第4話 真相と見えない真実



電車が通り過ぎ、踏切の警告音が終わり遮断機の棒が上がる。

踏切の前で陸は覆面の男を取り押さえていた。

唸る男から覆面を剥ぎ取る。


「お前……っ!?」

「やっぱり、あんたが真犯人だったんだねっ!三原さん!!」

「何言ってんだっ!犯人はお前だろ!?」


顔を歪ませ抵抗する三原を陸は鋭い眼光で見下ろし、真相を語り出す。


「事件当時の防犯カメラに映っていた犯人が改札機を飛び越えるとき、右の手首から腕時計のベルトが見えた。ちょうどこれと同じやつ!」

「…っ!」


陸は掴んでいる三原の右腕の袖を捲った。

右腕には確かに腕時計がしてある。


しかし三原は鼻で笑い反論する。


「それが何だ?こんな安物、どこにでもあるだろっ」

「確かにね!腕時計だけなら証拠にならない。でも問題なのはだよ。三原さん、あんた左利きでしょ?」

「な……っ!?」

「右利きの人なら普通は左腕に、左利きの人は右腕に腕時計をするはず!試しにペットボトルのフタを開けるのを頼んだとき、あんたは右手でペットボトルを持って左手でフタを開けてたよね!」

「……っ!!」

「乗客達を襲ったときナイフを右手で持っていたのは犯人は右利きだと思い込ませるため…っ」

「…くっ」

「凶器のナイフは廣野 陸のマンションの台所から持ち出したんでしょ?凶器や服と仮面を事務所の近くで捨てたのも、アリバイがないようにスケジュールを調整して、わざわざご丁寧に睡眠薬入りの弁当を差し入れたのも、全ては廣野 陸に罪を被せるためだったっ!」

「…っ!?」


図星なのか三原は悔しそうに唇を噛み締める。


「あと、ついでに言うと朝もらった野菜ジュース飲んでないから。最初開けようとしたとき、フタから音がしなったもん!多分開けて睡眠薬でも入れといたんでしょ?飲んだふりして胸に仕込んどいた保存袋に入れてたんだよ。…まあ、押さえつけるとき零れちゃったけどね」


