第2話 逃走




――――正午過ぎ


朝からずっと自転車で逃走していた陸だが、運悪く穴が空いてしまいパンクしてしまった。


仕方なく自転車を止めて降りる。

気づけば汗だくで息を切らしていた。

喉もカラカラで熱い。


顔を隠すのにパーカーを着てフードを被り、マスクをしていた。今は汗と息で熱くて気持ちが悪い。


陸はタオルで汗を拭い新しいマスクに変えようとした。

でもその前に水分補給が先だと思い、近くの自販機でミネラルウォーターを買う。


冷たい水を飲みカラカラで熱かった喉と身体がゆっくりと冷めていくのを感じる。


辺りを見ると道路の案内標識があり『調布市』とある。


とりあえず、都内にギリギリ出たというところだろう。


しかし、これからどうすか?


自転車はもう使えない…。


自転車を使って逃げだしたのは、以前、情報バラエティー番組にゲスト出演したときの特集を思い出したからだ。


その特集では時効間近まで逃亡した殺人犯のことで、再現では警察に捕まる寸前まで追い詰められた犯人が近くにあった自転車に乗り、間一髪のところで警察から逃れられたという。


それで最近はあまり使わない自転車の鍵を机の引き出しから取り出し、窓から逃げ出たのだ。


普段身体を鍛えているのとスポーツクライミングのおかげで近くにある非常階段まで移動した。

階段を降り、刑事達に見つからないように裏道を通って自転車置き場に向かい、何とか自転車に乗って脱出成功したのだが…


自転車がパンクしてしまったのなら、次の逃走手段を考えなくてはならない…っ。



お金はある。


しかし、現代いまはタクシーはドライブレコーダーが付いている。


バスや電車という手段もあるが…田舎ならともかく都会の場合、バスの停留所や車内には防犯カメラが設置されている可能性がある。


特に電車の場合は…


これも情報バラエティーの特集でだが、ある宗教団体が大事件を起こし教祖は逮捕されたが、信者の幹部の何人かは逃亡した。

その中の一人が何年かくらい前、都内にある駅の防犯カメラにより見つかり捕まったという。


都内から出たとはいえ駅構内には防犯カメラが設置されている。


駅や停留所だけじゃない。

コンビニやスーパー、ホテルやネカフェ…。

限られているとはいえ、街道にも設置されている…っ。


移動手段どころか、買い物すらできないではないか…っ!



「くそっ……どうすれば…っ!」


頭を抱えていると、遠くのほうからパトカーのサイレンが聞こえハッとする。


「ヤバ…っ!?」


急いでペットボトルの蓋を閉め、自転車を放置して駆け出した―――その時、



――――――キキイッ…

「…っ!?」


目の前に車が止まり、遮られた。


立ち止まり警戒するが車の窓が開き、運転手の顔を見て陸は驚いた。


「乗れっ!」

「三原さんっ!?」


車を運転していたのは陸のマネージャー、三原だった。


「どうしてここが…っ!」

「説明は後だっ!とにかく乗れっ」


サイレンがどんどん近づいていく。

陸は急いで後部座席のドア開け、乗りこんだ。


三原は陸が乗ったことを確認すると、すぐに車を走らせた。


「三原さん、なんで俺がここにいるってわかったんだ…?」


陸はスマホの電源を消してある。

GPS で位置情報を探らせないために。


三原は少し苦笑いしながら答える。


「陸、タブレット持ってるだろ?そのタブレットに俺がGPS つけといた」

「えっ」


陸がカバンの中を確認すると、いつも使っているタブレットが入っていた。


「な…なるほどね……」


いろいろツッコミたいところがあるが、一応助けられたので、この事に関しては何も言わないでおいた。それよりも…


「三原さん、俺が殺人の容疑って…っ!?一体何がどうなってんだよっ!!」

「落ち着け!俺にも何が何だかさっぱりわからないんだ」

「そもそも俺は!?」


いくら考えても思い当たる伏しはない。

頭を抱える陸に、三原は側にある週刊誌を取り出し陸に渡す。


「お前が殺人の容疑をかけられている事件は、今朝話したあの事件だ!」

「…え?それって……っ」


渡された週刊誌の表紙には最近SNSで話題になっている事件名が大きく書かれていた。


三原は深刻な顔で頷く。


「ああ…あの『ハロウィンの悪魔事件』だ!」

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invisible ~ハロウィンの悪魔 指名手配された少年の行き先は?~ 桐丘小冬 @kiyuu5555

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