第9話
ゼラを前衛とし、クリスタルゴーレムのもとに駆け出す。
20mはあろうクリスタルゴーレムの巨体から繰り出される拳がジェラルドをとらえていた。
正面からの確実な死の重圧。
貴族としての誇りなど、既に持ちえていなかった。
ただ受け入れるのみ。
だが、ジェラルドを肉塊へといたらせるはずであった拳は、ゼラによってジェラルドを捉えそこなう。
ゼラのラウンドシールドによるパリィ
盾は粉砕し、左腕も折れ曲がってしまっている。
一度きりの好機
パリィによって態勢を崩すことが作戦の第一段階であった
俺の【加速】は自身の動きを加速させるだけだ
だが、直線での最高速度の一撃になれば、必殺の一撃になるだろう
俺の持つ剣ではクリスタルゴーレムの硬度に耐えられるのも一撃
ならば、態勢を崩したクリスタルゴーレムへ最高速での一撃を与えるしかない
自身に【加速】をかけ、眼前のクリスタルゴーレムへと――
俺の刃は、核である奴の頭を捉え、両断する
核を失った結晶体は機能を停止し、その場に崩れおちる
俺たちの勝利だ
「お疲れ~お見事!」
マーカスの治療を受けているゼラが労いの言葉をかけてくる
勝利を確信していたのだろう、避難をしていなかった
逃げておけ、と思うが、それよりも重要なことがある
「本当に回復魔法が使えたんだな」
「水属性でも才能ある人はできるんだよね。僕とか」
固有魔法を隠していたのかと思ったが、本当に水属性だったらしい
なんでも、回復魔法は光属性の専売特許だと思われているが、実際は水属性でも使える人はいるとのこと。
命の源泉が水だかららしい
ゼラの左腕に水が膜をはり、癒している様子は不思議だ
「それと、公爵家はあっちだよ」
マーカスの指さす方に視線を移すと、焼死体に集まるジェラルドとリッターの姿があった
彼らにとって大事な仲間だったのだ。布にくるんでいる
悲痛な面持ちではあるが涙は流していないのも、貴族としての矜持か、それとも貴族として、戦士として戦った彼女の名誉のためか
その後もお互い会話をすることなく、学院へと戻るのであった
異世界英雄譚の少年A ハレバレ @may_be
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