invisible ~ハロウィンの悪魔 指名手配された少年の行き先は?~
桐丘小冬
第1話 殺人の容疑
枯れ葉が舞う、ひんやりとした早朝。
青空に筋雲が広がり太陽の光が射し込む。
まだまだ秋を感じさせる朝である。
そんな穏やかな空の下、一人の少年がペダルを漕ぎ、ものすごいスピードで自転車を走らせていた。
まだ朝早いとはいえ、歩道には出勤する会社員や学校に行く学生など、チリチリに歩いている。
少年は歩道を外れ車道の脇道を猛スピードで走り出した。
少年の名前は
十六歳の男子高校生。
ただし!陸は、ただの男子高校生ではない!
陸は芸能人。
それも、月9ドラマで大ヒット。歌やダンスも何でもできる、今や知る人ぞ知る人気絶頂中のイケメンマルチタレントである。
そんな彼がなぜ必死になって自転車を漕いでいるのか?それはドラマの撮影中だから……
というのは残念ながら違う。
彼は今、誰かに追われているのだ。
追っているのは彼のファンの女の子達?
いや、違う!
彼を追っているのは警察。
それも何台かのパトカーがサイレンを鳴らし廻っている。
彼は殺人犯として指名手配されているのだ。
――――今、捕まるわけにはいかない!
陸は無我夢中でペダルを漕ぎながら、三十分くらい前の出来事を思い出していた。
† † †
――――三十分前
今日は平日だから学校に行く支度をしていた。
陸は都内にあるマンションで、一人暮らしをしている。
家族も一応東京には住んではいるのだが、タレントになって稼げるようになってからは、親や弟に迷惑をかけたくなかったので、事務所に近い都内に住むことにした。
テレビの天気予報を聞きながら、鏡の前でYシャツの腕ボタンを止めていた。
蜂蜜色の瞳に
肌が陶器のように白く、整った顔立ち。
中性的な顔に長い髪を一つに束ねた姿は、パッと見て女性と間違えられるほどだ。
鏡でチェックしていると卓上に置いてある充電中のスマホが鳴りだす。
タップするとメールが届いてた。
差出人はマネージャーからだった。
昨晩はお疲れさま。
差し入れを持ってきたよ。
もうすぐ着くから。
タップしてディスプレイ画面にする。
――2019年 11月21日 木曜日 7:24――
「ヤバイ、遅れる…っ」
スマホの充電量を確認すると陸は充電器を外しポケットに入れ、カバンに入れっぱなしの財布や鍵を確認する。
確認したら今度は机の引き出しを開けた。
その時、インターホンが鳴り出した。
訪問者を確認すると、細長い顔に黒縁眼鏡の地味な男がインターホンの画面に映っていた。
マネージャーの
玄関を開けると、三原は遠慮がちに笑いながら入ってきた。
「おはよう。昨日はドラマの撮影で大変だっただろ?これ、サンドウィッチと野菜ジュース!」
近くのコンビニで買ってきたのだろう。
白いレジ袋にはハムサンドと野菜ジュースが入っていた。
「サンキュー、三原さん」
礼を言いながら、陸は三原を部屋に招き入れる。
「でも今は三原さんだって大変だろ?例の事件で、うちの事務所の一人が殺されたんだから」
「ああ…、俺の後輩だったんだがな…。まさか、いつも利用している電車で、あんな事になるとはな…」
「一年くらい前にもありましたよね?電車内での殺傷放火事件」
「ああ、しかも今回は人殺しまでしている…!早く犯人捕まれば『♪~』…!」
三原が話していたとき、インターホンが鳴り出した。
「ん?誰だ、こんな朝早く」
「さあ…って、スミマセン、三原さん。俺まだ支度終わってないから、代わりに出てくれませんか?」
「え、ああ、いいよ」
三原は玄関に向かい、陸持っているレジ袋をカバンに詰めて、部屋のクローゼットからハンガーにかかっているジャケットを取り出して着る。
「はーい」
三原は玄関を開けると外には厳つい顔の男が三人立っていた。
三人の真ん中にいる馬面の男が口を開いた。
「すみません、こんな時間にお尋ねして。
こちら、廣野 陸さんのお宅ですよね?」
「はい…そうですが…」
「我々は、こういう者です」
馬面の男が懐からある物を取り出すと、他の男達も同じように何かを取り出した。
キョトンと首を傾げる三原に男達が見せたものは警察手帳だった。
「けっ…警察!?」
驚いた三原に真ん中の馬面の刑事が訊ねた。
「あなたは?廣野 陸さんとはどういう関係で?」
「お、俺は、陸のマネージャーでして…っ」
「そうですか…。廣野 陸さんは、いらっしゃいますか?」
「え?」
「廣野 陸さんに“殺人の容疑”で逮捕状が出ています」
馬面の刑事は警察手帳をしまい、今度は逮捕状を取り出し三原に見せた。
「りっ…陸が殺人って…っ、一体何の話ですかっ!?」
「説明している時間はないので、失礼しますよ」
「っ!?」
突然の事で驚愕する三原を押し退け、馬面の刑事や他の刑事達はドカドカと部屋に入った。
勢いよくドアを開くと、部屋はもぬけの殻だった。
テレビの女子アナの明るい声だけが、部屋に響き渡っていた。
―――そして、三十分後の
陸は信号が点滅して赤になろうとしても止まらず、息を切らしながらひたすらペダルを漕ぎ続けた。
先の見えないゴールへと向かって…
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