第15話 視聴者大サービス

 ハロー、馬鹿ども見てるか?

 俺様はアシッド。名乗ってるんじゃねぇぞ、お前らが恐怖と畏敬で呼び始めた名前を使ってやってるんだ、喜べよカスども。

 さぁて、お前らの聞きたい事はこうだろ?

 連続襲撃犯の犯人は本当にお前か、って。

 ああ俺様だよ。証拠? 見せてやるよ、コイツは偶然見つけた探索者のオッサンだ。

 さぁておたちあーい、種も仕掛けもありませーん。このオッサンがみるみるうちに焼け爛れまーす!

 あー。うっせぇな黙れよオッサン。

 ほら、これで証拠になっただろ?

 俺のスキルさ。こいつにかかれば誰も彼も強酸でぐっちゃぐちゃよ。

 なんでこんなことすんのかって?

 それ言うかよ。

 俺様を知らしめるためにキマってんだろバーカ。

 おかしいとは思わねぇのかよお前ら。大探索時代と言いながら実質はクソみてぇな会社どもが独占して利潤貪ってるだけでよ、俺らみてぇな善良な一般市民はあさーい浅層でザコ借りしかできやしねえ、これが正しい世界か?

 違うよなあ。

 だから俺が教えてやるのさ。企業のカスども、そこで飼われてるブタどもを俺がこの力で全員焼き尽くして溶かし尽くしてやる。

 まずは志波コーポレーションの連中だ。なんで志波かって? 汚ねぇ商売してっからだよ。

 特にムカつくのは配信者連中だな、企業の力で名ぁ売ってよ、てめぇの実力じゃねぇだろうが。

 ああ、そうだ。次からは配信者を狙う事にするわ。

 コラボしようぜ、インフルエンサーさんよぉ。




“アシッド”の配信した動画は瞬く間に拡散された。


 動画は瞬く間に削除されたが、それでも一度拡散された動画は次々とコピーされ、ネットの海に放流されていく。

 それは犯行声明であり、そして挑戦状だった。

 この動画に対して、企業勢たちは探索者に探索を自粛させるのか、それとも強固な姿勢で突っぱねるのか。

 しかし、探索者である以上に、配信者である者たちは……良くも悪くも、自尊心、そして承認欲求の強い者たちだった。


 すなわち、こうだ。


「こんなふうに目立つ迷惑系に負けてたまるか」である。


 コラボのお誘い? 受けて立ってやる。

 そしてダンジョン配信者たちは、アシッドの探索を開始した。




「はい、というわけで私人逮捕系ダンジョン配信者、御巫優みかなぎ ゆうだ。今日はだな、あの悪名高い迷惑系配信者“アシッド”を逮捕するべく、ダンジョンに潜っている!」

「はい! 御巫優の相棒のミコだよ。よろしくお願いします!」


 御巫優とミコはカメラに向かって挨拶をする。二人の少女はレベル25を超える、歴戦の探索者だ。フリーランスでありながら三層まで降りていることから、その実力はうかがい知れる。

