第7話 交番にて①
『今週は自殺未遂で緊急搬送か。おい、お前。なんだと思う、最近のこの事件。数ヶ月前からか‥‥もっと言えば、あの小説家の男が来た時からだな』
小説家の男が銃で撃たれたと交番に駆け込んできたあの日から、この小さな街の中で不可解な事件が連続して起きていた。
「撲殺、猟奇殺人、飛び降り‥‥殺害方法も被害者の関連性もない。完全に別々の事件のように見えるけれど、そのうちの何人かの被害者の近くにはshoot by 3の文字が残されている‥‥ですか」
『shoot by 3 ねぇ‥‥』
「うーん、でも残された暗号について警察は一般市民に公開してませんよね?模倣犯の出現を恐れて」
『おう、だからきっと同一人物の犯行だろうな』
「しかしそうは思えないんですよね。ひとり目の被害者、佐々木の元に残されていたのはhit by 3 という文字でした。殺害方法によって言葉を変えているのかとも思いましたが、その後自殺と推定された東雲の自殺場所である屋上で見つかったのはshoot by 3の文字、そして次に起きた住宅街での猟奇殺人の現場に残ってたのはshot by 3‥‥きっとこれはスペルを間違えたんだと思うんです。統一性があるようなないような」
『警察を混乱させてそれを楽しむ愉快犯ってところかな。こいつにしてみればこんなの、小学生のピンポンダッシュとそう変わんねーのかもな。きょろきょろする家の主を遠くから見て楽しんでんだ」
「イタズラにしてはタチが悪すぎでしょう‥‥」
『まぁでも、動機なんてその辺に落ちてるような理由だったりするよ。ただムカついた、憎かった、注目を浴びたかった、何者かになりたかった、とかな』
何者かになりたいから、そのために人を殺す。そんな怪物を生み出してしまうものは一体なんなのだろう。社会からの疎外感だろうか。
どこかの誰かが言っていた、"あなたはこの世に生まれただけで幸せである"と。しかし人間はそう簡単にはいかない。欲深い生き物だから。
25m泳げるようになったら次は50m、さらに100m。距離だけでは満足できず次はいかに早く泳げるかを練習する。そして競い合う。自分が得意とする泳ぎを見つけ、さらに研究する。それだけ努力を積み重ねても自分よりもはるかに早く遠く泳げる人間が現れ、自分が今までしてきたことは全て無駄だったのかと愕然とする。きっと、何かを続けて来た人間だったら一度は感じたことがあるだろう。私だって。
━━━ ブーブー
帰り道、携帯のバイブが鳴り、表示された名前に一瞬手が止まった。私は鼻から息を吸い、口から吐いてを2回繰り返し、電話に出た。
「もしもし、久しぶり、父さん」
『お前、まだ交番なんかにいるのか?これ以上私の顔に泥は塗らんでくれな ブッ』
1年ぶりの電話は10秒も経たずに切れてしまった。私は立ち尽くし、また深呼吸をした。腹の底が熱かった。
「はぁ‥‥」
口から吐いた疎外感は、冬の空に白い煙となって消えていった。
【連載小説】shoot by 3 青いひつじ @zue23
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