第九話「意外な情報提供者」

 今日も念の為実家に泊まることにしたが。

「おい若。偉い別嬪さん捕まえたらしいやんけ?」

「まぁ飲め飲め」

 玄関前で酔っ払い共に絡まれた。

「未成年に酒勧めてんじゃねーよ。酔っ払い共」

「なんでぇつれねえな、ヒック」

「そういや旦那が探してたぞ」

「オヤジが?」

 なんだろ。

 特に何もやってないんだがな。

 

 宴会場へ着いて上座へと向かう。

「おおー若。一杯どうだ?」

「遠慮しとく」

「今晩も嫁と寝るのかよ〜」

「寝言は寝て言え」

 一歩歩く度に酔っ払い絡まれる。

 ロールプレイングならクソエンカで炎上ものだな。

「よう隼人帰ったか」

 いつから飲んでいたのか。

 だいぶ出来上がっていた。

「呼んでたと聞いたから一応来た」

「例の婚約者来てるそうだな」

「ん? あぁ」

 なんだ知っていたのか。

「何でここに連れてこない!」

 親父の怒号が響き渡り何人か酔いが覚めていた。

「婚約者の父親がこんな飲んだくれだと印象悪いからな。代わりに母さんには挨拶してる」

「誰が飲んだくれだ」

「せめて背後にある酒瓶を数えてから講義しろ」

 数えるだけで数十本。

 それでも尚顔を赤らめる程度か。

「祭りが終わったら改めて紹介しろよ」

「いや飲むのをやめたら済む話だろ」

「バカヤロウ。息子に婚約者が出来たんだぞ? 飲むに決まってるだろ」

「意味がわからん」

 我が父親ながらため息が出る。

「要件は終わりか? なら、部屋に戻るぞ」

「待て……持っていけ」

「何だこれ?」

 渡されたのは四つ折りにされた紙。

 隙間からは御門家の調印が見えた。

「今回の件、城主殿も危惧しておられる。早急に片付けろ」

 つまり若狭家のことはそれ程重要というわけか。

「無茶を言いやがる」

「できねえのか?」

「その挑発乗ってやる。ただし解決したら一つ俺のワガママを聞いてもらうぞ」

「いいぞ、今言ってみろ」

 酔っ払いの喧騒の中、オヤジにだけ聞こえる声で呟いた。

「お前……そこまで」

 オヤジが驚く顔なんて水晶玉奪った時以来だな。

「そんじゃあ、よろしく」

 御門家城主が絡んでいるということは西園寺家が絡むということ。

 早めに終わらせないとあのいけ好かない女と出くわすことになる。

 クソエンカは酔っ払い共で十分だ。


「おいどうした旦那?」

「バカ息子とばかり思ってたやつがいつの間にか男になっていたようだ。お陰で酔いが覚めたぜ」

「ん? よくわかねえが酔いが冷めたらまた飲めばいい」

「違いない。おい! 次持って来い」

 だが、隼人。

 さすがのお前もそれは手を焼くことになるぞ。


 部屋に戻る前に梓さんに出くわした。

「アリシアは台所ですか?」

「いえ、お二人の部屋です」

 気にしたら負け。

 気にしたら負け。

 気にしたら負け。

「確か今日は夜に団体客が来るんだろ?」

「どうやら明日に延期となったようなのでお休みしていただきました」

「ふーん」

「先程まで千歳様とお話していたみたいです」

「千歳と?」

 今朝のことを思い出す。

 一触即発というわけではないが何か嫌なの予感がする。

「千歳様はもう神楽舞の練習へ戻られています。それと部屋近くには誰もいませんので何かあればスマホにご連絡ください」

「わかった」

 まぁ、今はそれよりも先程もらった紙の内容を見るのが先だ。

 

 自分の部屋の前で止まる。

 部屋の中の気配は一つ……何を慎重になっているんだろうな。

「戻った……ぞ。アリ……シア」

「お、おかえりなさい、隼人さん」

 長い銀髪をツインテールに結い、黒を基調としたドレス。

 確かゴシックロリータとか呼ばれる服装。

 元々華奢な身体なこともあるがより一層幼く見える。

「その格好は?」

「千歳姉さんが『隼人くんこういうの好きだと思うから!』と」

 あのバカ従妹。

 可愛がり始めたと思ったら何適当なことを吹き込んでやがる……。

 まぁ、それはそれ。

 スマホを取り出しカメラを起動。


 ――カシャ! 

