幽霊な憂鬱な恋愛事情

@kodukikentarou

第1話

幽霊な憂鬱な恋愛事情

その日、片思いだった女子が死んだ。

難病にかかっていたそうだ。

それを隠して学校では気丈に振舞っていた。

俺は、俺は・・・。

何とも言い難い絶望感を抱いた。

幼稚園から中学に上がった今まで、その思いを心の奥に、最下層迄押し込み遠くから見ていた。

その人は、俺の友達、三笠純一に恋をしていた。

純一は何でもできる、パーフェクト人間だ。

社交的で、スポーツ、勉強、それだけでなく、容姿端麗。

天才だ。

何もかも与えられた、神にも仏にも愛された男である。

一方俺は身長こそ高かったが、それだけ。

学業全て下の下。

とても太刀打ちできない。

だから身を退いた。

美男美女のカップルは最強である。

運命である。

それを捻じ曲げては天罰をくらうだろう。

いいのだ、それでいいのだ。

好きな人が幸せになってくれたら本懐と言う所である。

そう思っていた矢先である。

幸せを確立したが半ばで運命の悪戯で命を落としたその人の名は・・・。

葬式の時、記帳し、袈裟から香典を取るとその中にそっとラブレターを差し入れて、その場を

後にした。

その人の名は笹谷洋子。

「あー、暑いなぁ・・・」

あれから早3ヶ月。

夏。

夜、深夜。

冷房をつけて寝返りを打つ。

視線を感じる。

瞼を開く。

視線が交わる。

そこには・・・。

あ、暑さで呆けてるのか。

死んだはずの笹谷さんがこちらを見ている。

暑さで脳みそが煮え立ってしまったのだろう。

逆方向に寝返り。

ひょこ。

・・・

「ぎぃやああああああああ!?悪霊退散悪霊退散!?」

その絶叫は家中に響き渡る。

非常警報より凄まじい、オペラ級の大音量。

それは、近所の家の壁すら突き抜け、ご近所迷惑確定だった、いやそれより、今、目の前の

は・・・

その目の前にいる色白で清楚な感じがそのまんまの笹谷(?)さんなのだ。

いや。

死んで天国に逝ったはず。

それが目の前に確かにいる。

是が幻覚って奴か。

嗚呼、未だ壁に向かってブツブツ言う人になりたくない。

明日精神科行こ。

そこにその絶叫に駆け付けた

「アニキ、何があった!?」

妹、花林が部屋をノック・・・しないで開ける。

説明しようにも俺は未だ頭の中ごちゃごちゃ。

しかし、この状況を何とか説明を、弁解を。

「さ、さ、さ、笹谷さんが・・・!」

花林は首を傾げ、再び目を胡乱とさせて

「何だ、寝惚けて絶叫したのか・・・たく、明日おかんに説教してもらえ」

それだけ言うと部屋から出ていく。

おかんは銀座で会員制クラブを経営しており、2時くらいにしか帰ってはこないのだ。

花林が自室に戻って行った後、シン・・・と静寂が訪れる。

悪夢だ。

是は悪夢だ。

ノンレム睡眠って奴だ、多分。

「ねぇ?紀太君・・・?」

花林の気配が完全に消えた所でひょっこり顔を出す笹谷。

幻聴迄聞こえてくる。

是はいよいよヤバい。

今からでも救急で精神科かかろうかな・・・。

自分にとっては色っぽい言葉。

幻覚ではあっても、長年片思いだった女子が耳元で囁いてくるのだ。

余りの事で脂汗が出てくる。

冷房を少し強くして、布団に頭まで潜る。

布団の上から視線を感じる。

なんなんだよ・・・?

お前にとって俺はその他のモブだったんだろ?

三笠が好きだったんだろ?

俺なんかの所じゃなくて三笠に行けばいいだろ?

「ラブレター・・・」

拙い言葉を並べた物がなんだって?

笹谷、お前は学年上位の成績だったんだろ?

文章力もあったんだろ?

もうほっといてくれ、思い出は綺麗なまま、憧れはその内消え去るのだろうから。

「そうもいかないんだよ」

若い女の声。

笹谷の物とは違う。

俺は布団から顔を出し、そいつを見た。

黒いスーツ姿の女が椅子に腰かけている。

それはそれ、事情を知りたい。

知ったところで何する訳ではないが・・・。

「お前の思い出が強すぎたんだ、今この時、過去の時。お前が彼女を(憧れ)と言う鎖で縛っ

てあの世に行けないんだよ、止めはあのラブレター、あれを読んだ洋子が近くにこんなに思っ

ていた人がいた、と後悔の念に苛まれてる」

だったら・・・。

「燃やしてくれ、あれは自分の女々しさで書いた駄文、一生の後悔だ」

気にしなくていい。

俺なんかは誇れる運動神経も、学力も・・・持っていない。

本当に誇れる事がないのか?

