第8話

ラブレー迷宮3層。通称ボス部屋。

3層へ下ると広い円形の広場へとでる。

迷宮の最下層に位置するボス部屋はどこもこのようなつくりになっており、迷宮が戦えといっているように感じる。

迷宮には意志があるのではないかといわれている所以だ。


情報によるとラブレー迷宮のボスはゴーレムだときいていたが、眼前にいるゴーレムは普通ではない。


「あれって、ゴーレムじゃないよね。」


「そうだな。レアエネミーってやつだろ。ラブレー迷宮のレアは大したことないんじゃないか」


眼前のゴーレムから発せられる異様なプレッシャー。そして、既に戦っている学院の学生の様子から不安がるのも当然だろう。

そんなゼラを安心させるため、マーカスに魔物の脅威を確認する


「いや、あれは初心者レベルを超えてるよ。耐えてるだけすごいことだよ」


レアエネミーはクリスタルゴーレムという迷宮の鉱石から作り出された希少種であり、通常とは比べものにならない硬度を誇る。

さらには、魔法を反射させるといった魔法無効化を特性に持つため、魔法使いにとっては相性が最悪なのである。


現に、戦いを繰り広げている学生は有効打がない様子だ。


「どうする帰るか?」


「でも……あの人たち……」


帰還するということは、見捨てるということだ。ゼラも理解しているのだ。


だが、俺たちがいったところでどうなる。何もできずに終わるだけじゃないのか。


「公爵の人たちは助けてほしくないんじゃないかな」


と、マーカスの指さす方をよく見てみると、3大公爵家と他の貴族家の学生がいることに気づく。


公爵家は魔法主体であるため、パーティーバランスの為に他の学生に前衛を任せているのだろう。

前衛も頑張ってはいるがクリスタルゴーレムの硬度にかなわず、有効打を入れているようにはみえない。


「あ、」


ゼラのつぶやきと同時にクリスタルゴーレムの巨腕が前衛の頭部をはじけ飛ばす。

そこから、瓦解するのははやかった。

魔法への絶対耐性をもつクリスタルゴーレムは魔法に臆せず距離をつめ、後衛の公爵家に拳を振り下ろす。


光属性の攻撃魔法を得意とするイレイラは、迫りくる巨腕への恐れから自身の最大火力である聖光を放った。

放たれた光はクリスタルゴーレムに届くことはなく、反射しイレイラ自身を焼き尽くす結果となった。

残ったのは、焼きただれ、判別不可能となった女の死体。


残る2人。ジェラルドとリッターも同じ運命をたどることになるだろう。

ジェラルドは純粋な火属性の魔法使いであり、リッターは剣士ではあるが彼の剣は固有魔法である【剣製】で作られている。

魔力による剣であるためクリスタルゴーレムにはじかれているようだ。

さすがの高貴な貴族でも焦りがみられる。


「マーカス。『助ける』ことはできるのか?」


初めて同期の醜く死んでいく姿を見たのだ。ゼラは吐いてしまった

助けなければ心の傷として残ってしまうだろう。


それに、マーカスは「できない」ではなく、「助けられたくない」といっていた。

何か作戦があるんじゃないのか。


「ジークならできるかもしれないけど。助ける必要ある?」


一緒に活動していて思ったことがある。マーカスは意外と冷たい。いや、冷静と言うべきなのだ。


迷宮探索は自己責任であり、自身の、仲間たちの命を投げうってまで助けることは普通はしない。

そして、彼ら、公爵家も助けを求めていない。

こちらの存在に気がついているようだが、貴族のプライドなのだろうか。


それでも、できるなら助けるべきだろう。


「それで、どうすればいいんだ」


「しょうがないなあ。ゼラにも参加してもらうけど、できる?」


問いかけられたゼラは首肯する。

どこまでいっても戦士なのだ。恐れていたとしても仲間が戦うならばついていく。

自分だけ逃げるなんてできるわけがない。


「じゃあまず、僕は魔法しかできないから何もできないからね。だから2人での作戦だから。」


マーカスの作戦は続き、クリスタルゴーレムとの戦闘が始まる。

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