だだ洩れ☆注意!

リコピン

胸キュンは乙女の媚薬

1.




――――――集中…っ!


キャラ理解をした私の中に、役が入り込み剣術の構えをする。


独特の呼吸を合図に抜刀する。


風を切るような音が広い室内に響き渡ったのと同時にスマホのタイマーが鳴り出した。


けたたましいタイマー音で、役が抜け出た私は慌ててバックの元に向かいスマホを取り出す。


「あと、一時間か…」


スマホのアラーム音を消して、10分に設定して休憩に入った。

床にペタンと座り、なんとなく室内を見渡す。


ここは公民館。学校の教室よりも広い室内で中には私一人だけ。


私は寿ことぶき 莉子りこ、十六歳。

現役 女子高生JKであり、また役者でもある。


役者と言ってもまだ駆け出しの新人役者だから学校帰りの今、私は公民館の部屋を借りて一人個人レッスンをしている。


なぜ一人で個人レッスンしているのかと言うと…理由はやっぱり私がまだ新人役者で、演技に自信がないからだ。


今練習していたのは、来年、上映予定の映画に向けてである。


社会現象を巻き起こした大人気漫画が数年前にドラマ化や映画化になり、そして今年、二作目の映画化を発表した。


私が演じる役は主人公ではないけど、主人公を支える大切なキャラ。

だから出番もそれなりに多い。


なにより、原作ファンの中では大人気キャラで推している人はかなり多い。


そんな重要なキャラを私は演じなくてはならない…っ。


原作者やファンをはじめ、映画を楽しみにしているお客さま達のご期待に応えるため、全身全霊で取り込んで演じなければ…っ!


拳を握り時間を確認すると、まだまだ時間があった。


てのひらを見て結構汗をかいていたことに気づき、バックからタオルを取り出して汗を拭いた。

今は学校のジャージを着ているから、帰るときは着替えないといけない。


窓の方に顔を向けると、窓とカーテンは全部閉まったままだけど、外は薄暗いのがわかる。

時刻は四時半を回ったところ。


もう九月を過ぎて十月だもん。

暗くなるのも早いか...。


この部屋を借りられるのは二時間。


「課題とかやらないといけないし、制服に着替えないとだし…練習は30分くらいにしておこう」


そう決めて軽くストレッチしたとき、入り口の方からコンコン…とノック音が聞こえてきた。


「は~いっ、誰…ですか?」


誰だろう?公民館の人かな?

もしかして、練習で大声出したり、ドタバタしていたから、うるさくて苦情がきた...とか?

どうしよう...怒られるのかな?

下手したら出禁になったりして……っ!


恐る恐る入り口に向かうと、聞き覚えのある声が廊下側から聞こえた。


「俺だよ、莉子ちゃん」


低いけど、優しくてハスキーボイスな声の主は…っ!


「ひっ、紘野さん…!?」


月9ドラマで大ヒット、歌とダンスと演技で世の女性を魅了する、今人気絶頂中のマルチタレント、紘野ひろの陽平ようへいだった。

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