笹谷に告白する勇気が無かった。

その代わりと言って打ち込める物を見つけ、思いをそれにぶつけ続け、鬱憤晴らしと言ってい

いのかは分からないがそれに多分類している事をしている。

結果、唯一それだけが突出して一芸になったモノはあるが。

その他は凡の下の下。

「お前には一杯の何故か癒しの気が流れてる。友人もそれなりに大かろう?」

多いちゃあ多いが・・・。

威張れるものではない。

腐れ縁、悪友。

小学校高学年の時、色々問題を起こしたものだ。

今となってはいい思い出。

だからこそ、だ。

笹谷への思いは思い出にしてしまおうと思っている。

都合がよい、この臆病者め、卑怯者!

そう罵られても構わない。

俺には笹谷さんに告白するだけのステータスなんて無かったのだ。

だから、だから・・・。

告白するチャンスなんて幾つもあった。

だが、言葉を飲み込みその場から力の限りの全力疾走で逃げる。

分からないだろう?

高嶺の花に手を伸ばす勇気等ない。

俺の親友の三笠。

笹谷は全てを持った三笠に恋心を持っていた。

ああ、そうだよ、嫉妬したよ、泣き言も夜な夜な呪文の様に口に出していたよ。

恋文だって何回書いた?

百余書いて、全て自分で自分に腹が立って、納得いく内容を書けなくて破った。

そして思ったのだ、そう、それでいい。

身分不相応の俺には視線を合わせる事すら許されない。

なら・・・もう関係ない・・・寝てしまえ。

ピンポーン。

それは昼にリビングにいた俺の耳に届く。

眠い。

変な夢を見たからだろう。

笹谷さんに書いたラブレター。

あんな物で靡いてくれるような人じゃ無い筈。

中学生でピアノの全国大会で賞を総なめしているうえ、華聯な立ち振る舞い。

プライドが高いと・・・思う。

あの夢はどこか記憶の彼方に蹴り飛ばしておこう。

余りの事に今朝、ストレスで朝食のチーズトーストが喉を通らなかった。

神様も残酷だ。

あんな悪夢を見せるのだから。

ピーンーポーン。

喧しい、オカンは未だ寝ているであろうが、妹の花林が代わりに・・・あ、今思い出した。

ウォーターパーク・・・言わばプールに行くと聞いていた。

渋々クーラーの効いたこの部屋から匍匐前進で玄関まで行く。

意味は無い。

只、クーラーの効いたリビングからこの困難なミッションを体現してみたかっただけである。

めっさ暇やな、俺。

玄関に着き、よいせと立ち上がり。玄関を開ける。

「はい?どちら様?」

三途運輸と書かれた帽子を被った、如何にも配達員だなと分かる色白・・・いや、青白い。

下手したら倒れるんちゃうか?って思う程。

「三途運送ですー・・・お荷物お届けに参りました」

死にそうな、いや、ゾンビじゃね?って思うような声。

大丈夫だろうか?

このくそ暑い太陽の日光で成仏しそうである。

俺はドアチェーンを外し、ドアを全開にする。

届いたのは送り主不明の巨大な木箱。

ご丁寧に松脂が塗られ、その高級感に若干身構える。

御託並べず取り合えず開ける。

釘は使われておらず、その代わり閂でキッチリ閉められていた。

開ける。

ありえない物が入っていた。

それを見て、取り合えず、閉める。

あー、疲れてるんだな、俺。

牛乳もう一杯飲んで寝よう。

ゴソゴソ・・・。

でっかい箱から何やら物音。

多分幻聴だ。

精神病院の救急外来で診てもらった方がいいかもしれない。

決心した所で目の前の箱が開く。

そして中から出てきたそれは

「河辺・・・君よね?」

「断じて違います、お帰り下さい」

それは幻覚だろう、幻覚であって欲しい、と言うか、幻覚だ!

只、頭の中でそう言い聞かせる。

混乱、してはいる。

冷静を保てるか?

何故そこまで追い詰められているのかと言うと・・・

人の顔をじっと覗き込まれる。

それは、俺の初恋の相手であり、トラウマの人物。

そして病に倒れた薄命で儚げの少女。

そう、一糸まとわぬ笹谷洋子がそこに立っていた。

俺は能面面で徐に携帯をポケットから取り出すと119に電話する。

電話口の男性が

「事件ですか、救急ですか?」

と尋ねてきたので

「救急です。精神病にかかったみたいです」

笹谷(?)は俺の頭にチョップをかましてきた。

ガス!

くらった所からシュウシュウと擬音が立ちそうなチョップ。

それをくらって何事もなかったかのように・・・

バタッ!

リビング。

夏の西日は厳しい。

遮光カーテンの隙間から侵入してくる太陽の暑くて眩しい光。

蝉時雨は落ち着き、時計の秒針の音だけが響く。

テーブルに置いてある時計を見ると、それなりの時間。

ヤバい、オカン起こさねえと。

うちのオカンは誰よりも早く仕事場に行き、生け花等を整え、上流階級の人々を持て成す。

それより、昼間のアレ、夢かぁ・・・良かった良かった・・・!?

誰かの、柔らくて、いい匂いのする膝枕。

悪夢が続くのか・・・?

