第3話 ハロウィンの悪魔
『ハロウィンの悪魔事件』
正確な事件名は『列車内無差別殺傷事件』
今年の10月31日のハロウィンの夜、快速電車の車内で襲撃事件が起こった。
犯人は雨ガッパのような黒い上着にズボン。
フードを深く被り、顔は仮面を被っていた。
白に不気味に笑った仮面を被って…
右手にナイフを握り乗客達を次々に襲いかかった。
仮面の男(目撃者達や防犯カメラの映像で、肩幅が広く背丈が高いことから、男だろうとテレビで報道された)は素早く俊敏だった。
手すりやつり革を上手く使い、絶妙なバランス感覚で飛び移り、逃げる乗客達を切りつけた。
素早く飛び移る不気味な姿は、まるで悪魔のようだったと後に被害者達は言った。
車内から出て逃げようとしても走行中の電車はドアは開かない。言わば密室状態。
次の停車駅までの数分間、車内は血飛沫が飛び舞う地獄だった。
† † †
停車駅についた列車は何事もなかったようにドアが開いた。
ドアが開いた瞬間、鉄の匂いが広がり、中は血まみれになっていた。
泣いて怯えている乗客。
呻き声をあげて倒れこんでいる乗客。
顔を歪ませ虫の息の乗客。
ホームで待っていた人達はあまりの悲惨な光景に、悲鳴をあげたり驚愕な顔で立ち尽くすしたりとカオス状態だった。
そんな時、車内から黒い影が飛び出してきた。
その影は片手に血まみれのナイフを握り、血飛沫で赤く汚れた白い仮面の男(?)だった。
仮面の男は人混みをすり抜け、ホームからエスカレーターを昇り、駆けつけた駅員や警察官を軽やかな動きで交わし改札口に向かい、改札機の前で高く飛び越え後転し外へ。
報道テレビで防犯カメラの映像が一部流れたのを見たが、無駄のないスタントマンのような動きだった。
軽傷者、重傷者合わせて、30人以上
死亡者、1人
仮面の男は行方を眩まし今も捕まってない。
『ハロウィンの夜』に『不気味な仮面の男』などとセンセーショナルなネタにマスコミ達は食い付きてきた。
テレビや新聞を始め、一般的な大衆紙でも大きく掲載された。
ネットやSNSでも、当時、ホームにいた誰かが動画に撮っていたらしく大バスりし、仮面の男は『ハロウィンの悪魔』と呼ばれるようになる。
そしてネットでは犯人捜しで話題になり、犯人は身体能力からするとサーカス団かアクション俳優ではないか!?
あるいは日本政府に対するテロ活動の仕業ではないか!?
1人殺されていることから、誰かが雇ったプロの殺し屋ではないか!?
…などと、大炎上していた。
†††
「...何で、俺がこの事件の犯人にされてんだ?」
後部座席に座り雑誌を広げながらスマホで報道のライブ映像を見て、陸は運転席で運転している三原に聞いた。
「それが…刑事達に聞いたんだが、凶器が見つかったんだ…血痕がついた服や例の仮面と一緒に」
「…どこで見つかったんだ?」
「うちの事務所の近くのゴミ捨て場だ」
「…エっ!?」
「凶器には、お前の指紋がついていた…っ」
「…っ、なるほど、だから警察は俺が犯人だと…!」
「ああ、事件当日、お前にはアリバイはない…だろ?」
「……」
確かにそうだ。
偶然にも、ハロウィンの夜は仕事がなかった。
それまではドラマや番組の撮影で休めない日々が続いたというのに…っ。
連日の仕事が続いたせいか三原さんからもらったお弁当を食べたあと眠くなってしまい、着替えないまま寝てしまった。
起きたのは翌日の朝。
アリバイはない…。
陸は苦虫を噛み潰したような顔で、スマホのライブ映像を見る。
ライブ映像には人混みをすり抜け、駅構内を走り回る仮面の男が映っていた。
映像が切り替わり、改札口の場面になる。
仮面の男が改札機の前で飛び出したとき、右手首の袖から黒い腕輪が見えた。
仮面の男が逃げ去ったところで画像はスタジオに切り替わった。
「…」
陸は喉が乾いたので、カバンに入れてある飲み物を取り出し開けようとした……が、汗で上手く開けられなかった。
「スミマセン、三原さん。開けてくれませんか?」
「ん、ああ…。ちょっと待ってな」
三原は次の横断歩道で信号変わるのを確認すると、車を止めてペットボトルを受け取り、右手で持ってフタを開ける。
「ほい」
「サンキュー」
「それより、陸。これからどうするんだ?」
陸がペットボトルを受け取ると三原が重い声で聞いてきた。
陸は飲んでいたジュースのフタを閉めて、真剣な眼差しで鏡に写る三原を見て応える。
「…まずは逃げる!それから真実を明らかにして、真犯人を捕まえるっ!」
鋭い眼差しで、鏡に写る三原を見た。
本気さが伝わったのか三原は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニイッと笑い、そう来なくっちゃ!と言い車を走らせた。
「とは言ったものの…逃げるってどこへ逃げればいいのか…」
最初はとりあえず警察の手から遠くへ…と思って自転車に乗って逃げ出した。
よくドラマでは、逃亡なら北へ行くんだ!ってあるが北に行っても何もない。。
どうしたものか…と頭を抱えといると三原が口を開いた。
「それなら、多摩に行くか?」
「多摩?」
「ああ、多摩なら隠れるツテがある。それに、東京でも都心から離れてるし、あそこなら、山ばかりで防犯カメラも少ないだろう」
「…なるほど。じゃあ、多摩までお願い」
「わかった」
多摩に決定し、三原はハンドルを切る。
「三原さん…」
「何だ?」
「…ありがとう」
陸は小さく頭を下げてお礼を言う。
「ハハっ、いいってことよ。俺はお前のマネージャーだからな!それより、そこに毛布があるだろ。高速道路にもカメラが設置されてるから、毛布被って寝とけ。多摩に着いたら起こしてやるから」
「……わかった」
そういえば、なんか急に眠く…っ。
陸はその場で眠りこんでしまった。
† † †
―――――夜…
森中の木という木が、風で葉擦れでざわめく闇の中、けたたましい警告音が鳴り響く。
黄色と黒の警戒色の棒がゆっくりと下がり、赤い光がチカチカと光る。
踏み切りの音だ。
遠くから鈍い光を差した電車が近づいてきた。
踏み切りの前で覆面をした黒い男が息を切らしながら金髪の男を担いで立っていた。
金髪の男は寝ているのか、ぐったりとして動かない。
「ワルイナ…オマエニウラミワナイ…ガ…コレモユメノタメ…っ!」
そう呟きながら電車が踏み切りまできたとき、覆面の男は金髪の男を突き飛ばした。
「――――――――――っ!!」
電車が通り過ぎて警告音が鳴り終わる。
遮断機が上がると、踏切の一部は赤く染まっていた。
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