二章第17話 気になるゾンビの男の子の話聞いてくれますか?

 少し歩くとココアが小走りし一つの建物を指差した。

 「あれが私のお家だよ」

 指差したのはこじんまりとした煉瓦の家。煙突からもくもくの煙が出ていてファンタジーの絵本とかに出てきそうな可愛らしい家だ。


 「へぇ。何か可愛い家だな」

 「ふふソーマ君ってやっぱり変わってるね。そうやって家を褒めてもらえると嬉しいな!ついてきて!」

 ココアはふにゃりと笑い俺の前を歩いていく。



 ◇



 「ただいま!」

 「お邪魔します」

 中に入るとふわりと良い匂いがした。何か料理を作っているのだろうか?中からおかえりという男女の声が聞こえてきた。


 「おかえりココア…ってやだぁ♡あなた!ココアが男の子と帰ってきたわよ!」

 「な…何だと!?」

 ココアと似た見た目をした中年女性と優しそうな雰囲気を纏ったメガネの男性が出てきた。

 恐らくココアの親だろう。


 「初めまして最近女神の愛子に入りました。ソーマと申します。娘さんからはお世話になっております」

 取り敢えず挨拶しておかねばと頭を下げる。

 菓子折りとか持ってきた方が良かったかな?スピカもつられて頭を下げているのが何か和んだ。


 するとココア母が興奮した様子で

 「きゃー!しかも礼儀正しいわぁ♡ココアにもやっと彼氏ができたのね!」

 「ええ!?ま…待ってお母さん!私とソーマ君は唯のお友達だよ!」

 「こ…ココアがお嫁に行くのか…うう…」

 「もうお父さん!」


 『ほれほれあの小娘も困っておるぞ?正直に言わんか。僕は沢山の女の子をたらし込む極悪ゾンビでーす♡お母さんも俺のものになりませんか?ってほら!』

 「(誰が言うか!修羅場になんだろうが!つーか誰がいつ女の子をたらし込んだよ!)」

 『え…自覚ないの?こっわ…』

 失礼な奴だ。人がモテないの知っててこんなことばかり言う。


 「えーとすみません俺と娘さんはただの友達なんです。いやぁ娘さんみたいな素晴らしいお嬢さんに俺みたいなのは釣り合いませんから」

 「んもう謙遜しちゃって…ほらほらあなた!いつまで警戒してるの?そっちで新聞読んでて!」

 「うう…一応家長なのに」

 ココア父はトボトボとソファに移動した。何か悪いことしたかな?


 「まぁ良いわ。ソーマ君此処まで娘を送ってくれたのね?ありがとう。これから夕食食べるんだけどどう?一緒に食べる?」

 「嗚呼…俺もう食べてきたんで大丈夫ですよ。ありがとう御座います。また今度宜しくお願いします…なんて図々しいっすかね?」

 「そんなことないわよ。いつでも歓迎するわ。それにもしかしたらココアの将来のお婿さんになるかもしれないしね」

 「お母さん!」


 ココアは顔を真っ赤にしてお母さんに怒っている。何かいいなぁ自分の親とこうやってコミュニケーション取れるって…少し羨ましいかも…

 「あの…俺そろそろ行きますね?今日は遅いですし」

 「あらぁゆっくりしていけば良いのに…何ならココアの部屋に泊まっても…」

 「お母さん!」

 「それは許さん!」

 

 ココア母のトンデモ発言にココアとココア父が怒り出す。そりゃあ怒るよ。案外お母さん天然なのか?はたまた唯の愉快犯なのか…。

 あまり長居するのも良くないと思いそそくさと挨拶して帰ることにした。



 ◇



 ココアの家から出ると後ろから小走りで走ってくる足音が聞こえる。

 「待って!ソーマ君」

 「ん?ココアどした?忘れもんか?ひとっ走りして取ってこようか?」

 「違う違う。良かったらこれ持って行ってよ」

 

