「ごめんね〜、芽衣が」


芽衣の友達の一人が苦笑いで玲に近付く


「芽衣もさ、悪い人じゃ無いんだ。無気力なところはあるし、悪口は言うけど、手伝ってくれたりだとか、一緒にお出かけに行ってくれたりとか、意外と友達思いだったりとか、本当は良い子なの!でも…あまりAIのニュースとかあまりよく思ってないみたいで」


そこで玲が口を開いた


「分からない」


「……え?」


「分からないの」


玲はボソボソと話し出す


「本当は、私もAIを脳に搭載する手術を受けるの、親に反対したのよ。でも親が受けろって言うから渋々受けた。でも手術を受けた後からなんで嫌がってたのかも、なんで彼女が手術のことを悪く言うのかも分からない。理解ができない」


AIは、感情への理解が乏しい


「今日、美術の授業があったじゃない。それで、絵を描いたじゃない。テーマは本当に自由で、何かモチーフを指定されていたわけでもない。テーマを選んで制作する課題だった。でも、何をテーマにしたら良いのか、分からない」


AIは創造性が求められる作業が難しい

AIにはいくつかの“苦手なこと”が存在する

上記二つがその代表例だ


「勉強ができる頭を手に入れても、その進路を決めることができない。目標をどうすれば良いのか分からない。進路実現のためにAIを脳に搭載することはとても便利なはず。なのになんで彼女があそこまで否定するのか分からない」


何も、分からないのよ

彼女のその声色は悲しみもなく、ただただ疑問だった

彼女が受けた手術はAIを脳に搭載すると言えばとても便利なものに聞こえる

でも実際はそんな便利なものではなかった

思考のほとんどをAIに侵食された状態だった

必要な情報だけを取り出せるのでもなく、感情や創造という作業にも影響を及ぼすほどに脳に侵食する

無駄な感情は排他し、統一的な人間AIを作る

それが、この手術の正体だった


「前の私だったらもっと本を読んで楽しめたはずなのに。今は楽しいが分からない。悲しみも分からない。喜怒哀楽も分からない。ただ疑問しかないの」


だから、あの子の言っていたことを教えて欲しい

そう言った彼女の目には好奇心すらない

ただ疑問があってそれを解決する

AIとして学習する

それを義務として頭を動かしている

ただ、それだけだった


彼女は、本物の機械になったらしい


これは、しばらくした後の日のニュースだ


「先日、作曲家の△△さんがSNSにて『新しい曲が作れない。どこかで聞いたような曲になってしまう。自分が求めていたはずのものが分からない』という文章を投稿しました」


「最近はこのような投稿が多いですね」


「そうですね。アーティストやイラストレーター、作曲家、小説家など、創造性を求められる業界の人がAIを脳に搭載した弊害が出てきてしまっているということで声優や俳優を抱える事務所では手術を受けないように、と制限する事務所も増えているそうです」


「カウンセラーの方も手術が原因でお仕事を辞めるという事例が多く発生しています。これも、AIが発達しすぎた故の弊害でしょうか」


芽衣は家でそのニュースをつまらなさそうに消した

玲はそのニュースをただただ見ていた

芽衣はそのニュースを見て不快感を覚える

玲はそのニュースを見て何も感じない

そして二人はその後もその日を生きるだけ

ただ、それだけだ

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人類AI化計画 @okomesikakatan

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