人の顔を覗き込んでくる。

もう諦める事にする。

その人は確かにそこにいて、いや定し続ける事は最早不可能である。

偏屈か、頭がダイヤモンドヘッドの如く硬い人なら、未だ何かにつけてこの状態を論破しよう

とするだろうが、俺はそこまで頭は固くない。

なので

「笹谷さん?何で俺の家にいるんよ?」

目の前にいるのは何もかも俺の憧れの人。

そう、今日、夢に出てきた笹谷さんそのもの。

しかし疑問がある。

何で俺の所に?

三笠の所に行けば・・・。

そうすれば再び絶対的に光を失わない金剛石の様なカップルが復活するであろうに。

今一納得のいかない表情をしていたのであろう、笹谷さんが

「何で河辺君の家に来たか?でしょ?」

的を射た。

是で答えが出る。

その答えは既に何時もの商売服を着て、もう仕事モードに入っていたオカンが出す。

「それねー、私のクラブに来てた笹谷博士の頼みなのよ。お金を投資する代わりに成功したら

うちの家政婦さんとして住み込みでバイトするって条件付きで」

んで、オカンの商売服の和装を着ていると。

疑問2。

それは・・・。

「クローン?サイボーグ?」

生身なのか機械なのか?

「脳以外はサイボーグ。でも人っぽいでしょ?」

人っぽい・・・って言えば人っぽいけど・・・。

プニ・・・。

笹谷さんの頬を突く。

うん、人間っぽい。

いや、人間だろう、としか形容する言葉が無い。

そう言えば、もう1人忘れているような・・・?

「自力で思い出すのは誉れの極みかな?」

黒スーツにネクタイの女。

何故かこの女には信頼を置ける気がしない。

まるで薄氷の様な、かと言ってそれは脆くない物で覆われた、そんな存在感が滲み出ている。

無表情、まるで仮面をかぶっているかの様。

そいつが

「このサイボーグ、コード・ファーストドール、は国家機密に準じて作られた」

そないでっか。

でも疑問が残る。

「昨夜、思いが強すぎるだの、癒しの気があるだの・・・」

そんなスピリチュアル的な事を言われた。

はっきり覚えている。

俺の思いが強すぎて成仏できない?

俺の友人達の事も言っていた様な?

釈然としない。

訝しんでいると女はその問いに対して

「化けて出てくる、掻い摘んで言えば」

さいでっか。

幽霊やらUFO等々、まぁ、いるんじゃね?程度しか信じてはいない。

なので急にオカルトを出されると、訝しむのが当然の流れではないだろうか?

「その際、お前の友人達に迄危険が及ぶかもしれない」

巻き添えにはしたかぁない。

俺の一方的な好意のせいで友人達に危害が及ぶのは不本意である。

やはり、あの恋文は自分の懐に入れて墓迄持っていけばよかったと、今更ながらに思う。

事は思ったよりも深刻、なのであろうか?

「そこで私達の出番だ。警視庁公安部公安0課、心霊事件を扱っている」

ますます訝しい。

本当にそんな部署が存在するのだろうか?

怪しい宗教かなぁ?

