第12話 そこは冥界?

 目指すは、ギガス・ナラカ『冥界の扉』。

 

「ねえ、山口さん」

「はぃ?」

「星の地殻って、三十キロくらいでしたよね?」

「えーと、どうだったかな? プレートの位置で違うとか、海は薄いとか言っていなかったかな?」

 地球の場合、陸上で三十キロから六十キロくらい。

 海底は、五キロとか七キロほどしかないらしい。


 目の前に見えるは巨大な穴。

 そうみんな大好き。

 ロマンいっぱいの、穴だよ穴。


 好きな人なら、パラシュートとかつけて飛び降りそうだが、問題は壁で蠢く者達。

 足元は怖くて見られないが、同じだとしたら……


 そう真っ暗で、底が見られないほど深く巨大な穴。

 底の方から、どこから出すんだと言うような、うめき声とも遠吠えとも取れる声が聞こえるんだよ。

 そして、さっきも言ったが、向こうの壁。ザワザワと何かが這い上がってきては、途中で力尽き、落ちていく。


「あれ、なんですかねぇ?」

「結構、人型に見えるね……」

「四足歩行もいるのかも、あそこなんだか変わった形。尻尾があるよ」

「とっ、とにかく門を探しましょうよ。なんだかあたし、あれを見ているだけで背中がぞわぞわするの」

 エレオノーラがそう言いながら、自身を抱きしめるようにして自身の両腕をさすっている。


「ああ、そうだな」

 どう見ても、この穴はやばい気がする。


 この星本当にプレートタイプで、地下には地獄があったらどうする?

 エレオノーラに向かって偉そうに、丸い星で、宇宙になんて説明をしてしまった。

 実はプレートで、巨大な亀が支えていました。

 なんて言うことになったら、彼女が笑いものになってしまう。


 その時、前に水平に撃った魔法が飛んで行ったことを忘れていたが、角度がちょっとあればいずれ上へと飛んで行く。

 それが何キロ先で、どのくらい上空を通ったのか…… それが重要だ。

 今現在においては、全く重要ではないが。


 遺跡は、当然だが穴の中央から同心円に都市の残骸があり、道はすべて中央へと向かっている。

 当然だが、前に聞いた何かの失敗は穴の中央で発生。

 地殻を吹き飛ばしたのだろうか?

 クレーターにならず、すっぱりと切り取るように。



 そして、これまたあっさりと門を見つける。

 だって、生き残っている遺跡部分、少ないんだもの……

 すぐに見つかったよ。


 だけど、エイヤでくぐったら、世界が変わる。

 これは、空間魔法的な感じかな?


 門の向こうから見たときには、きちんと寂れた町が見えていた。

 そうそう、ぽつんと門が立っているだけで、その向こう側の景色は連続をしていたんだ。

 門は、少し小さな凱旋門とかそんな感じ。

 扉はなかった。

 柱とか上のアーチ部分にはびっしりと装飾。

 木の蔓とかが絡みつくように螺旋が書かれ、上部のブリッジ部分で絡み合う。

 

