第2話・平等

俺は小学校のときにバレーに出会い中学で男子バレー部に入った。

俺の胸は期待でいっぱいだった。これからどんなすごい選手に出会えるのだろう。自分はどこまで通用するか楽しみな気持ちでいっぱいだった。

だが、その期待は裏切られ、俺はこの病気のせいで部活の仲間達から迫害された。

ウォーミングアップのときの俺のペアは決まって薄汚れた茶色の壁だった。

皆の俺を見る目が怖かった。悪意で溢れかえったその目はトラウマになるには十分すぎるくらいのショックを俺に与えた。

そのことに耐えきれず一年も経たずにバレー部を退部した。

下校時に体育館から聞こえてくる練習の声掛けや、ボールが床を叩く音や跳ねる音が俺の鼓動を早めた。俺はなにか悪事でも働いたかのように、逃げるように足を動かした。

学校から少し離れた河川敷で中学生くらいの男の人たちがみんなでラリーをしていた。俺の耳がおかしくなかったら普通にバレーができたのかな。。。

またその場から逃げるように走ろうとしたその時だった。俺の足元には、黄色と青の大好きなボールが転がっていた。どうやら河川敷からこっちへ飛ばしてきたらしい。なにか俺に向けて叫んでいるが残念ながら俺には届かない。あんたたちは当たり前のようにバレーができて、話せていいよな。そう思ってしまう俺は性格難ありの要注意人物なのかな。

気がつくと知らない人が目の前に立っていた。何やら必死に話している、けど、俺には届かないんだって。俺は無愛想にボールを押し付け帰路についた。


その翌日、毎度のごとく最後の授業終わりのチャイムを追いかけるように正門をくぐった。昨日の人たちは今日もバレーをしているだろうか。嫌な態度をとってしまった。バレー好きは仲間なのに。。。少し期待しながら河川敷へ向かう。といっても河川敷は単なる帰り道だ。お兄さんたちがいることを切望し目線を上げる。が、そこは人の気配がまったくなかった。気分が晴れないな、石切でもしていくか。俺は川の近くまで行き平らな石を選別した。投げる角度を気にしながら投げた一投目は跳ねることなく沈んでいった。まるで俺の気持ちみたいだな。。。おっと早くも厨二病が発現したのか。気をつけよ。喋られない分独り言は達者である。表情とか口パクから何を言ってるのかくらいだいたい分かるんだからな。

一人演説会に夢中になっていたとき、眼の前の川で何かがはねた。魚かな。魚にしては小さかったような。そう思う隙もなくまた跳ねた。石だ!!バッ!と横を見ると会いたかった人が笑っていた。でも昨日みたいに何人かいるわけではなく彼は一人だった。おれが気づいた事に気づいたその彼は近寄ってきてこう言った。

「きのうはぼーるひろってくれてありがと、ばれーすきなの」俺の事情を察してくれてくれていたのか、ありえないくらいゆっくり言ってくれた。俺はすぐさま首を縦に振り応答した。

「いっしょにしよ」さっきと同じペースで会話が進む。俺はただひたすら首を縦に振った。対人でラリーをしようと二人で話して決めた。ふわっとボールが向かってくる。手にボールが当たる感覚、収まる感覚。大好きだったものが鮮明に思い出された。俺はこういうふうに同級生や部活の子たちとバレーがしたかったんだ。。。

その時ボールが地面についた。彼が近寄ってくる。口角の移り変わりが早い。何を言っているのかわからない。ただ彼は俺の背中を擦って心配そうにこちらを見ていた。ああ、俺は泣いてるんだ。しょっぱいのが口の中に入ってきた。彼を見て、

「しんぱいかけてごめんなさい」自分がなんて発音しているのかがわからない。たぶん、合ってる、はず。

「だいじょうぶ。なにかあったの」また彼は話すスピードをゆっくりに戻してくれた。

彼とはその後、土に字を書いて話した。俺の事情も、辛かったことも全部静かに聞いてくれた。喋ってたところで聞こえないんだけどね。話し終わって彼も字を書き出した。「じゃあ毎日ここでやろう」そう書かれていた。首が反動で飛んでいくのではと心配になるほど、強く、大きく首を振った。そこから俺は彼と練習を重ねた。毎日学校から帰ると河川敷に行きボールと戯れた。彼はバレーがとても上手でいっぱい教えてくれた。

やっぱり、バレーをする時間が大好きだ。いつか彼のような仲間と試合に出て・・・なんて浅はかだな。期待はしてはいけないな。そう思うとやりきれない気持ちで胸が覆われた。俺を蔑む部員たちの中の誰よりもバレーに向き合っている自信が俺にはあった。だからこそ、生まれつきのもので線を引かれることに納得がいかなかった。彼のような人がもっといればいいのに。。。

この気持ちをぶつけようにも声が出ない。実際出すことはできるが聴こえないため自分がなんて発音しているのかがわからない。紙に書いても、何をしても収まることのない負の感情を見過ごしながら俺は受験生になった。

彼には受験があるからしばらくバレーはできないと言った。もちろん字でだけど、、

彼に出会えたことは奇跡であって、期待してはいけない。そう思いながらも志望校を決めなければいけないときどうしてもバレーを諦められずにいた俺は真っ先にバレーの強豪校がいいと母に申し出た。俺のバレーに対する熱意を知っている母は

「あなたの人生なんだからあなたが決めなさい」と伝えてくれた。そして俺が決めたのは県内でトップクラスの強さを誇る国山高校に決めた。

ここで俺はレギュラーを目指すんだ。

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