電波で脳みそ蕩けてるだろうな、暑いし。

「中二病女子・・・かぁ」

俺はポツリと口に出す。

プチん。

「何と言った?このクソガキ・・・」

あ、煽っちゃった。

沸点低いなぁ。

「一度、痛い目を・・・?」

殴り掛かろうとしたこの女を止めたのは、笹谷。

俺は懐から30センチほどの長さの扇子を持っていた。

是で十分。

「何で止めた?」

不服そうに女は笹谷を睨む。

笹谷は笹谷で何と言えばいいか、一旦口を閉ざし

「河辺君はね、座学はからっきしだけど、若くして剣道、居合の上段者よ?現に割り箸で戦お

うとしてたでしょ」

手の内明かすなよな。

で、内内言うとそこら辺に転がってる雑魚だけどな。

その割、打ち込み過ぎて座学はズタボロ。

赤点常習犯だ。

俺の友人達は言う。

脳筋と。

いや定できない所が我ながら落ち込む。

是だけが取り柄と言う取り柄。

昔、じっちゃんの道着姿がかっこよくて教えを乞うと、快く承諾してくれた。

地獄の様な教えだったが、今、改めてを考えると身に染みつき、それなりに強くなったかもし

れない。

欲を言えば、もっと強く、貪欲に強さを求める、求め続ける。

その師であるじっちゃんも亡くなり、自己流で特訓で更に強さを求め続ける。

ピーンポーン。

インターホンが鳴る。

「かわー、麦茶くれー」

本当に喉が渇いているのだろう。

声がガラガラのかさの声が聞こえる。

しょうがねぇなあ。

俺は玄関に向かい、鍵を開けると同時に4人の見慣れた顔、

三笠、中田、司馬、五領。

男4人組、俺含めると5人。

パーフェクト人間、三笠、脳筋熱血野球青年、中田、座学は山を張れば万事解決、司馬、可も

なく不可もなく、平たい人間、五領。

是に俺を加えると学校5行馬鹿。

其れより干からびそうな声で来たので俺は麦茶とグラスを4つ、倒れていた男衆4人に渡す。

其れを一気飲みして

「ぷはー、生き返るー!」

取り合えず汗臭い。

密集性の高い玄関だけに臭いがこもるのだ。

是をいい匂いと言う変人もいるが、そこは、変わった嗜好を持っているで・・・済まされない

か。

蒸れまくった靴下の臭い、シャツに染み込んだ汗の臭い。

激臭である。

世界一臭いであろう、シュールストレミングの臭いにも負けない。

正直、目が痛くなってきた。

「誰かしら・・・!?」

笹谷は三笠を見ると一寸バツが悪そうに

「みか・・・」

呼ばれる前に三笠は笹谷に周りの目を気にせずに抱き着く。

そして今までの怠そうな、死人、亡者の様な様相だったのに反応が早かった。

「ほー、笹谷博士がねぇ」

ズズー。

「日本の技術ってそこまでいってたんだなぁ」

ズルルル・・・。

司馬と五領がストローで汚いメロディーを奏でる。

ボコ。

俺はこんな不協和音オーケストラ等聞きたかぁないので、頭を小突く。

「・・・コーラ所望」

どの口がほざくか。

麦茶で十分。

しかし、そんな冗談は脱線して銀河の彼方にやって置いて、何だろう、このギクシャクした空

気は?

それは次の同時に口を開く事で分かった。

「俺と付き合って下さい!」

どうやら後に聞くに、ラブレターを笹谷に渡し、返事待ちだったそうだ。

その答えが返ってくる前に笹谷は病に倒れ、この世から去ってしまった、が!笹谷博士のサイ

ボーグ化が成功し、答えを聞く機会が奇跡的にできたのだ。

行幸?

違う。

ここからは付け焼刃的な知識だが、サイボーグの検証は膨大なデーターで、何千、何万も

の・・・いや、天文学的な数値に裏打ちされている。

どこか一つでもバグがあれば成功どころか日の目を見る事すらなかった訳で。

兎も角、笹谷のサイボーグが今目の前にいる。

今、男子4人から一斉に告白された笹谷は戸惑う素振りはない。

この中では、確定事項であり定めである、これ以外は異論を唱える事は愚の骨頂とこき下ろさ

れるだろう。

ここまで言えば最早説明は要らないであろう。

そう三笠である。

当然確実。

退陣するのが花道。

五領が

「あ、俺、オカンに買い物頼まれてた、高麗人参だったかなぁ」

いや、それは無理な理由だろ。

言った本人も無理難題と気付き、もう引っ込みがつかないと悟り八方塞に脂汗をかきまくり、

「では!サラダバー!」

一発芸かまして、すべって投げて脱兎のごとく走り去った。

畜生、微妙な空気を作りやがって。

中田が

「野球、そう野球― !」

奇声を上げやはり特攻する前に敵前逃亡。

やはり、と言うより、場の空気を混ぜっ返し更に何とも言えない空気を作って逃げる。

残された司馬、俺、そして勝確の三笠。

もーれつに逃げたい。

あの限りのない、地平線の彼方迄。

残酷なのは、敗者必然の闘いなのに勝者の決まった奴とどうするかと。

からくり時計が無機質な音楽を奏でる。

「ご飯、できてるけど?」

いや、胃に何か入れたら吐きそう。

第一、大好きな人と食卓を囲みたいだろう。

夫婦水入らずで。

結婚してないが。

同類語になるが水を差すのは気が引ける。

なので

「米粒一粒飲み込めないな。三笠と食ってくれ」

その言葉に笹谷が、ムっとして

「何よ?皆可笑しいわよ?腫れ物に触るような・・・」

しらばっくれて、いや、白々しい。

少々イラっと来るが新婚はこんな物だろうと、言葉を引っ込め

「夏の課題やって・・・」

ギュ!

俺の手を握る華奢で白磁器でできているかのような、柔らかみはあれ、人の物だとは思わない。

そう思う事で心の中で区切りができる。

俺は未だそうでもしなければ、溢れてしまいそうな思いがある事に気が付き、自己嫌悪する。

手を振り解き

「あー、アレだ、夏バテだ」

勿論嘘八百。

暑いが、もう盆を過ぎており、風が時折心地よく感じる。

蝉達も夏と言う舞台から降りて、その役目を終え屍となる。

そう、夏が終わる。

青春の何の変哲もない平凡な、時間だけが溶けて絵具になり夏と言う物に秋の色をつけるが如

、過ぎていく・・・筈だった。

その日、その日を彩る絵具は笹谷がきて全て黒一色になったのだ。

何で家に来た?

そりゃ、おかんがへそくりから金出したというのは第一の因しだろうが、倫理的にどうなのだ

ろうかと。

サイボーグとは言え、中身は未だ中学一年の女子。

最早犯罪の匂いしかしない。

それだったら相性のいい、罪を擦り付ける訳ではないが三笠の家であろう。

三笠の家も資産家の家でおかんとどっこいどっこいの良家である。

笹谷博士は何を考えてうちに送って来たのだろうか?