 そして蔓に沿って、生き物たちが彫られていた。

 それは柱の両側で多少違っているが、まあ同じ感じ。

 そう…… だけど、くぐるといきなり世界は変わり、周りは暗く目の前に向かって穴が続いている。そしてぬるい風が奥からやって来る。

 背後は、きちんと門の形に、向こうの景色が見えている。


「これって、本当に黄泉平坂よもつひらさかじゃないだろうね?」

 田島さんも、そう思ったようだ。山口さん達も頷いている。


 だがふしぎだが、俺とあやは此処が産道のように思えた。

 無論、答え合わせは後でした話。


 そして…… 百メートルくらい? 進んだところ。

 ―― 扉があった。


「すっごく、開けるのが怖いんですが……」

 俺がそう言って振り返る。

 苦笑している二人。


「いやあ、そうだよね。ぼっ僕たち、ちょっと下がって魔法とか構えておくから」

 田島さんが下がる。

「いや威力を考えたら、僕が構えておきましょう」

 俺が田島さんの方へ、一歩つめる。


「間を取って、山口さんが開けて」

 そして、話は振られる。

「えっ僕が? 無理、絶対無理」

「じゃあやっぱり……」

 男同士でうだうだしていると、横から声が聞こえた。


「もう、私が開ける」

 その時気が付けばよかった、進み出たあやが、ものすごい笑顔だったことに。


「いや、それは危ない。それなら俺が」

 それが最後だった……

「「「どうぞ、どうぞ……」」」


「きさまらあぁ、はめおったなぁ……」

 みんなが和やかに、そして一斉に右手を前に……


 ドアに向けて、俺を促す。

 どこかで見た…… そうか…… もう見られないコント。

 異世界で喰らうとは…… ぐはっ。


 やけになった俺は、勢いよくドアを開ける。


 だがそこは、天井の円い半円形の部屋。

 部屋の奥には、さらに奥へと続く通路が、二本。


「やっぱり……」


 俺達は中へ入り、どっちに行こうか考え始めた。

 だが、そのとき、目の前が暗転をする。


 その時、エレオノーラ以外が、まるで糸が切れたように倒れたらしい。

 そう召喚組全員。


「ねえどうしたの? 正和、だいじょぶ? 起きないと、咥え……」

 一瞬、馬鹿な声が聞こえた。



 そして、意識が覚醒。

 俺達は現場にいた。


 そうあの時…… 夏の最中さなか。もなかではない。アイスはほしいが……


 そう、暑い交差点での信号待ちへ戻ってきた。

 だが…… 時間は少し進んでいて、俺はなぜか寝ていた。

 そう暑いではなく、焼けるように熱い道路。

 なぜか痛い体。所々感覚が無い。


 あの向こうに倒れているのは、山口さん?

 足とか腕が変な方に……

 あっ、動いている。


 俺は俺で体が変だ……


 目の前に、すんごい血が流れているのは俺からなのか……

 他には……


 無理矢理、なんとか体をねじる。

 なんか車が横にある。

 まだタイヤが、ギャイギャイ言いながら回っているし……

 あの向こう。倒れている女の人は、あやか?


 あっ動いた。目が俺を……



 ―― そこでまた、意識が戻ってきた。

 なぜか、俺の上に馬乗りでじっと見ているエレオノーラ。

「おう、どのくらい倒れていた?」

 答えの代わりに、そっとキスをされた。


 だがその後、あやまでやって来て泣き始める。


「みんな同じですか?」

 そういう、みんなの顔は疲れ切っている。

「ああ、すごく痛かった。あれなら、こっちの方が良いな」

「同感だ」


「たださあ……」

 言いたいことは分かる。

「うん。いた」

 そうあの事故現場。


 倒れている俺達。

 その周りで事故を見ていた女達。

 萩原 真理と北村 亜由美。あの二人が仲良く立ってこっちをみていた。


 戻った世界は元とは違い、パラレルなのかも知れないが、この世界自体がやばい気がする。あの穴を見たしな。


「ただまあ、インダストリアパトリアへ戻って、体を鍛えようぜ」

「そうだなぁ」

 奴らは来る。そんな気がする。


 考えれば、俺とあやは車のあっちとこっちで倒れていた。

 そして俺もあやも、そして、山口さんも二人が立って見ているのは記憶しているのに、どこにどういたのかは覚えていない。


 記憶に残っていたのは、そう、二人が立って、薄ら笑いを浮かべてこっちを見ていた。

 それだけ。


「さあ帰ろう」

 結局、そこから奥へは行かず、戻ることにした。

 後で思うと、穴の先は、輪廻コースと、天国コースだったかも知れない。

 だがなぜか、俺達は戦うことを選んだ。


「―― ふふっ。きっと今度は、私の勝ちねぇ」

 ぼそっとつぶやき、エレオノーラが部屋を出ると、扉は静かに閉じた。


 その十年ほど後。

 この世界で、聖戦ともいえる激しい戦争があったそうだ。

 勝ったものが、次の千年。この世界の王となる。

 らしい……


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 世界は神の遊び場とかいう話も聞きますが……

 ここは、賽の河原をイメージして書きました。

 地獄の覇王決定戦。それに巻き込まれた者達。

 召喚された世界は本当に普通なのか?


 丁度お盆の頃。

 五畝ごせほどの広さ。炎天下の草刈りで意識がもうろうとする中、そもそも、召喚が出来るというのは普通じゃないよねと、ふと思って書いた話です。


 お読みくださり、ありがとうございます。

 一応三万字は越えていないから、短編ですね。

 ではまた、他の作品をよろしくお願いします。

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勇者召喚されたので、とりあえず逃げます。 久遠 れんり @recmiya

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