んだけど、悪役顔じゃないなあ…顔はそんな変えられんし(識別のため)、化粧させようか』

道野先生って結構俺に厳しくないかな。授業寝てた覚えは無…そんなに無いんだけど。


「次、パーティーのシーンだから。始まるまで、ここで待機させて欲しいの。ベルナールが最後に堂々と入ってきた方が面白そうだし…。」

「いいよ。ついでにお喋りでもして暇を潰そうか?」

「あっうん!でも、改まると何喋っていいか分からないけど…」

の割に、結構喋ってるけどね。ていうか花江さん、そういえばおしゃべり文学少女って呼ばれてたな。弱気そうなのに、意外。

「うーんそうだな話題…そうだ、他の人は見た?役柄的に、あんま人と会ってないんだけど…。」

「あっ、見たよ!ガラの悪い人役の後藤くんがフィーアを突き飛ばして、キルフ王子に窘められてた!かっこよかったな〜。カメラが行ったあと、後藤くんめっちゃ花恋ちゃんに謝ってたよ〜。あとは女王様と王様が王子を出迎えるシーン!」

「あぁ、女王は確か紗枝だったな。王様は…。」

「水野くんだよ!図書委員一緒だから仲良いけど、流石に老人メイクばっちばちだったよ。紗枝ちゃんは綺麗な貴婦人!って感じで…って、ちょっと熱くなりすぎちゃった…。ごめんね。」

「ああいや、今どんなシーンかの情報を得る手段は先生かおしゃべりしかないから…。」

一応、重要な伏線とかセリフは共有されるらしいけど。


そうして花江さんと喋っていると、鐘の音が鳴った。

ゴーン…ゴーン…

「あっ、合図だね!黒谷くん、案内するよ!」

「おっ、おっけ。」

部屋を出て、会場のホールへ向かう。

部屋もだけど、やっぱり廊下の装飾がすごい。

「堂々としててね。貴族っぽい感じで王様たちと喋るんだよ。」

花江さんが忠告してくれる。

「理解っておる。貴族らしく、堂々と、であろう?こんな感じか?」

ベルナールを演じてみると…。

「解釈不一致がすごい。」

怒られてしまった。

「ベルナールは若い貴族の役だから、である口調の尊大な態度より物腰柔らかな敬語の方が似合ってる。あと仕草!背筋を伸ばして。フィーアに会ったら手に口付けして挨拶。真似でもいいから。それ以外には、こう。こんな感じでお辞儀ね。おっさん臭くなったり、庶民っぽくなったりするのはあんまり好きじゃないから、若くて優しそうな、でもどこか怪しい貴族を崩さないで」

今日一喋るなこの子。

「わ、分かった。」

「"分かりました。"」

「わ……理解りました。」

「よし。じゃあホールまではその口調でね。」

どうやら合格は貰えたようだ。いや、反応を見る限りはギリ及第点…てとこか?

「はい…。しかしメイドさん、キャラクターへの愛が凄いですね。」

「まあ、伊達に図書委員やってないので…。文系を舐めないでくださいな。」

花江さんも役になりきってるようだ。

そうして花江さんによるベルナールのキャラ作りレッスンが終わり、ホールに着いた。


「二度目の出番ですね。」

「はい!頑張ってくださいな。」

ブウウウン…。

カメラが回った。

花江さんの言ってた通りに重い扉を開け、

堂々と、貴族らしく服を靡かせてホールに足を踏み入れた。


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