不可解極まりない。

頭のいい人々は変人が多いのだろう、と思う。

平民に理解出来ないのが天才なのだろう。

卑屈ばかり言っていてもしょうがない。

それは分かっている。

しかし、是しか自分を守れない。

考えがまとまらん。

笹谷がクスっと笑う。

そして

「河辺君、何か難しい事考えてると眉間にしわが寄るの直らないね」

額をグリグリ。

俺達、学校5行馬鹿、そして笹谷さんは皆、幼馴染なのである。

皆顔馴染み、しかし、三笠と笹谷さんは異次元の存在で、良い意味で別の優れた生き物ではな

いだろうか?と思う事がしばしば。

笹谷さんは額グリグリを止めない。

いい加減摩擦熱で痛くなってきた。

やってる本人はサイボーグだからいいが、こっちは生身。

低温火傷すると思う。

俺は逃げる様に後ろに3歩下がり

「俺はな、むしろ祝福してるんだ」

その言葉に

「あ、そうだな!めでたいから花でも買ってくる!」

司馬・・・お前も俺を残して逃亡するか。

後で・・・ああ、ダメか、司馬の奴、ド級Mだから。

司馬が逃げた後

「祝福?生き返った・・・は語弊があるかも。それとこれと・・・」

じゃあ、ストレートに回りくどくなく言ってやろう。

「三笠とカップルなんだから三笠とイチャイチャしてればいいだろ!?」

俺らしくもない。

語尾を荒げるなんて。

だが、今までの蟠りを全て吐き出したのか、すっとした。

こんなに爽快になるのなら、ずっと前から吐き出せばよかった。

暫く口が閉まらなかった笹谷さん。

三笠も突然指名で反応に困っている様だが、それも事実を突かれたからであろう。

「何よ・・・?それ?」

「しらばっくれんな。笹谷さん、ずっと三笠に恋慕してたんだろ?」

暫く間が開く。

虚無の時間。

夏の夕方の匂いがする西日が射す。

それは何故か熱くなく、むしろ暖かい。

次に出された三笠の言葉を聞くまでは。

「俺の方から告白して返事待ちだぞ?」

「は?だって、完璧超人三笠と絶世の美少女笹谷って究極のカップルって界隈じゃ有名だっ

て・・・」

黙って聞いていた笹谷が

「私はね・・・!」

俺を抱き寄せ、

チュ・・・。

嘘、だろ・・・現実か?甘い夢を見てるのか?

十秒程だろう。

甘い、いや、味はしない筈なのだが、味覚が幻の味を作り出しているのであろうか?

笹谷は、プハッと離れ

「私ね、幼稚園の頃、河辺君の家にお邪魔して、我武者羅に剣道の竹刀を振ってるのがかっこ

よく映って・・・」

薄っすらだが覚えている。

子供の時から、剣の才能が無いと言われ、こんちくしょうとばかりに竹刀を振った思い出だ。

粗方いい具合に疲れた所に笹谷さんが来ていると知らされ、驚き半分、嬉しさ半分で渡り廊下

を駆け、長い縁側に行くと、そっと出されていたみたらし団子を食べている所だった。

あれは確か、中秋の名月の出ていた日だったろうか?

笹谷さんの白い肌を月の光が照らしていた。

俳句人なら一句詠むのだろうが、俺にはそんな頭は無かった為、

「横、いい?」

笹谷さんはコクンと頷いてちょっと横にずれてくれる。

縁側に射す月の光は何もかもを見通していて、でもそれに答える勇気までは流石にくれず、時

は残酷に進み、笹谷さんは何も言わず帰って行った。

幼かった俺は何かを言えばよかった、とは考え付かず、笹谷さんの背中を見送る。

後悔?

そんなものは度胸のある奴だけすればいい。

俺にはそんな物、持ち合わせる程、勇気も度胸も無かった。

さて、すっかり蚊帳の外の公安の姉ちゃんと、ニヤニヤと笑うおかん。

三笠は

「まーそうだろ。県の大会の時だって俺に、河辺君の好きな食べ物って何!?って聞いてきた

しなぁ」

その言葉は耳に入ってこない。

何故なら

「・・・何か来るな?」

ぼそりと呟くと俺は腰から扇子。

公安の姉ちゃんはメリケンサックを着ける。

それと同時に其処に現れたのはニュっと黒い、人間の様でそうじゃない。

形容し難いものが現れた。

直感で捉えた、コイツは危険だ、と。

それだけ分かればいい。

俺は猪一で体制を未だ整え切れて無いのであろう、黒い物体の首に扇子を叩き込む。

ピシッ!

その扇子が悲鳴を上げた。

そんな馬鹿な・・・!?黒檀の特注品だぞ!