 そして私人逮捕系を自称しているとおり、ダンジョンで迷惑行為を働く探索者を何人も捕らえている。


「我々の目的である“アシッド”は、企業勢の探索者を襲撃しているとても悪質な迷惑系配信者、いや……犯罪者だ。絶対に許しておけぬ」

「そうだよ! なのでボクたちがとっちめてやるんだ!」


『うおおおお!』

『キタキタ』

『応援してるぜー』


 コメント欄は視聴者たちの歓声で埋まる。彼女たちは人気配信者なのだ。


『でもアシッドってどこにいるの』

『逃げ回ってるだろうし場所わかるの?』


「それは問題ない。捜索系スキルを持つ探索者の協力を得て、大まかな居場所は掴んでいる」

「二層の……このエリアにいるんだって」


 ミコが地図アプリを起動して、その位置を表示する。


『おお!』

『アシッド、ビビるんじゃね?』


「では行こう! アシッドを捕えるぞ!」


 御巫優はカメラに向かってそう宣言する。そして二層への階段を下っていく。


「この先に……アシッドがいるんだね」


 ミコが緊張した面持ちで言う。


「うむ。注意してゆくぞ、しかし案ずるな。あの酸攻撃への対処は行っているからな」

「うん、そうだね」


 御巫優とミコはそんな会話を交わしながら二層へと降りていく。

 そして階段を降り、魔物を倒しつつ情報にあった場所へとたどり着く。



 そこには……


「よう、今度は女かよ」


 仮面をつけた男が軽薄な笑みを浮かべ、倒れた探索者達の上にふてぶてしく座っていた。


「お前がアシッドだな。黙って投降するがいい、逮捕する」


 優は毅然とした態度でそう告げる。


「ハッ、やってみろよ」


 アシッドが立ち上がり、両手を広げて不敵に笑う。


「コラボ開始だ。撮れ高稼いでくれよぉ?」

「……ほざけ!」


 御巫優は剣を抜き、アシッドへと斬りかかる。


「ミコ!」

「うん! 【火炎弾】!」


 ミコが炎の弾丸をアシッドに放つ。しかし……


「ハッ!」


 アシッドの前面に酸の膜が現れる。そして炎が着弾し、爆発するが……アシッドは無傷で立っていた。


「なっ!?」

「火は非可燃性の液体で消える。小学校からやり直せや」


 アシッドは嘲笑う。そして、手を掲げて言う。


「【酸雨アシッド・レイン】」


 アシッドの頭上に酸が生成されていく。それはやがて、雨のように降り注ぎ始めた。

 しかし……。


「ん?」


 優とミコはその酸を浴びるも、その身体にも衣服にも異常がない。


『見ろよアシッドのあの顔www』

『効いてませーんwwww今どんな気持ち?』

『ざっこwww』


「な、なんだ? なんでお前ら無事なんだよ!?」


 アシッドは驚愕の表情を浮かべる。その疑問に優が答えた。


「強酸攻撃耐性のスキルカードだ」


 優はスキルカードを取り出す。スキルカードとは稀に魔物がドロップするアイテムであり、これを所持・使用するとスキルが使用可能になるというレアアイテムだ。


「手に入れたスキルか、あるいはスキルカードか知らないが……自分の力を無駄に誇示するからこうなる。力を見せれば対策されるのは当然だろう」

「く……っ」


 アシッドが後ずさる。その顔は屈辱と焦燥に満ちていた。


「クソが、クソクソクソぁああっ!」


 アシッドは激昂して叫ぶ。


「【酸雨アシッド・レイン】!」


 アシッドは再度スキルを発動するが……


「無駄だ、その技は見切った」


 優が剣を振る。優のスキルか、飛翔する斬撃により酸の雲が切り払われる。


「な……っ!?」

「今度はこちらの番だ! いくぞミコ、畳みかけるぞ!」

「うんっ!」


 優は剣を構えると、アシッドへと斬りかかる。


 だが、次の瞬間。


「……っ!?」


 優の身体に、異変が起きた。


「な……に?」


 突然、身体から力が抜けるような感覚に襲われて、優は膝をつく。


「あ、れ……?」


 ミコもまたふらつき始めるが、なんとか踏ん張って武器を構える。しかし……。


「……っ」


 ミコもまた膝をつく。全身に力が入らない。


『なんだ?』

『どうした!?』


 コメント欄がざわつき始める。そして……


「く、そ……」


 優とミコは地面に倒れる。それを見下ろして、アシッドは身体を折り曲げて笑った。


「く、くはは、ひゃーはははははは! バァァァァカ、誰が俺のスキルは強酸だって言ったか?」

「なん……だと……?」

「俺のスキルはな、【毒】だよ。千差万別の猛毒使い、それが俺だ。動画で使ったのは腐食毒、触れたものは肉も装備もグズグズに焼け爛れる」


 アシッドは優の頭を靴で踏みつける。


「そして今、お前らに使ったのは神経毒の毒ガスだ。全身の筋肉が麻痺して動けなくなる」

「な……っ!」

「く、そぉ……っ」

「ククク、対策は万全、万に一つも負けはないと思ったかぁ?思いましたかーあ? わっかりやすぅい戦法を誇示してりゃぁ、自分が賢いと思い込んだ馬鹿が簡単にひっかかるからやってらんねぇぜ、バァーカ」


