王立総合病院精神科日記

紫葉瀬塚紀

ショート&ショート 1話完結

みっどりっのおっかの~あっかいやね~っ。ここは王国最大の総合病院。私キリイはその中の精神科の主治医だ。元々常人とは掛け離れた精神構造の持ち主が大半を占める世界なので、診察は多忙を極め、その為私自身もお早うからお休みまで、来る日も来る日も診察に当たらなければならない。

 今日も診察室の椅子に座るや、早速一人目の患者が訪れて来た。黒髪短髪童顔の何処にでも居そうな、至って平凡な特徴の無い顔付きの青年だ。

「こんにちは。どういった症状でお悩みですか?」

 私の質問に対し青年は無表情を変えずに

「冒険者をやっているのですが、色々なパーティーから誘われたり、美人で巨乳の女達が次から次へと寄ってきて、お陰で精神が落ち着かず困っています。俺は平凡に生きたいんだぁーっ!」

 と案外困った様子も見せずに語った。

「お聞きする限りでは、お悩みになる様な境遇には思えないのですが…」

「でも自分は何一つ特別な事はしてないんですよ。神様に能力を999個付与されたんですが、冒険者になってから一ヶ月で100人の魔王を倒して、500匹のモンスターも倒しました。悪い国王に支配された国を99国解放して、ついでに国王も皆殺しにして、ダンジョンを100箇所制覇して、城から出てフラフラしていて邪悪なゴブリンに襲われた王女を100人助けました。でもこれって誰でも出来る普通の事ですよね?別に自分としては何一つ特別な事はしてないのですが、周りが過剰に持ち上げて本当に参っているんです」

「なるほど」

 私はカルテに病状を書き込んだ。

『重度の認知障害。状況判断能力の欠如。社会適応能力皆無』

「お薬出しておきますので、一週間後に病状が変わらなければ、また来て下さい」

 見た目平凡な青年が帰ると、次の患者が診察室に入って来た。

「軍人をやっております」後頭部をポリポリ掻きながら困った様子で「国王が自分を軍隊内の重要な役職に付けようとしてまして…。今度の超大国との全面戦争の指揮官にも抜擢しようとしているんです。プレッシャーに潰されそうで、好物しか喉を通らなくなりました」

「名誉な事ではないですか!」

「でも自分は今まで何にもして来なかったんですよ」心底困った感じで頭を抱えて「軍隊に入って五年になるのですが、最初の年に敵対国を100カ国を攻め滅ぼしました。次の年に200000人の有能な兵士を訓練して育てました。次の年には魔物が棲む前人未踏の地に進撃して、999匹の魔物を退治しました。他には我が国に攻め込んだ超大型爬虫類型ハンター7000匹を700人の軍隊で包囲殲滅しました。この程度なら誰にでも出来るじゃないですか。何で自分だけ優遇されるのか分からないんです!」

「なるほど」

 私は病状をカルテに書き込んだ。

『重度の認知障害。状況判断能力の欠如。ただの鈍感』

「薬飲んで治らなかったら入院ですね」

 次に体格の良い大柄の男が入って来た。

「格闘家をやっておりますが、世界中の自称最強の男から決闘を申し込まれていて…。自分なんてただの雑魚なのに、もう鬱になりそうです」

「見た所中々御立派な体格をしておられますが…」

「全っ然っ!弱者中の弱者です。今まで一万試合をこなして来ましたが、9999KO勝ちで全て10秒以内で倒しています。ボクシングもやりましたが世界中の全タイトルを奪取し今も全部保持しています。オリンピックの柔道やレスリングにも参加し、全部金メダルを取りました。人喰い熊や巨大なワニとも999回戦って全勝しています。剣を持った勇者999人とも素手で戦い、切り傷一つ無しで全員5秒以内でやっつけました。でもこんなの格闘家なら誰でも出来る事で、何で自分だけ世界中から注目されるのか、全く理解出来ません」

 私はカルテに書き込んだ。

『重度の認知障害。状況判断能力の欠如。頭おかし』

「入院ですね。病室行って下さい」

 次に来たのはプロ野球選手だ。

「オーナーが年俸を一兆円にすると言って来て、更に世界最高級のリゾート地に100階建ての豪邸を建ててくれると言うんです。自分には余りにも不似合いで断っているんでが、しつこくて精神病んでしまいました」

「何が不満なの?」

「自分は何の実績も上げて無いんです。今のチームに入って十年になりますが、十年連続999安打を打って、ホームランを十年連続100本打って、十年連続9999打点を上げました。毎年ベストナインとゴールデングラブ賞も受賞しました。代表チームの主将にも選ばれ参加した世界選手権で全て優勝しました。ついでに二刀流で投手もやって300勝を挙げました。こんな事位どの選手もやっているじゃないですか。何で俺だけ…クソッ」

『重度の認知障害。状況判断能力の欠如。救い様の無い馬鹿』

「ハイ、死ぬまで入院していて!」


 忙しい一日の診断が終わると、美人で巨乳の看護師長が近寄って来た。

「お疲れ様でした、先生。今日も大変でしたね」

 私は大きく息を吐いて

「イヤ、まぁ、大した事無いよ。通常運転さ」

「でも今までも色々大変だったじゃないですか」

「そうでもないさ。ここに来て十年になるけど、今まで9999人の患者を完治させて9999の手術も全て成功させた。国王一族の御用達医師として全ての病気を治して勲章を999個受賞した。異世界にも召喚されて、神様や魔王の病気も全て治した。これ位ならどの医師でもやっている。大した事じゃない」

 美人で巨乳の看護師長は私の顔を見て呆れた感じで言った。

「お前も入院しろ、タコが」

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