「ほーう?確かに筋はいいな。只、普通の武器じゃ、霊には効かねぇぞ」

軽くステップを踏み

「ボディーブローはお好みかな!?」

メキ・・・。

公安姉ちゃんの拳が突き刺さる。

霊は体を苦の字にして引き下がる。

そして

「かわな・・・なべ・・・キキキ・・・す・・・」

声が、そして姿が・・・

「さ、笹谷さん!?」

そう、笹谷さん。

だが既に笹谷さんはいる訳で、瓜二つの笹谷さんが現れ動揺する。

しかし、怪我などしている様子はなく、少し安心した。

普通、黒檀で首なんか引っ叩いたら最悪、死に至る。

これは・・・如何するべきか?

敵と見なせば俺も・・・。

頭では分かっている。

是は笹谷さんじゃないと。

俺は先程の一撃でヒビの入った黒檀の扇子を机に放り投げて、腰に差していたもう一本の、黒

檀の・・・こちらは松のが描かれその上に漆の塗ってある、如何にも高級です、の扇子を構え

る。

黒檀なのに松が描かれているのは若干滑稽だがそれでもめでたいので、滅多に使わない。

下手したらまた折られるかもしれないのだが、そんなもん、関係等無い。

許せないのだ。

目の前の意味の分からぬモノが笹谷の霊だと言う事が。

そして、成仏出来なかったのが俺の卑屈で最後に恋文なんて物、稚拙な物を送ったせいだと言

う事に。

笹谷の霊は体制を立て直すと

「か、か・・・べ、すすす・・・」

俺に飛び掛かって来た。

身構えたが、何か違う。

是は・・・

「か、わ・・・なべくん・・・わたしも・・・すき・・・でした」

俺に体を預け、消えそうな声で、最後の告白。

俺は・・・何やってたんだ?

嫉妬に卑屈に、妬み続けて今日、何時しか笹谷との間に地獄の溶岩猛る深い谷?天空を割るよ

うな高い山?を作っていた。

それが、無くなった。

俺はもう少し勇気があれば、と目から涙を、とめどない涙を流す。

それを見て

「わたし、かわなべくんのこと・・・すきでよかった・・・すきでいさせてくれて・・・あり

がとう・・・」

口が合った瞬間から笹谷の霊は無数の光の粒となって消えていく。

「俺も・・・笹谷が好きでよかった・・・ありがとう、なんてありきたりか」

「全く・・・俺等は噛ませ犬かよ」

田中がケンタッキーの骨なしを食べている。

家の家訓にめでたい時は美味い物を食べる、と言うのがある。

だが、納得いかないのが

「ん?私が何で未だいるのかって?そりゃ美味い物があればご相伴に預かりたいじゃないか」

がめつ!?

おかんは迎えのロールスロイスに乗って出勤していった。

花林はソファーで爆睡。

して、置いて、公安の姉ちゃんが

「河辺、だったかな?お前、相当腕が立つな。こういっちゃ何だが、今0課は人手不足でな。

そこでスカウトだ。公安0課で働かないか?」

いや、あの・・・。

「俺、中学生なんだけど?」

しかも、上がりたて。

是から楽しい学生ライフを送る予定。

とは言っても、相も変わらず幼馴染達とつるみ悪巧みする算段。

それよりも・・・。

「夏が楽しくて忘れていた時限爆弾・・・そう、中学生。そして夏、学生を桃源郷から亡者が

徘徊する底なし沼に叩き落す物・・・」

アレか。

アレが全国の学生を苦しめる。

正攻法ではアレは攻略困難。

どんな策士でも頭を抱えるアレ。

それは・・・

「課題・・・まだやって無かったの?」

笹谷が呆れ顔。

いや、夏は遊びたいやん。

サマーバケーションと洒落こみたいやん。

中学生の夏は3回しかないんだぞ!

それを踏みにじる事は誰も・・・

「先生に怒られるよ?」

火を見るより確か過ぎて、男5人、乾いた笑いしか出ない。

後3日しかねえやん。

終わっている課題は3分の1にも満たない。

「特攻・・・しかねぇな」

覚悟を決めた。

中一で初めての夏はある意味、しょっぱい夏で幕を下ろしそうだ。

そこに助け舟。

「私が口利きしたら、課題無しにできるぞ?」

ふ、甘いな。

それ如きで、俺を売る様な“真“友じゃないぞ。

甘かった。

田中、司馬、五領が俺を公安の姉ちゃんに突き出し下さりやがりました。

おおい、友情が課題一つで崩れる・・・。

ジュース一本で買収されてたな、こいつ等。

何年前かは忘れたが、ぼんやり思い出す。

未だ小学生低学年の時だったので何だったかは鮮明には思い出せない。

兎にも角にも、三笠以外はジュース貰って俺を突き出した。

前例の事を記憶の隅に置いていた俺が悪い。

笹谷が

「河辺君!もう9時だよ!」

頭をお玉でグリグリされて目が覚める。

「うーん、後30秒」

え?何で秒?

