○終章 <風人>
「え? 転校しなくてよくなったのに、なんでそんなに不機嫌なの?」
柚木家でのゲームバトルから一夜明け、律はこのまま央平小学校に通えることとなった。
それなのにもかかわらず、久々に登校してきたその御本人様は、先程言ったような表情だ。
「ちょっと、聞いてよ風人! お父さんとお母さん、ひどいんだよ! ボクが校則破った罰として転校はなくなったけど、ゴールデンウィーク明けまでゲーム禁止なんだって!」
「……まぁ、顔がパンパンに腫れるぐらいビンタされるよりはよかったんじゃない?」
「そっちのほうがマシ! あーもう! 暇暇暇! ゲームやれないなら死んじゃうよ、ボク!」
「いや、成績下がったらゲームも本当に取り上げられちゃうんでしょ? それならゲームしてない間に勉強したら?」
「そんな事して成績上がったら、高得点取るの大変になっちゃうじゃん! 褒められるギリギリのラインを狙わないと」
「なるほど。律にかかれば、学校の勉強すらそういうゲームになるんだね」
「おいっすー、って久々に登校か、律。どうする? 休憩時間にまた皆のゲームの悩み聞きに行くか?」
「んー、いや、当分控えようかなぁ。校則違反の罰として今ゲーム禁止されてるし。それに、もう一つのほうも気になるし」
「もう一つの方? なんだ? そりゃ」
一人わかっていない瞬の後に、僕は関係する女子生徒の姿を見つける。
「あ、白崎さん。なんでそんなに遠目に見てるの? こっちきなよ」
「そうだよ、白崎さん。ボクら、昨日無限にハイタッチしたじゃん。ゲームによっては1UPどころじゃすまないぐらい」
「でも、それってブロックに頭突きしないとダメなんじゃなかったっけ?」
「え? 白崎、ゲーム詳しいの?」
「う、うん。中二のお兄ちゃんが、結構ゲーム好きだから。あの、瞬くんさえよければ、今度――」
「はいはい、皆席について。それじゃあ朝の会を、って誰が十円か。五百円ぐらい、あら? 白崎さんに言われるなんて珍しいわね」
そんな感じで、今日もまた僕らのクラスで一日が始まる。決して漫画やドラマの舞台には絶対にならなさそうな、央平小学校で。
その、ごく当たり前の、普通の日常に。
一人の女の子が欠けていないことが、僕には何より嬉しかった。
ゲーム ~誰もが等しく一人のプレイヤーになれる場所~ メグリくくる @megurikukuru
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