 アシッドは優の頭を踏みつけていた足を、今度は優の身体――胸を踏みつけ弄ぶ。


「く……っ!」


『おい、これまずくね?』

『やばない?』

『逃げろ!』


 コメント欄がざわつく中、アシッドは笑う。そして優の身体をまさぐり、スキルカードを取り出す。


「こいつが酸耐性のスキルカードか」


 そしてそのカードを握り潰す。


「はーい、これで酸の耐性はなくなりまちたー。さぁーてどうなるかなー。

 と、お前ら配信者かよ」


 アシッドは優たちのドローンカメラに気づく。そして優のスマホを取り出して画面を見る。


「おーおー、結構視聴者いるじゃねーか、ムカつくな。やっほーリスナーのみなさん元気ー? オマエラの大好きな配信者ちゃんはただいま絶賛命の危険がピンチでーっす! オラ助けてやれよ推してんだろお前ら、ギャハハハハ!」


『やめろ!』

『最低だコイツ!』

『すぐに現場に誰かかけつけるぞ』

『今なら間に合うやめろ』

『早く逃げて!』


「あー? うーんそうだなー、俺だって鬼じゃねえしな。よーし撮れ高に協力してやっか。

 はーいみなさんご清聴。俺の力はーぁ、さっきも言った通り様々な毒を操れます。

 単純に強力な酸や毒も出せるけど……なんと! 服だけ溶かすタイプの腐食毒も作れるんだぜーぇ?」


 その言葉に、優とミコは青ざめる。


『最低だコイツ!』

『クズが!』

『最低! 最低!』


 コメント欄は怒りに燃えていた。しかしアシッドは意に介さない。むしろその罵倒と憎悪こそがアシッドを奮い立たせる。


「さーて、この腐食毒をつかってーえ……コイツの服だけ溶かしてやろう。視聴者サービスってやつだな。みなさーん、録画の準備オッケー?」

「や、やめ……」


 優が制止しようとするが、アシッドはそれを鼻で笑って踏みにじる。


「あ? なに口答えしてんの? 立場弁えろよゴミカス」


 そしてアシッドは掌に濃密な酸の霧を生み出す。

 その霧が優の身体を包み、そして……


「……ッッッ!」


 優の衣服が、鎧が溶けていく。焼け爛れ、ボロボロに崩れていく。


「や……やめろぉぉおっ!」


 優は叫ぶが、アシッドは止まらない。そしてついに、生まれたままの姿を晒す。


『うおおおおお!』

『いいぞもっとやれ』

『●REC』

『最低だコイツ!』

『死ね!死んで詫びろ!』


 コメント欄は恐ろしい勢いになっていた。盛り上がる者、非難する者、様々だ。アシッドはそれを見て楽しそうに笑う。


「さて、次は……ミコちゃぁん? 君の番だよーん」


 アシッドがミコの服に手をかけ、そして酸の霧を生み出す。


「や、やだぁ……っ!」


 ミコは恐怖に顔を歪ませながら後ずさる。しかしアシッドは容赦なくその酸の霧をミコへと浴びせた。


「あ、ああ……」


 優と同じように、ミコもまた生まれたままの姿を晒すことになる。


『うおお!』

『いいぞもっとやれ』

『●REC』


 コメント欄は盛り上がり、そして……。


「さて、じゃあそろそろ……視聴者サービスの時間パァァァァトツゥゥゥゥゥ」


 そしてアシッドは優の身体を蹴飛ばし、ミコの身体に重ねて乗せる。


「や、やめ……て……」

「あ、あ……っ」

「オイオイオイオイオイ、わかってんのかーぁ? 服だけ溶かしたのは俺のやさしさだぜぇ? ちょいとその気になれば全身を醜く焼く事も出来るんでちゅよー? それがいやならよ。黙ってこう言えや、私たちの負けです、御主人様のそれを下さい、ってなあ。そしたら勘弁してやるよ」

「だ……れが、そんなこと……!」

「そ、そうだよ! そんなの言うわけ……」


『言え』

『早く言えよ』

『うーんこれは負けを認めるべき』

『二人が焼け爛れて死ぬのは見たくないですwww』


 コメント欄はアシッドを後押しする。そして優とミコも、アシッドに逆らう事ができないでいた。


「く……っ」


 優は屈辱の涙を流す。


 そして……。

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底辺借金奴隷から始まる社畜ダンジョン配信~社長令嬢を助けたらバズってそこから無双の成り上がり~ 十凪高志 @unagiakitaka

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