それは何時間、何分より聞こえがいい、と俺なりの分析である。

こうやって睡眠時間を小刻みに増やしていく作戦だ。

「三笠君達、家に帰っちゃったわよ!」

むぅ。

あいつ等め、徹夜桃鉄で疲れ果てて絨毯の上でくたばった筈。

何処にエネルギーを残してたやら。

ま、ごねてても仕方ね。

起きるべや。

寝巻から着替えて来る。

しかし不思議。

外着の引き出しが軽くなっていた。

嫌な予感。

リビングで朝ごはんを作ってくれている笹谷が

「意外とノーマル、純愛物のR18だったわね」

あのね、いやね、ほらね。

弁解の余地無しと悟った俺は観念してだんまりを決め込もうとしたが、笹谷が

「前、河辺君のお母さんから聞いたけど、麦味噌の味噌汁飲んでるんだ?」

特に如何わしい、思春期の・・・これ以上は傷口に塩か・・・。

それを悟っているらしく、笹谷は何も言わないで話題をそちらに持って行かなかった・・・の

で一つ安心していたのだが、不意に

「したくなったら夜伽くらい付き合うよ?」

無表情、いや、若干頬を赤らめている。

俺はずずずっと豆腐の味噌汁を飲んでいたのだがブハっと噴き出す。

昨日今日の仲では無いのだが・・・かと言って・・・ねぇ・・・?

オカン曰く、昔は仲よく風呂に入っていたそう。

昔と今を比べるのは若干不徳であるが、今、笹谷と混浴しようものなら世間様から冷たい視線

を向けられる事間違いなしである。

空気が重い。

わ、話題を味噌汁に・・・。

「麦味噌が健康に一番いいんだ」

昔は違う味噌だったが。

みそ談義は追々。

出された朝食。

玉子焼き、麦飯、味噌汁にきんぴらごぼう。

どれも美味い。

朝飯で感激している所に、車の急ブレーキの音が下の階層からして、インターホーンが鳴る。

玄関のカメラを見ると、公安の姉ちゃん。

「こおら!河辺!初出勤に遅刻とは、どこの会社の重役か!」

出勤って・・・俺は未だ務めるとは一言も言って無いが。

それで遅刻っていうのはお門違いじゃなかろうか?

あ、でも見学するとは言った様な気がする。

警視庁公安部。

本来なら、テロリストやら暴力団、スパイなどを縛り上げるのが主な仕事だが、最近は霊を成

仏、無理なら、破魔に伏させる事もやる様になってきた。

つい最近できたばかりらしく、捜査官の数が圧倒的に少ないそう。

ポンポンと肩を扇子で叩きながら公安の姉ちゃん、こと堀北に色々説明を受けるが上の空。

搔い摘んで言えば、お茶が玉露で茶請けがこれまた高そうな餡子餅を無心で食べていたから。

もう平らげてしまったが。

「この子かな?新しくうちに来るって言う・・・」

身なりは女子。

俺とは差ほど年齢は変わらないだろうか?

学生服を着ている。

不似合いな、恐らく仕込みが入った杖が特徴だ。

「この公安0課の課長をしてる、須賀清美、なんでも剣の腕がたつそうだな?」

袖口がこちらを向いた瞬間、何かが飛んできた。

それを全て叩き落す。

須賀と言う女子はふむ、と一考。

ならばと今度は、やはりと言うより確信していた仕込みを抜き切り、斬り付けようとしてきた

ので、黒檀の扇子で仕込みの切先を軽くいなし、額に軽くデコピン。

ある意味痛いとは同級生の言葉。

ある意味と言うか地味に痛いらしい。

堀北は唖然とした。

この課で一番の腕を持つであろう課長をあっさり倒してしまったのだから。

須賀も何が起きたのか未だあっけらかんとしている。

漸く口を開く須賀が

「わ、私をあっさり・・・?」

勝てる。

慢心していたのかもしれない。

格下と考えればならなおさらである。

その考えと慢心が今の敗因になった。

俺は扇子を腰に差し

「こりゃあ先が思いやられるな。もっと強い奴集めて組織するんだな」

そこに電話。

着信を見ると、自宅から。

出る。

「河辺君、加藤文虎さんって人が・・・」

笹谷だ。

珍しいなぁ、ふみとらが帰ってくるとは。

世界あちらこちら歩いて、たまに帰ってくる友人だ。

あ、そうだ。

ふみとらに修行つけて貰ったらどうだろう?

プライドはズタボロになるだろうが。

ふみとらと8回ぐらい戦って引き分け8回。

ふらふらは不適切かもしれない。

何を隠そう空手の名手だ。

ふみとらと本気で戦うなら、扇子5本くらい必要になる。

本来なら扇子戦術に用いられるのは黒檀などではなく鉄である。

「へー、公安0課ねぇ」

警視庁まで来いと言ったら電話口で小言をブツブツ言われる。

それでも来てくれるのは、長年の付き合いだからこそ。

笹谷が道案内。

包みを持っていて、俺に渡す。

何か、いい匂いがする。

「も、もしかしなくても・・・」

「うん、お弁当」

その会話にふみとら、マジ切れ。

「彼女とイチャイチャしてんじゃねぇええ!」

突っ込んで来たのでひょいっと避け

「冷静になれや、このドアホ」

扇子であごを叩き上げる。

笹谷が作ってくれた弁当を食べながら俺は見学。

決して須賀と堀北が弱い訳ではない。

俺達が強いだけ。

須賀と堀北が同時にふみとらに攻撃を仕掛ける。

始まって20分くらいだろうか?

