第24話 アイシーちゃんとなぞなぞの時間

 狭くて薄暗い部屋の中。


 俺は胡座の間にすっぽりおさまって座る幼女に問うた。


「……アイシーちゃん、なんでここにいるんだ?」


「調べた」


 アイシーは俺に背中を預けて足を投げ出している。


 サイボーグなのに体温は人間と同じなので、こうして接触していると普通に暑い。


 というか、調べたって……聞くまでもなくミカヅキと同じパターンだな。


「……何か用事でもあったか?」


 現在の時刻は午後4時。

 アイシーちゃんが来たのは10分前。

 鍵のかかってない家の扉を開けたら、ちょこんとゲーミングチェアに座るアイシーちゃんを見つけたってわけだ。

 普段から鍵を閉めない俺も悪い。


「ハイドに会いたかった、それだけ」


 シンプルすぎる理由だった。自分で言うのも照れくさいが、かなり懐かれているのがわかる。


「そっか。なんかするか?」


「うん」


 俺は手を伸ばせる位置にあった一冊の本を手に取った。

 タイトルは”なぞなぞ大百科~初級編~”である。

 小学生以下の子供向けの一冊となっているが、俺は初見でほとんど解けなかった。

 頭が硬いのか、単純にバカなのか、柔軟性がないのか捻くれているのか……原因は様々だろう。


「じゃあ1問目。9匹のトラが乗っている乗り物は?」


「トラ……9匹?」


 アイシーちゃんは顔をこちらに向けると、むむむと唸りながら悩んでいた。


「トラが9匹だ」


「……ぎぶ」


 やがて、10秒ほど考えた末に俺の腕をポンポン叩いた。

 諦めが早い。良く言えば潔い。嫌いじゃないぜ。


「答えはトラックだ。トラが9匹でトラック。簡単だろ?」


「むぅ……もう1問」


 アイシーちゃんは悔しそうに頬を膨らませると、右手の人差し指をピンッと立てた。

 もっと簡単なやつにするか。


「えーっと、フランスパンはフランスのパン。では、日本は?」


「パン……?」


「ヒントは英語だ」


 大ヒントだ。

 流石に幼女でも日本を英語でなんと呼ぶかは知ってると思う。


「パン、パン……シャンパン?」


「残念。答えはジャパンだ」


「むぅっ! 難しい!」


「くはははっ、十分簡単な問題だぞ?」


 戦闘時以外は幼女そのものなのか、胸をポコポコ叩かれても全然痛くない。


「別の遊びがいい」


「んー、うちには遊ぶものがないんだよなぁ」


 部屋の中を見回したが、アイシーちゃんと一緒にできるものは特にない。

 ゲーム機もあるがR18がほとんどだし、本棚の裏に眠る本は全てそっち系だ。幼女に見せられるもんじゃない。


「それじゃあお話ししよ」


「わかった。その前に一つ聞いてもいいか?」


「うん」


「マスター・Gって知ってるか? しわくちゃな顔してて、多分80歳くらいかな。背筋が真っ直ぐ伸びてる白髪の爺さんだ。さっき他所で友達になったんだけど、なんかの有名人だと思うんだよな」


 アイシーちゃんが知っているかはわからないが、どうもあの爺さんのことが気になるので聞いてみた。

 もし知らないのならミカヅキに電話して聞いてみるか、パソコンで調べてみようかな。


「マスター・Gは、マスター・G。それ以上でもそれ以下でもない」


「どういうことだ?」


 よくわからない説明に俺はすぐさま聞き返した。


「あの人は——」


 アイシーちゃんは至って真面目な顔つきで説明しようとしてくれたが、その瞬間に玄関のチャイムが鳴った。

 来客か。


「ちょっと待っててくれ」


 俺はアイシーちゃんを持ち上げて優しく床に下ろして、玄関ドアへと向かう。

 いいところで邪魔をするんじゃないよ、全く。

 俺とアイシーちゃんの憩いのまったりタイムだぞ。

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