幕間 四幕目「渇望」
若狭邸応接間。
今日は父上が帰国なさるため学園を休み、家総出で宴会の準備を進めている。
「アリシア姫を誑かすとは」
父上の治療のためにアトリシア公国を訪れた際、公道を歩く彼女を見かけた。
可憐な容姿とは相反する凛とした佇まい。
ひと目みて恋に落ちた。
僕は僕の家が持つありとあらゆるコネを用いて彼女に近づこうとしたが門前払い。
しかし、神は見捨てなかった。
『いい話がある』
どこの誰かはわからなかったがその男は王家のしきたりを僕に教えてくれた。
そのしきたりは王ですら覆せない絶対なモノ。
ただ王家の紋章が入った装飾品を壊すだけの簡単なもの。
武勇を轟かせた姫でも所詮は魔法の国だ。
武道で秀でた僕が負けることはない。
親善試合という神聖な場所で僕は美しき花嫁を娶る……そのはずだった。
「風見隼人め!」
僕の思考はあの男への恨みで満ちていた。
突如として僕から親善試合を奪い。
そして知ってか知らずか彼女の装飾品を破壊した。
思い出せば思い出すほど忌々しい。
僕の花嫁を奪った挙げ句、大衆の面前で恥をかかせた。
万死に値する。
「久しいな真琴」
思ったよりも時間が経っていたようで壁掛け時計は午後二時を示していた。
「父上、戻られていたんですね」
「今しがたな」
アトリシア公国で治療を受けた父の帰還。
ようやく行動を起こせる。
「で、どうだ?」
「アトリシア公国の協力者によると現在アリシア姫は風見家に滞在してようです」
「それは都合がいいな」
父上も同じ風見隼人に恨みを持つ身。
不敵な笑みから並々ならぬ憤りを感じる。
「今日は土産がある」
父上が懐から取り出したのは緑色の液体が入ったアンプル。
「父上、これは?」
「お前に必要なものだ」
禍々しく発光する液体。
目を奪われるような不思議な引力がある。
「決行は予定通りに?」
「ああ、明日行う。協力者には私から連絡を入れておこう」
「承知しました。では、また後ほど」
アンプルを受け取り部屋を出て扉を閉めると笑みが溢れてしまう。
「待っていてくださいアリシア姫。私自ら魔王の手から救い出す勇者となりましょう」
ようやく……ようやくだ。
僕は理想を手に入れる。
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