 

「どうして無言でシャッターを切るんですか?!」

「可愛いからだが?」

 和室に洋物とアンバランスだが被写体がいいので満足している。

「う…………」

 服装でいつもより羞恥心が増しているせいか大人しい。

 もう一枚だけ撮ってスマホを直した。

「それでどうしてその格好を?」

「最近隼人さんが疲れているのでは? と相談したら『言葉で労っても甘えさせようとしても素直に受け取らないだろうから、目の保養で癒すといい』と」

 当たっているのが何とも腹立たしいが……あとで礼ぐらい言っておくか。

「疲れてはいないけど、気を使ってくれてありがとうな」

 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 誰でもいい……今すぐ猫耳を持ってきてくれ!

「ってこれだと私が癒されてるだけじゃないですか!」

「そんなことはない。わからないかもしれないが愛でているほうも癒されてるもんだ」

 好きな子が自分のために何かしてれるってのはいいもんだな。

 出来れば椅子に座ってから膝に乗っけて撫で回したいが今は可及的速やかにしなければならないことがある。

「あっ……」

 名残惜しいが撫でるのをやめると寂しそうな顔をされたがスルー。

 椅子に座って渡された紙に目を通した。

 書かれていた内容に先程までの甘い空気をぶち壊された気がしてイラッとする。

「アリシア。レイル王子ってのはどんなやつだ?」

「どこでその名前を!?」

 変に疑われたくないので紙をアリシアに見せる。

 紙に書かれていたのは御門家が諜報部を使って調べた確かな情報。

 要点は大きく分けて二つ。

 一つは若狭家が風見家を潰して武官の座を得ようとしていること。

 もう一つは彼らの裏でレイル王子なるものが暗躍していること。

 読み終えるとため息をついていた。

「レイル王子は私の二つ上の兄。アトリシア公国では第三王子の座についています。私も数回しかお会いしたことはありませんが良い人柄ではないのは確かです」

 相手の素性が正確になるのは有り難い。

「若狭家に手を貸すメリットは何だと思う?」

「黒い噂が絶えない人ですから、何とも……。ただその噂の中でも唯一重複するものが彼の研究テーマについてです」

「その研究対象は?」

「不老不死」

 全身の毛が怒りで逆立つような錯覚。

 血液が沸騰し身体が燃えるように熱い。

「隼人さん?」

 焦るな。

 まだレイル王子の標的が決まったわけじゃない。

「すまない続けてくれ」

 道理で城主から直々に情報が降りてくるわけだ。

「彼は王位の座に興味はありません。あるのは飽くなき探究心と好奇心。そのためなら手段を選ばず、決して表舞台に出てくることはなく証拠も残さない」

 アリシアの話を聞いてだいたいの狙いもわかった。

 あとは相手が仕掛けてくるタイミングさえわかれば問題ない。

「役に立ちそうですか?」

「ああ、十分だ」

 スマホのメッセージアプリを起動して何人かに連絡を入れておく。

 事前準備はこれぐらいだろう。

「ん? どうしたアリシア」

 数分間スマホに集中した後、顔を上げると足元でアリシアが拗ねていた。

「ご…………び……」

「なんだって?」

「私は隼人さんの役に立てましたか?」

「ん? ああ」

 また貸し借りの話か?

 それはこの前やめようといったばかり――。

「なら、やることがあるんじゃないですか?」

「……ありがとうな」

 アリシアの頭に手を乗せて優しく撫でる。

 要するに褒めて欲しかっただけなのね。

「足りません」

「いや、思いっきり喜んでるよな?」

「……演技です」

「なら、今度から頭撫でるのをやめておこう」

「意地悪」

 普段なら面倒くさいと思うのに可愛らしく見えるのはアリシアが気を許すようになったからか。

 はたまた服装のせいか。

 わからなかったのでとりあえずアリシアを膝の上に乗せて存分に愛でることにした。 



ご愛読いただきありがとうございます。

こちら試し書きになっておりましてリメイク版を下記URLにて更新しています。


https://kakuyomu.jp/works/16818093083030919547/episodes/16818093083031032183


お時間あれば読んでいただければ幸いです。

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煌めく刃は誰がために リメイク前【PV1900】 天宮終夜 @haruto0712

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