不断の魔力

空途

1どういうことだよ 



「んあっ?」


 頬を撫でる何か。目を開けると、ただの草だった。


 なんか固いなここ。そう思い、指を這わせる。

 少し湿ってる。あと柔らかい。指で掴んで擦ると……ってかこれ土だ。


 どうやら僕は、土の上で、うつ伏せになって寝ていたらしい。そんな馬鹿な。


 取り敢えず、このまま横になっていてもまた眠くなるだけなので、よっこらせと起き上がった。顔と服に付いた土を払いながら周りを見る。


 森だった。


 木、木、木。

 辺り一面に木。木々の隙間に更に木。人工建築物どころか人の痕跡は一切見当たらない。


「……ふむ?」


 僕は思案げに顎に手を当てた。

 目が覚めたら、見知らぬ森だった、と。


 どういうことだよ。






 目覚めてから暫く、寝る直前の記憶をどうにか思い出そうとした。

 しかし、うんうん唸っても何も出てこなかった。


 それどころか、自分の名前や、どこで生まれたのか、どう育ったのか、好きなもの、両親の顔なども一切浮かばない。


 着ている服も、動きやすい長ズボンに、無駄な装飾のない長袖の上着と、一般的な庶民の服だ。

 上流階級生まれ、ということでも無さそうだ。


「うーん……」


 静かな──静か過ぎる森を歩きながら、僕は考える。


 言葉は話せるし、知識もちょいとあるから、部分的に記憶を喪失した……のだろうか。僕が今ここ森の中で誕生してなければ別だけど。


「頭打ったりしたのかな?」


 ぺたぺたと触ってみるが、手が真っ赤になることも、コブらしきものもない。あんなところで(恐らく)長時間寝ていたはずなのに、意外と髪がサラサラとしていた。


「うーん、わけ分かんないなあ」


 そう呟いて天を仰ぐと、木々の隙間から、太陽が見えた。ちょうど真上だ。


 もう昼か。そういえば、起きてから一時間ぐらい経った気がする。お腹空いた。


「空から食べ物降ってこないかなあ……」


 そう呟いて視線を前に戻した。


 その時だった。


「ん? 影……?」


 ふと足元を見ると、自分の影が大きい気がした。


 いや、実際に大きくなっている。今も、段々とその早さは上がっていく。


「──ッと!」


 咄嗟に横に飛ぶことで、上から降ってきた『何か』を避けることに成功した。


 勢いのまま一回転してから体を無理矢理起こし、『何か』を視認する。


「……水?」


 地面には、さっきまで無かった水溜まりが出来ていた。その中に一つ、紫色に光る小石のようなものが浮いている。


 ふるり、と水面が揺れる。


 小石を中心として、水がまるで生きているように集まり、一つの塊となる。僕の膝ぐらいの大きさだ。



 バチリ、と頭の奥が鳴る。情報が頭を走った。


 知ってる。


 僕は、これは知っている。


 これの名前は……


「……スライム、か」


 僕の眼前に現れたスライムは、肯定するかのように震えた。


 スライム──少なくとも、食べ物ではない。


 




 スライム。魔物の一種である。

 かわいい見た目とは裏腹に、中々危険な生物だ。


 一見液体の方が体のように思えるが、本体は内部の魔石──核であり、そこを壊さなければ死なない。


 液体部分は魔法の力を帯びており、触れたものを溶かしてしまう。


 年月が経てば経つほど核も液体部分も硬く大きくなるので、尚更破壊するのが難しくなる。


 基本的に雑食であり、柔らかく消化のしやすいものを好む。



 ……と、僕の『頭の奥』が言ってる。


 降って湧いたような知識だが、不思議と信頼が置けた。


 さて、どうするかな。


 今は、スライムとの睨み合いが続いている。どこで考えているのか知らないが、僕のことを警戒しているようだ。


 でも全く怖くない。それどころか、ふるふるしてて凄く可愛いです。かわいい……。


 ……いけない。スライムは、小さな個体であっても、危険なのだ。たとえ可愛いくとも、倒さなければ。


 ん?

 待てよ。なんで倒す方向に考えてるんだ僕は。僕が逃げればいいじゃないか。


 しかし、スライムは僕が逃走しようとしたのを察知したのか、地面を高速で這い、それから飛び掛かってきた。


 意外と速い。避けられない。


「ッ!」


 咄嗟に右腕で防ごうとする。

 すると、スライムが触れた途端、服を透過して焼けたような痛みが走った。


 痛い! 痛い! 痛い……!


 頭が真っ白になった。

 スライムを振り払い、右腕を庇うように触れた。


いったぁ……!」


 恐る恐る袖を捲ると、ぐちゃぐちゃに溶け、変色した右腕が……なんてことはなく、僕は少し赤くなった程度の右腕を見てホッとした。


 可愛いとは思ったけど、あんな痛み感じた後じゃあ愛着も何も沸かない。有り得ないほど痛かったぞ、あれ。


「ぷるぷる〜」


 僕に振り払われ木に激突していたスライムだが、戦意を喪失どころかますます漲らせている。


 威嚇するように震えるスライムを見て、僕も覚悟を決める。


「やるしかない、か……」


 すると、またもや『頭の奥』がバチリと鳴る。

 『頭の奥』から流出した情報が、僕の体を巡り巡る。


 このスライムに対抗するための手段、僕はそれを理解した。


 それと同時に襲い掛かるスライム。


「ぷる〜!」


 僕は慌てずに無事な方の腕をだらりと脱力させ、全身に存在する熱──魔力をそこに溜める。使い方もなんとなく分かった。



 魔力には様々な性質が宿る。そう『頭の奥』が言っている。



 スライムとの距離はどんどん短くなっていく。



 ならば、僕の魔力はどうなんだ?

 教えてくれ。



 迫るスライム。


 そこで、僕は溜めていた魔力を五本の指先から解放する。



 『頭の奥』が答える──。





「──【不断】」


 僕は糸のように細く伸びる魔力を操り、スライムを引き裂いた。


_______________


夏休み中は一週間に一度は投稿したい(願望)。


よろしくお願いします!!!!

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不断の魔力 空途 @tachikazekuuto

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