 ココアの手にはバスケットが握られていた。

 「私の作ったクッキー。ソーマ君のお勉強の後にお菓子出すって言ったのに出してないなぁと思って」

 「別に気にしなくてもいいのに…でもサンキューな」

 バスケットに掛かってる布を捲ると中には美味しそうなクッキーがぎっしり入っていた。これはルークと分けて食べよう。

 『ほほほ!この小娘なかなかじゃな!ワシに献上品を寄越すとは感心』

 スピカもご機嫌である。


 「あのね?今日は色々とありがとう」

 「え?寧ろ俺のがお礼言う立場だけど…」

 「ふふふ…ソーマ君今日お料理手伝ってくれたり私の話し相手なってくれてたじゃない。

 実はというと他の子皆んな冒険者ばっかりでお昼とかほとんど一人なの。だから少し寂しかったから。今日は楽しかったなぁ」

 ココアはホワンとした優しい笑みを浮かべている。ココアのこの笑顔が待ってると思うと冒険者達も帰ろうと思えるのかも。


 「いやいやそんなそんな。ていうかココアって何か話しやすいからついつい俺もベラベラ勝手にしゃべっただけだし。てか俺自分の親のこととかこの世界きて話したのお前が初めてだし」

 リンにも以前親がいないことは明かしてるけど…アイツは別に気にしてる素振りなかったからなぁ…。あそこまで詳しく事情を話したのはココアぐらいだろう。てかこんな話しちゃったのは気使わせたかも。けれどココアは少し頬を桃色に染めて…


 「そうなんだ…ソーマ君の秘密知ってるの私だけなんだ」

 「うんまぁそうなるかな…」

 「そっか…そっかぁ。ふふ…何か嬉しいなぁ」

 ココアはクスクスとくすぐったそうに笑ってる。何か嬉しそうだけどそんな得になる情報だったのだろうか?


 「ソーマ君あのね?私の我儘なんだけど…ソーマ君の秘密…他の人には簡単に教えたりしないでほしいかな…」

 「へ?嫌だった?気使わせた?」

 「ううん。違うよ?ただソーマ君の秘密知ってるのが私だけなのが嬉しいから…その…わ…私何言ってるんだろ…あはは…」

 ココアは暑いのか手で自分の顔を仰いでる。

 今日涼しいと思うけど暑がりなのだろうか?


 「と…兎も角そう言うことだからね?今日はありがとう!また明日ね!」

 「あ…うん。また明日な」

 ココアは早口で言い終わると走って家に入って行った。

 


 ◇



 ※三人称視点


 ココアはハァハァと息を整えて家に入ってきた。

 「ココア?ソーマ君帰っちゃったの?」

 「う…うん…ねぇお母さん…」

 「ん?」

 「えとね…ごめん何でもない…」

 「そう?恋の悩みなら聞くわよ?」

 母の言葉にココアはピクリと肩を揺らした。その顔は真っ赤であり心臓がドクドクと早く脈打っている。


 元々ココアは同じ年頃の男の子と話した事がない。昔から穏やかでほんわかした性格のためか逆にいじめられていたこともあり寧ろ同い年の男子は子どもだと思っていた。


 だがリンが連れてきたゾンビの少年はそんな彼らと違いココアにとても優しく接してくれるししっかり者だ。異世界に来たばかりで不安な筈なのに絡まれてるココアを助けてくれた。

 恐らくその時からだろう。同い年の男の子に助けられるシチュエーションが初めてのココアにとってソーマの姿はカッコよく見えた。それがきっかけにして意識はしていたのだ。


 そして今回本格的に一日中彼といてとても居心地よく感じた。たまに出る少し恥ずかしくなるような褒め言葉とかには少しびっくりするがココアは悪い気がしなかった。

 「(ソーマ君が私の彼氏だったら…)」


 ソーマは誰にでも優しい。…ユーリという人に対してはのぞいて…。そんな彼がもし仮に自分だけに特別に優しく接して特別に甘やかしてくれたら…

 「ココア?顔ニヤけてるわよ?もしかしてソーマ君のこと?」

 「へ?に…ニヤけてないもん!で…でももしそうなら応援してくれる?」

 「当たり前よ!よっしゃあ将来の義息子ゲットの為に頑張りなさい我が娘よ!」

 ココアが自覚した恋心を明かすと母は目を輝かせて喜んでいた。


 今まで男の子に興味がなく寧ろ萌の対象にして男同士をくっつけることに興奮する娘に不安を抱いていたが杞憂に終わったようで安心した。


 一方の父は

 「うう…ココアが嫁に行く…」

 と泣いていたとか。

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異世界転移したらゾンビ化した俺の話聞く? 猫山 鈴 @suzuneko22usausapyon

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