第3話
俺が決めた高校、国山高校は私立の高校で完全寮制だ。その点を両親は懸念していたが、大丈夫だと押し切った。
そこから入学式を経て、無事バレー部に入部した。
そこでの扱いは良くも悪くも平等だった。
完全実力主義。
耳が聞こえなかろうが、聞こえてようが、実力がなければ球拾いに回された。指示も指導も何一つ特別扱いなんかされなかった。
逆を言えば実力さえあれば耳が聞こえなくとも試合に出られるし練習にも参加させてもらえる。
俺はずっと彼と練習を積み上げてきたんだ。同期の中では頭一つ抜けて基礎が固まっている。入部してすぐにコーチから声がかかり俺とあともう一人の同期がレギュラーメンバーの先輩達と練習するようになった。
ようやく俺の時代が来たんだ。心のなかでガッツポーズをしながらそう思った。
だが、浮足立っていられたのもつかの間、そこでの練習の過酷さは同期たちとの練習とは比にならないほどのものだった。
メンバーの練習に加わった同期は横山太一と言うらしい。そいつとの出会いは俺にとって印象的だ。
初めての練習が終わり、体育館を出ようとしたときのことだった。
「なあ、今から部屋戻る?一緒に行かね?」なにも知らないんだろうなと思い持っていたメモ帳に`俺は耳が聞こえないからなに言ってるのかわからない`と書いて見せた。そうすると横山はいきなりカバンの中からノートを取りだしてペンを動かし始めた。
`そーなんだ。で、部屋一緒にいかね?`変なやつに絡まれたとその時は思った。
`耳聞こえないからって理由で気使ってくれてるんなら大丈夫だから。`そう書いてみせると何やら不満げな表情を横山は浮かべた。不満げそうな顔はそのままでノートに文字を書き連ねていた。
`俺は単にお前と仲良くなりたいから話しかけただけだよ?`
`俺さ、目が悪いとか、耳が聞こえないとか、コミュ障とかそういうの全部個性だと思うんだよね。`
`だからお互い負い目を感じることも気を使い合うこともなくていいと思うんだ。`
その瞬間、俺の中でなにかが動いた気がした。今まで見たことのなかった新たな価値観。大好きな家族も彼も俺にいつも気を使って特段優しくしてくれる。耳が聞こえないから。でもこいつはそうじゃない。気を使わずにズケズケとパーソナルスペースを無視して侵入してくる。なのに不快じゃない。むしろ暖かくてなんだか心地良かった。
「げ!!なに泣いてんの!?」いきなり目の前の空気が揺らいだ。それと同時に俺の持っていたメモ帳にひと粒の水が浸透していく。俺は泣いているのだと初めて気がついた。急いでなにか伝えなきゃ。
`大丈夫だから。`慌ててそれだけ書いて彼に差し出す。するとすぐにホッとしたような顔を浮かべた。その顔は今まで目にしたどこの誰よりも優しいものだった。が、なんだか照れくさくなって走って一人で寮まで帰った。むちゃくちゃ追いかけてきていたけど途中から歩き出したから疲れたか注意でも喰らったんだろう。ばかなやつだ。そういえばこの寮は二人部屋だったよな。誰が来るんだろう。まさかあいつじゃないよな。。。絶対フラグなやつだ。今立てちゃったよね。
サイレントセッター ネコヤナギ @miyabi0213
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