第6話 革命の夜明け
「なんで一斉に奴隷が反乱を起こしとるんじゃあ!」
豪華な執務室でアクトーク子爵は、側に仕える執事に対して、わめき声をあげた。
「わかりません。 しかし奴隷どもが屋敷まで到達するのは時間の問題かと」
執事の報告を聞いたアクトーク子爵は口の端から泡を吹きながら、執事に詰めよる。
「あいつらにはちゃんとした飯も休日も用意してやった! それが何でこんなことになるんじゃ!」
「なんといっても元は犯罪者。その根底にはやはり反逆心が眠っているのかもしれません」
「くそっ! こんなことになるなら犯罪奴隷の受け入れなんぞするんじゃなかったわい……! しかしあの状況では仕方なかったが……」
ぶつぶつと一人の世界に入り込み始めた主人を見て、まだ少年の面影が残る眉目秀麗な執事ウラリは思う。
口調こそキツく、天邪鬼な部分があり誤解されやすいが、犯罪奴隷ですら平等に扱おうとしているアクトーク子爵は相当な人格者といえる。
現在では犯罪奴隷以外の取り扱いは固く禁じられているが、かつては人身売買が横行し、エルフの誘拐なども相次いだ。
しかしそんな状況を良しとしなかった先代のアクトーク子爵が、国王に働きかけ奴隷制度を現在の形に変えたのだ。
今では犯罪奴隷といっても刑罰としての強制労働以上の意味は持たない。
元々、奴隷制度嫌いのアクトーク子爵の領地には犯罪奴隷すらもいなかったのだ。
今回の受け入れは、自領の民がゴクアーク伯爵の領地で犯罪を犯したことに起因する。
人数にして二十人。それぞれが別の罪でほぼ一斉に犯罪奴隷に堕ちた。
格下貴族の領民が他領で逮捕などされれば、罪の程度にもよるがそのまま斬首でもおかしくない。
しかしなぜかゴクアーク伯爵は犯罪奴隷としてそのままこちらに送り返してきたのだ。その理由に心当たりがないこともないが、今はいいだろう。
「まぁですがここにたどり着いたとしても外の私兵がなんとかします。朝には王都からの増援も来ますから悲観することはないでしょう」
「ウラリ……。そうだな、だが万が一の時はワシを置いてお前は逃げろ」
「……。本当にそうなったらそうさせてもらいますよ」
目を逸らして呟くように答えるウラリを見て、子爵は微苦笑を浮かべる。
「では私は私兵の配備を確認してきます。旦那様は執務室から出ないように。言いつけを破って何かあっても知りませんよ」
その視線が心地よくもうるさくもあり、少し逃げるようにウラリは部屋から退出した。
幼くして天涯孤独となり人生に絶望したウラリを引き上げてくれたのは、アクトーク子爵だ。
彼を置いて一人逃げることなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
※※※
そこはアクトーク子爵の屋敷がある街からほど近い丘の頂上。
馬上の男とその横に控えるうら若き金髪の乙女が街を見下ろしている。
「あの街はなんという名であったか?」
「ハイトークでございます。ゲバラくん指導者様」
「アナスタシア。あの街を取るぞ。革命の第一歩である」
アナスタシアと呼ばれた乙女の瞳にはゲバラくんへの畏敬、崇拝、恋慕の念がたたえられている。
アナスタシアは彼の崇拝者第一号であることに誇りを持っていた。
「そろそろ同志たちへ檄を入れてくださいませんか? 我らはゲバラくん指導者様のお言葉を待ち焦がれているのです」
ゲバラくんはうなずき、ゆっくりと振り向く。
そこでは二百人を超える老若男女が武器を手に取り、ゲバラ君の言葉を待っていた。
最初はアナスタシアと犯罪奴隷二十人の一行だったのが、ハイトークに向かうまでの間に立ち寄った村の住民、襲ってきた盗賊などが同志に加わり、この大所帯となったのだ。
「我が革命の尖兵達よ! 我が同志よ! 貴様らの非強制的な社会を求める志によって、国家権力を打倒するのである! この革命闘争の緒戦をもって世界に宣言するのだ! 今後体制側に未来永劫安寧の日は訪れないと! 逆らう者はそれが個人であれ、貴族であれ、国家であれ、討ち滅ぼして進め! 貴様らは死兵である! 刺し違えてでも自由のために闘争を続けるのだ! さぁ、進軍せよ!!」
馬上からゲバラくんが声を張り上げ、同志たちを『扇動』する。
「うおおおおおおお!!!!」
「支配階級を殺せぇぇええええええ!!!!」
「自由への招待だぁぁぁあああ!!!!」
「足取りも中指も早くぅぅうううう!!!!」
彼らは叫び、無我夢中でアクトーク子爵の屋敷に向かって一斉に駆けだした。
全速力の馬を駆るゲバラくんと並走して。
引きこもり、イカれたヤンキーたちと異世界を救う旅に出る 紀田のれん @kozdy
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