両名、息が上がってきている。

人間、体力の限界に近づくと正常な判断が出来なくなり、攻撃が大味になる。

ふみとらはここらで幕引きとばかりに須賀と堀北の鳩尾に軽く拳を当て、体がくの字になった

所でぶん投げる。

「お、ふみとら、久しぶりじゃない。世界を周って何か掴めた?」

昼の、正午の日光がまだ暑い中、笹谷とふみとら、後はボコボコにやられた須賀と堀北のねー

ちゃんを連れて帰って来た。

丁度オカンも政府の要人さんの所要をこなし、帰って来ていた。

その時。

「緊急出動要請、緊急出動要請。場所、新東京都庁。公安0課、速やかに任務に当たるよ

う・・・」

無線か。

須賀と堀北は緊張した面持ちになる。

公安0課の面々が見れるかもしれない。

「三笠!?」

都庁で暴れていたのは三笠。

只、外見は似ているが・・・長年の友人である俺から言わせてもらえば、全く別物と思う。

その三笠が俺を見て

「河辺ぇぇぇ!何で貴様なんだ!?剣術一本のクセに、俺は何でもできるのに、女なんて吐い

て捨てる度喰って来たのに!笹谷が俺の物になるのは必然だぁ!必然なんだ!天才に逆らう

な!このゴミムシがぁ!」

俺には自信が付いていた。

剣術一本でも、笹谷は俺を思っていてくれた。

妬ましさ、嫉妬と言う言葉は、完全にでは無いにしろ払拭され何を言われても動じない。

それだけ笹谷の存在は俺にとっては大きい。

「啖呵はそれだけか?」

須賀が斬り付ける。

「チープ過ぎて哂えないな」

堀北が更に拳を入れる。

しかし当たらない。

コンビネーションは抜群だが、俺等から言わせてもらうと、いや、実践しよう。

俺は三笠の周りをグルグル回り徐々にその距離を詰める。

何故俺が扇子で戦うかと言うと、間合いに入ると同時に攻撃の種類が選べる。

脇腹を抉るなり、顎を叩き上げるなり、腕をへし折るなり、種類は多岐に渡る。

あえて今は・・・面を割る。

グラついた所にふみとらが掌底を叩き込むと同時に、三笠モドキが四散する。

決着かと思われた、が

「笹谷、さあさあたあにい・・・クケケケ・・・」

しつこい。

ねちっこい。

もう一発ぶん殴らないとダメか・・・?

構える前に

「河辺、コイツを使え!」

何時も使っている漆塗りの黒檀扇子。

先端の部分に何やら星マーク。

どちらにせよ、コイツで頭を叩けば決着か。

笹谷の周りに黒い霧が現れ・・・る前に

「破!」

三笠らしきものに思いっきり振るう。

ん?手応え凄いな・・・。

自前の扇子より明らかにこちらの方が何かを叩いた感がある。

「ぎゃあああ!?何だ!?それは!?」

いや、俺に聞かれても分からん。

俺に扇子を渡し、後は何もしていなかった須賀が踏ん反り返り

「五行の破魔扇だ。河辺用に急ごしらえで作ったが、威力は上々の様だな」

今度こそ三笠モドキが消えて逝く。

三笠は都庁の中のトイレの一室で首を括っていた。

何でも親に小テストの点数が悪かったのを詰られて疲れ切った、と遺書らしき物に書いてあっ

たそうだ。

追い打ちをかける様に、笹谷にフラれ、将来を見通せなくなり、自ら命を絶つ事を決めたそう

である。

夕方。

公安0課に来るよう言われ、言ってみると

「お前、今日から公安0課の課長な」

コーヒーを飲む須賀。

堀北はふみとらをスカウトに行ったらしい。

は?

いやいや、学生の本分の学生生活させてほしいモノだ。

青春を謳歌する年齢なのに仕事しろとは何事か。

一緒について来てくれていた笹谷も納得行かない様で

「私みたいなサイボーグなら未だしも、河辺君を・・・」

「私も青春謳歌したいが、身分でな・・・」

やれやれ、仕方ない何やら事情があるようだ・・・?

「そう言えば給料っていくらもらえるの?」

そこが大事。

青春を無碍にして働くのだ。

それだけの対価は貰って当然だろう。

須賀が電卓を見せて来る。

・・・

「マジで?」

頷く須賀。

かなり高給。

納得してしまい、この歳で定職に就く事になろうとは俺は思わなかった。

って言うか、笹谷と言う入籍してはいないが、綺麗な嫁さんまでもらって。

普通に学生をやるより、こっちの方が内容密度が高い青春を送ったりして?

もやもやは消えないが、ここから始まる

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幽霊な憂鬱な恋愛事情 @kodukikentarou

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