第43話 可愛いなこいつ

ゴールデンウィークが終わり、再び学校での日常が始まった。クラスで相変わらず机で寝たふりを決め込む影山の耳には、周囲から遊びに出掛けたときの思い出を話す者、部活でいい成績がでてまわりに話す者、旅行からのお土産を配る者と様々な情報が入ってくる。バイトとゲームに明け暮れていた影山とは縁がない話ばかりであった。


(皆さん青春してますなー)


オッサンみたいな口調の思考で情報収集をする影山。チャイムがなり、次の授業が始まるとわかると、影山はムクッと顔を起こした。


(さて、授業に集中しますか)


クラスメイトたちが隠れてスマホをポチポチしつつ授業を受けている。まわりがゴールデンウィーク明けの5月病になっているなか、真面目系ぼっちの影山だけが授業に集中していた。


(今度の期末テストで学年3番以内に入れば親父からたんまりお小遣いがもらえるからな。頑張らなければ…!)


影山家の決まりとして、学年3番以内に入れば10万円のお小遣いが貰えることになっている。最初は冗談で影山の父が言ったことなのだが、影山が有言実行し、そして、入試試験で2位という結果を残した。これには、影山の父も撤回することができず、支払うこととなった。


授業が終わり、昼休みとなった。鞄を持ってすぐに影山は教室を出て、安息の地である屋上前階段に向かった。安息の地に到着し、影山はコンビニで買ったツナマヨおにぎり2つとお茶を取り出し、食べ始めた。1つ目のツナマヨを食べ終わると、階段下から足音が聞こえた。いつもであれば、警戒するのだが、事前に冬野から昼休みに会いに行くとLINEがあったので、来るのが冬野であろうと予測はできていた。そして、下から来たのは案の定冬野であった。


「影山くん、久しぶり~」


「うん。久しぶり。旅行どうだった?」


「すっごい楽しかった!」


冬野は影山のとなりに座った。肩に背負っていた鞄を下ろし、中からお菓子の箱を取り出した。


「はい。おみやげ、五稜郭クッキー」


「ありがとう。五稜郭の写真見たよ。よく撮れてた。冬野は函館初めて行ったの?」


「んーん、中学の修学旅行で行ったよ。ただ、ちゃんと観光はできなかったから、今回は色々なところに行けて楽しかったよー。見て見て、これ赤レンガ倉庫のアイスクリーム」


冬野はスマホを出し、ソフトクリームと共に自撮りをしている冬野の写真を見た。正直ソフトクリームより冬野の写真写りがいいなあと影山は感心した。その後も、函館山でキメポーズをとりながらアイスを食べる冬野、ホテルでアイスを食べてる冬野、函館への道中の道の駅でアイスを食べている冬野と写真を見ていく。


「なあ、冬野?」


「何?」


「ほとんどの写真で冬野、アイス食べてないか?」


「え?それがどうかした?」


「いや、なんでもない…」


旅行中、トータルでどれだけのアイスを食べたのだろうと影山はひっそりと思った。それから、冬野は函館での旅行話を話して、影山はそれを聞いていた。久しぶりに冬野と話せて影山はほっこりしていた。ここ最近、白井とのコミュニケーションでいかに自分が話を盛り上げることができないコミュ障かを思い知った今では、冬野とのコミュニケーションには安心感を感じられた。


「どうしたの影山くん?さっきからニコニコして」


「なんか冬野と話してるといいなあって思って」


「何それ?」


フフッと冬野は笑った。陰キャにも優しい女子って最高だなあと影山はしみじみとした気分になった。


「そう言えば、店長から聞いたよ。新しいバイトが入ったんだってね」


「まあね。白井惑火。冬野知ってる?」


「あー!惑火ちゃんなの!そうなんだ!」


「ん?話したことあるの?」


「選択授業の美術で席がとなりなの。だから、たまに話すんだよねー」


「へー、そうだったんだ」


流石は陽キャ女子。人脈が広いと影山は感心した。


「そしたら、惑火ちゃんもここに呼ぼうよ。惑火ちゃんに挨拶したいし」


「呼ぶって言っても俺LINE知らないぞ」


「大丈夫。私が知ってるから、LINEしてみる」


スマホをタップし連絡を入れる冬野。メッセージはすぐに既読となり、今から行くとメッセージをもらった。5分が経過し階段下から足音が聞こえ始めた。


「来たよ冬野。なんでこんなところに…」


白井が来て階段上を確認する。すると、冬野が手を振って、そのとなりに目を去らす影山がいて少し驚いた。


「なんで影山もいるの?」


「影山くん私の友達だからね」


「だからって、2人っきりのところに呼ばなくても…」


「ん?何か問題あるの?」


「別に、それでなんのようなの?」


白井は少し階段を上がり、見上げるように冬野を見た。冬野は鞄から影山と同じお菓子を取り出し、「はい」と言って白井に渡した。


「おみやげ」


「へー、どっか行ってたの?」


「函館。五稜郭とか、赤レンガ行ったりしたんだ」


「そうなんだ。いいね」


そう言う白井の表情には少し笑みが見られた。その事に影山は驚いた。普段は無表情なだけに、感情的な顔もできるんだと感心していた。冬野が階段を降りて、白井の横に座った。そして、スマホで写真を見せながら旅行の話を始めた。


(ほう、なんというか、俺といるときと全然違うな…)


影山と話しているときには一言二言返事するだけで、会話が終了してしまっていたが、冬野と話す白井にその様子は見られなかった。その違いを見て白井が単に俺のことが嫌いなのではないかと予測する。


(現に冬野と一緒にいるときに嫌そうな顔してたからなあ)


影山がそんな分析していると、冬野が「ねえ、影山くん!」と声をかけてきた。


「どうせなら、LINEグループ作ろうよガイストの。その方が連絡とりやすいし」


「そうだな。でも、白井は俺とLINE交換するのは嫌なんじゃないか?」


「は?なんで?」


不機嫌そうに質問する白井。その威圧感に陰キャの影山はやや怯む。


「だって、白井、俺のこと嫌いだろ?さっきも俺見て嫌そうだったし」


「それは…」


白井が言い淀んでいると、冬野が「影山くん、それは違うよ」と冬野が訂正した。


「惑火ちゃんも男の人と話すの苦手なんだよ。それも私以上にね。だから、どう接していいかわかんないだけ」


「ちょっと、冬野!なんでそう言うこと言っちゃうの!?」


「え?だってホントでしょ?」


冬野にそう言われて、照れ臭そうに「うん」と頷く白井。その見たことがない塩らしい態度に影山は面食らった。


「別に影山が嫌いとかじゃなくて、どう話せばいいかわからないから、あまり話したくないというか…」


「そういうの良くないよ。それに私のこともまだ冬野って呼んでるし。雪って呼んでって前も言ったじゃん!」


「だって、それは恥ずかしいし…」


「恥ずかしくない!呼んでよー」


「ゆ、雪…。もう、これでいい!?」


「ひゃー、惑火ちゃん可愛い!」


照れた表情で冬野の名前を呼ぶ白井。そんな白井を抱き締める冬野。見たこともない白井の様子を見て影山は思った。


(可愛いなこいつ)


その後は冬野のペースで完全にぐだぐたになった白井とLINEを交換し、ついでにグループも作成した。その後も冬野のペースに狂わされて完全にキャラ崩壊をする白井を見ながら、影山は白井惑火という人物のことをあらためて知ることになったのであった。


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