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婚約者が決まったのは8つになる頃だった。年頃の娘が少なく、村長に目を付けられたのは必然的なことで従うしかない状況だった。逆らったら生きていけない。


アンドレが父親の決定を渋々受け入れていたのは明らかで、顔を合わせれば悪態をつかれたし、5歳年上の彼が次第に村の外で遊び始めたのはすぐに噂になった。

悪い仲間もいたようだし、女遊びも覚えたらしい。

ろくに顔も合わさなくなっていたので、何をやらかしたのかは未だに聞いていない。魔女の怒りを買っていた彼は私を盾にし、気付いた時には男の姿となっていた。

12歳になっていた私は少しだけ体に丸みを帯びていたけれど、そんなものは消えてしまった。


アンドレは「気持ち悪い」と私を気味悪がり、村の人達は気の毒そうに腫れ物扱いしてきたし、両親は酷く困惑していた。

すぐに婚約は破棄されたけど、そのまま村で生きていくには息苦しいものがあった。


「ここで生きていくことが全てじゃない。一緒に王都へ行こう」


イヴァンからのそんな誘いに泣きながら飛び付いた。優秀なイヴァンは王都から声を掛けられていて騎士になるという。

私に出来る仕事も見つけてくれたし、家に置いてくれることになったから衣食住に困ることはなかった。


男の姿となった呪いが解ける兆しはなく、成長すると女性から声を掛けられることが増えた。良くも悪くも男としての見た目は悪くなかったし、目立つイヴァンの隣にいると注目を避けることは無理だった。


面倒なことにならないようにイヴァンと呪いのことは暫く秘密にしようと約束していたから、私が女であったことを知る人間は王都にはいない。


「……恋がしたい」


心まで男になるようなことは無かったので、普通の女の子のように願うのは当然のことだと思う。村とは違い魅力的な男性が多いから、ほのかに憧れてしまう出逢いは何度かあったけれど、相手は私を男して見ているから何も期待できなかった。

海を越えた遠くの国では同性婚も当たり前になっているらしいけど、ここではそんな考え方は浸透していない。


女性を好きになれそうにもないし、男性からは相手にされない。

このまま愛し愛される経験を知らずに死んでいくのかな、なんて不安が過るようになった。

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名ばかりの婚約者を庇ったら呪いをかけられました。でも、私は恋がしたい。(仮) 音央とお @if0202

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