名ばかりの婚約者を庇ったら呪いをかけられました。でも、私は恋がしたい。(仮)
音央とお
1
自分の見た目が人より優れているという自覚はある。
「やぁ、ミシェル! また背が伸びたんじゃない?」
「余り物なんだけど、この果物持っていきなよ」
「お兄さん、サービスするからうちの店に寄っていって!」
賑やかな市場を歩けば頻繁に声をかけられるから。下心を含んだような視線を寄越す女性たちに愛想笑いはするものの、そのお誘いに乗ったことは一度もない。
硬派だとか真面目だとか噂されているようだけど、そんな格好良いものなんかじゃない。
「顔に傷でも付ければ声を掛けられなくなるかな?」
窓ガラスに映り込む自分の姿にため息を吐く。平均よりも少し高めの身長、錆色の髪と瞳は平凡なものなのに、顔立ちは女ウケの良い優男。
「気の迷いで後悔するようなこと考えるな」
「いつの間に後ろに……」
背後から声を掛けてきたのは幼馴染みのイヴァンで、男からは“隣を歩きたくない男”という称号を貰っているドえらいイイ男。
周りより抜きん出ている身長、艶やかな青みがかった黒髪、そうそう見ない整った顔立ち。服の上からでも鍛えていることが分かる肉体。あと、男臭さがあるのになんだかいい匂いもする。
声も聞いていて心地の良いものだし、何でも器用にこなす能力の高さまで持ち合わせているというほぼパーフェクトな人間だ。
辺鄙な同じ村で育ったなんて嘘みたいだ。あそこでは規格外過ぎる存在だった。
「俺はこの顔に傷1つ付けさせたくない」
頬を撫でられると擽ったい。身じろぎする私にイヴァンは小さく笑う。その様子は昔から変わらず、ずっと子ども扱いされている気がする。
「……“昔”と変わらず接してくれるのはイヴァンだけだよ」
「どんな姿をしていてもミシェルはミシェルだからな」
ありがたい言葉だけど、それは男とも女とも思っていないということで。イヴァンのような出来た男ですらこうなんだから、私は誰かと恋をすることは無理なのかもしれない。
道行く恋人たちを見ているともどかしくなる。恋をして誰かに受け入れて貰うこと、それに焦がれてしまう。だけど、私にそれは困難な願いだ。
ーーーー見た目が男でも、男になる呪いをかけられた女だから。
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