そう言って陸はパーカーのチャックを開け、胸の辺りに手を突っ込み、忍ばせていた袋を取り出した。


「くっそぉ…っ!何だお前は!?まるで全部お見通しだって顔しやがってっ!!」


イラついたのか三原の目はホラー映画に出てきそうな顔に変わる。

瞳孔が大きく見開き、こめかみには血管が浮き出し、物凄い形相で陸を睨んだ。




† † †





―――― 一方、遡ること15時間前 ――――




―――警視庁『資料課』




「…あれ?」


気がつけばそこは本棚が並ぶ倉庫のような場所だった。


陸は黒い長椅子ソファに座っていた。

長椅子の周りには、何故か神社でよく見る縄と白いひらひらとした物が正方形の輪をつくり囲っていた。


俺、学校にいく支度をして…制服に着替えてたんだよな……。


目の前には自分を写す鏡ではなく、知らない男が気だるそうな顔で陸を見ていた。


「ここは…」

「はじめまして、廣野 陸さん。ここは警視庁。で、俺は警部補の黒川くろかわ 朝陽あさひです」


黒川は陸に警察手帳を見せた。


手帳には黒川朝陽とあるが、写真は制服をきっちりと着込みキリッとした顔の男の姿だった。


とてもじゃないが目の前にいる無精髭に眼鏡のやる気なさそうな男と同じ人物には見えない。


「警視庁!?なんで…っ」

「突然で申し訳ないが事件解決のために、あなたの魂と姪っ子のもらった」

「…は?事件?魂?」

「まずは、を確認してください」


黒川は手鏡を取り出し、陸を写すように前にかざした。


鏡に写った自分を見て陸は驚いた。


鏡に映っていたのは、知らない女の子だった。


女の子はくせっ毛の明るい黄色がかった金髪。

短めの太眉にまつ毛が長く、淡褐ヘーゼル色の大きな瞳。

小さな鼻にピンク色のぷっくりとした唇。


特徴的だが愛嬌のある顔だ。


あどけない容姿に金髪…女子高生JK、コギャルだろうか。

星にシャラシャラとした派手なピアスしてるし…。


「なっ!?何で俺女の子に…っ?てか、胸…おもっ!!」


首から下を見ると、水色のブラウスに黒のスカート。白いカーディガンに襟には黒のリボン。

完全にJKの格好だった。


強調する胸を揉んでみる。


「間違いないっ、本物の胸だ!つか、Dか?それともE?」

「あ~…、男として気持ちはすごく分かるが、俺の姪っ子の身体だから、そんなに揉まないでやってくれ」

「あ……スミマセン」


黒川に注意され、陸はパッと胸から手を離す。


「で、話を続けていいかな?」

「あ!そうだっ!!何で俺とこの子の身体が入れ替わってんだよ!?事件って何の事だ!?」


ハッと気づき、陸は問いただす。

黒川は気だるそうに説明を始めた。


「俺達の家系はシャーマンの一族で、オカルト的な能力を持っている」

「シャーマン?」

「…と言ってもだいぶ前に廃れて、今はエセ霊媒師として副業程度にやってるけどな」

「エセ霊媒師?」

「で、冤罪を防ぐのと事件解決ために、あなたと姪っ子の魂を入れ替えさせてもらった」

「冤罪って…どういう事だよ?」


眉を潜め訝しげに聞く陸に黒川は続けた。


「あなたと姪っ子が入れ替わった日、あなたのところに警察が尋ねてくる。そして、殺人の容疑をかけられる」

「…エっ?」

「一端は警察の手から逃れられたが…その15時間後…あなたは奥多摩にある踏切で飛び込み自殺した」


黒川は側にある新聞紙を何枚か取りあげ、陸に見せる。 


新聞の一面には『ハロウィンの悪魔は人気タレント!?』『廣野陸、警察から逃げきれず、飛び込み自殺か!?』と大きく掲載されていた。


「そ…そんな……っ!俺が自殺!?てか、俺がハロウィンの悪魔って何でだよ…っ!!?」


顔面蒼白で陸は新聞を読む。

無意識なのか、新聞を持つ手が震えてくしゃくしゃになっていく。


「…いや、でもこれってドラマの小道具かなんかじゃ!?それともドッキリっ!?」


半信半疑の陸は、黒川を問い詰める。


「まあ、そう思いたいのは分かる。でも本物だ。ただ、日付けをよく見てくれ」

「え……っ!?」


黒川の言う通り日付けを見ると、日付けは陸が翌日だった。


「え……っ、これ、明日の日付け?」

「そう、ここにある新聞はあなたがいたときから後の新聞。そして、ここは


あんぐりと口を開いている陸に、黒川はさらに続ける。


「でも大丈夫だ。事件が解決すれば、あなたの魂は元の身体に戻る。姪の陽葵ひまりはJKでも、下手な刑事よりずっと優秀で果敢な女の子だから必ず事件の真相を解明し、あなたを救ってくれますよ」


黒川の気だるそうな黒い眼が、一瞬だけ鋭く光放った…気がした。




† † †



「―――――放せっ!?」

「っ!?」


三原は隠し持っていた折り畳み式のナイフをポケットから取り出し、陸に切りかかった。


陸は間一髪で避けて三原から離れたが、頬に小さな切り傷ができてしまった。

傷口からじわじわと血が垂れ落ちていく。


陸が離れ拘束を解かれた三原は立ち上がった。

瞳孔は開きっぱなしで額には嫌な汗をかきながらナイフを向けていた。

獣のような荒い息で話し始める。


「死んでくれ……俺のためにっ!」

「何?そのストーカーとかが言いそうなセリフ。気持ち悪い。動機はお金じゃなかったの?あなたギャンブル好きで多額の借金があるんでしょ?」


陸は垂れ落ちた血を袖で拭いながら、三原に問いただす。

三原は鼻で笑い、口を開いた。


「最初はな…っ。借金で手が回らなくなって事務所の金に手をつけた。それを同僚アイツに知られて社長に告げると言われたんだ」

「…だから口封じのために殺したのね。警察の捜査を撹乱するために、無差別の襲撃事件を起こした。そして廣野 陸を犯人に仕立て上げて自殺に見せかけて殺そうとしたんでしょっ!」

「ああ、そうだっ!それにお前はに必要だと言われたんだっ!」

「…あの薬?」

「俺は昔アクション俳優だったんだ!でも全然売れなくて諦めてマネージャーになった。あの秘薬があれば、俺はスターになれる!そのためにも陸っ、お前はここで死ねっ!死んで俺の糧になれぇぇぇ…っ!!」


三原がナイフを振りかざし襲ってきた…その時っ



―――ガシッ...っ

「っ!!?」


「確保…!!」

三原みはら 賢次けんじ!殺人未遂の現行犯で逮捕!」


茂みから制服警官と刑事が飛び出し、三原を取り押さえ手錠をかけた。


手錠をかけられた三原は驚いた顔で刑事達を見る。


「どっ…どうして警察がここに……っ!?」


三島の疑問に馬面の刑事が現れ、スマホを見せる。


「廣野 陸さんのライブ配信です。全て

「っ!!?」


陸の方を振り向くと、陸はポケットからスマホを取り出した。

スマホの画面には三原が警官に取り押さえられている姿やコメントが次々と流れていた。


「言ったでしょ、って」

「くっ…くっそぉぉぉ…っ!」



山の暗闇の中で、三原が悔しそうな雄叫びが響く中、陸の意識が遠くなり倒れこんだ。





† † †



「……――――――っ」


目を開くと見慣れた書庫の中だった。

長椅子ソファに座り雑誌を開いていた。


「お帰り、。無事に任務完了のようだね」


目の前にいる叔父の朝陽は真面目な顔で陽葵を見ている。


「―――で、どうだった?やっぱりが関係してたか?」

「…うん」

「そうか…なら、今後も被害者の身体と入れ替わって潜入しないとな」


これ以上、のせいで犠牲者を増やさないためにも!


朝陽の言葉に、陽葵は強く頷いた。





                ― fin ―

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invisible ~ハロウィンの悪魔 指名手配された少年の行き先は?~ 桐丘小冬 @kiyuu5555

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