第25話 ミカヅキってママみたいだね
「はいはーい。誰ですかー?」
俺は乱暴な手つきで玄関ドアを開けた。
一体誰だと思って不機嫌を露わにしていたが、思わぬ来客にすぐに表情を緩めた。
「ねーぇ、ハイドさん」
そこにいたのは黒と黄色の髪色をしたミカヅキだった。こうして見るとやはり余裕で綺麗な部類だろう。
「ん? なんだよ、ミカヅキか。お前も暇だな、俺のところに来るなんてよ」
「別にそういうわけじゃないんだけど……聞きたいことがあったのよ」
ミカヅキは俺の煽りに乗ることはなく、自分の髪を指でくるくるしながら言った。
雰囲気からして何やら探し物か?
「なんだ? 俺は今超絶忙しいから7文字でまとめてくれ」
「え、えーっとね」
「アウト! じゃあ、またなー」
「ま、待ちなさいよ! バカ!」
ミカヅキがピッタリ7文字を即座に消費したので、俺は間髪入れずにドアを閉めようとした。
しかし、逃さまいという確固たる意思を見せたミカヅキは、ドアの隙間に足を挟み込んで睨みつけてくる。
「なんだよ」
「はぁぁぁ……後30分後にヒーローランキングトップ10が集う定例会議があるから、そこに連れて行くためにアイシーちゃんを探してるのよ」
「へー」
そういうことか。ちょっと疲れたような顔つきだし、色々なところを探し歩いたのだろう。
そしてここに辿り着いたというわけか。勘が良すぎるぞ。
まあ、隠すことでもないし、アイシーちゃんを呼びに行くか。
「どこにいるか知らない?」
「——今日会議の日?」
ミカヅキが尋ねてくると同時に、アイシーちゃんはひょこっと中から顔を出した。
なんだ、聞いてたのか。
「わぁっ! ア、アイシーちゃん! どうしてここに!?」
「ハイドと遊んでた。フランスのパンはフランスパン。じゃあ日本は?」
「え?」
突如出題されたアイシーちゃんからのなぞなぞにミカヅキは露骨に困惑していた。
「答えはジャパン。これは簡単なやつ」
困り果てるミカヅキを待つことなく、アイシーちゃんは微笑みながら答えを告げる。
得意げな様子だ。
どうやら出題者側に回る方が楽しいらしい。
「え、ええ……それより、あなた、アイシーちゃんと如何わしい遊びしてないでしょうね?」
「バカ言うな。俺は健全オブ健全だ。ロリコンでも犯罪者予備軍でもないから勘違いするなよ? そのスマホを早くしまえ」
なぜかスマホを取り出してどこかへ電話をかけようとしていたが、俺がしまうように促すと渋々ながらポケットに収納した。
俺を通報しようとしてたな、こいつ。許さん。
「ふーん。それじゃあ、アイシーちゃんはもらっていくわね」
「行きたくない」
アイシーちゃんは即答で拒否した。
「だめよ。大切な会議なんだから」
「ハイドも連れてく」
上目遣いでこちらを見てきた。可愛い。
「だめよ。こんな変態がいたらみんな怖がるでしょ?」
「ハイドともっと遊ぶ」
俺も遊びたい。癒されるから。
こんな変態でよければ仲良くしてください。
「だめよ。この人は危険人物なの。自分勝手で独りよがりの男なんだから」
「やだ」
アイシーちゃんは俺の服の裾をギュッと握りしめてきた。
「……もう、仕方ないわね。ただし、何も口にしないこと。文句も愚痴も、食事もお菓子も飲み物も全部禁止。あくまでもアイシーちゃんの保護者枠ってことで別室で待機すること、いいわね? 変なことをしたらすぐに通報するから」
「はいはい」
俺は呼吸をするだけの置物、つまり観葉植物と一緒だ。人間ではなく単なる物になろう。
「アイシーちゃんも、あんまりわがままは言わないこと。今回は特別だからね?」
「うん。ありがと、ミカヅキってママみたいだね」
アイシーちゃんは右手で俺の服の裾を、左手でミカヅキの服の裾を掴むと、無表情のまま信じられない発言をした。
ミカヅキがママになる日は多分来ないぞ。美人だけど気が強くて横暴だからなぁ。
俺はお淑やかで清楚な子が好きなんだ。みぃこさんがモンスターじゃなかったら最高だったのにな。
「マ、ママッ!? こ、こんなやつと夫婦なんて……屈辱ッ!」
ミカヅキは暗い影が見える迫真の表情を浮かべながらも、心底嫌そうにしていた。
「……置いてくぞ」
俺はアイシーちゃんの手を引いて玄関ドアを閉める。
まだ後ろでミカヅキがぎゃんぎゃん騒いでいるが、急いでいるなら早く行くぞ。
ヒーローランキングトップ10の定例会議など微塵も興味がないので、とっとと寝て過ごして帰りは牛丼でも食って帰ろう。
ヒーローランキング最下位の俺、今日も力を隠して呑気に生きる チドリ正明 @cheweapon
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