トライアングルって、響きは良いよね

「まったく…… ヴィーちゃんは猪突猛進過ぎよ! うちのハイジちゃんが恐がってるじゃない!」


「……すいません」


「それにあなた…… ハイジちゃんの彼女ナナちゃんだっけ? あなたも一目見た時から分かっていたけど、ハイジちゃんを邪な目で見ていたわよね? 学生なんだから健全なお付き合いをしないとダメよ」


「うぅっ、ご、ごめんなさい……」


「これじゃあ安心してハイジちゃんを任せられないじゃないの!」


 うぅん…… 騒がしいな……


 んっ? あれ…… スースーしないし、寝ている所がフカフカしている……


「ふぁぁ…… あれ? ここは……」


「やっと起きたわねハイジちゃん! もう、いつもお寝坊さんなんだから!」


「……ごめんごめん」


 いつの間に休憩スペースにあるベッドに移動したんだ? ……って、ミケコが喋ってる!! 一体どういう事だってばよ!


「ハイジちゃんには隠していたけどワタシ実は…… 普通の猫じゃないの」


 そのくらい見れば分かるよ!! 普通の猫が喋ったり、二足歩行したり、腕を組んで説教したりしないよね!?


 しかもゆらゆらと揺れる三本の尻尾…… あっ! もしかして『猫又』とかいう妖怪……


「ハッちゃん、この子…… ミケコちゃんは多分『宇宙ネッコ』よ」


 …………


「そう、ワタシは地球に潜入捜査に地球外生命体『宇宙ネッコ』 コードネーム『MKー5』よ!」


 …………

 …………


 宇宙…… ネッコ? ……はっ! 訳が分からなくて、一瞬小さな宇宙を感じてしまった!

 感じ過ぎて第七…… いや、第八の感覚に目覚めて、心の中の小さな宇宙を抱きしめちゃうところだったぜ!


「……ハイジちゃんは普段は良い子なのに、時々おかしな事を言うのよねぇ」


 ミケコ! 俺はずっと良い子だよ! ……おまえは俺の母ちゃんか!


「ちょうどハイジちゃんがヴィーちゃんとお別れした頃から面倒見ているから…… 母ちゃんと言っても過言じゃないわねぇ」

 

 た、確かミケコってベーちゃんが引っ越した直後くらいにふらっと現れて、俺の家に住み着いたんだよな……


「まさか潜入捜査って……」


「そう、ヴィーちゃんのパパが何を調査しているのかを近くで偵察していたのよ、それで元々はヴィーちゃんのお家に隠れ住んでいたんだけど、深夜の野良猫集会に参加して情報収集している間にヴィーちゃんの家が消えちゃってね…… 仕方なくハイジちゃんのお家に潜り込んだんだけど……」


 仕方なく…… だと!? 


 あんなに毛繕いしてやったのに! 俺のおかずを分けてやったり、猫まっしぐらな『ネコちゅるりん』を少ないおこづかいからミケコのために毎月買ってたのに!!


 ひ、ひどいよ…… うぅっ!!


「ヴィーちゃんが突然いなくなって毎日メソメソしていたハイジちゃんを見てたら、母性本能がくすぐられてねぇ…… ほっとけなくなっちゃって、仕事も辞めて今まで一緒にいてあげたのよ」


 ……ミケコ、さっきから俺の世話をしているような言い方をしているけど、しっかりと飼われていたよな? 毎日俺が起きても俺の布団で寝て、ひなたぼっこして、時々遊べと言わんばかりに猫じゃらしを咥えて持ってきたりしてたよな? なぁ、ミケコ?


「………… と、とにかく! そんな我が子のように可愛いハイジちゃんなんだから! もっと大切にしてくれないとお婿に出せないわ!」


 ミケコ…… もう母ちゃんより母ちゃんしてんじゃん……


 俺の本当の母ちゃんなら『わははっ! ハイジが欲しい? いいぞ、そんなに欲しいならくれてやる! 二人で仲良くシェアするんだぞ?』とか言いかねない!!


「はわわっ…… 喋る猫ちゃん……」


 ……そういえばナナちゃんもいたんだった。


「ナナちゃん、どうして宇宙船にいるの?」


「わ、分かんない…… ハイジくんを助けようと思って光に近付いたら、突然身体が宙に浮かんで…… 気が付いたらここにいたの」


 で、俺達を覗いていたと…… ところで何で哺乳瓶を持ってるの?


「宙に浮かんだ時に掴まる物がないかと必死にジタバタしていたら…… これを掴んでいたみたい」


 …………もっと掴まれそうな物がいっぱいあったと思うんだけど。


「ハッちゃん、何二人でコソコソ話してるの? あなたも抜けがけはダメだよ!」


「ぬ、抜けがけなんてしてないよ! ……だって、私…… ハイジくんの、か、彼女だし……」


「ムキー!! 彼女でしょ!? あなたはフラれたの! そしてハッちゃんはフリーになって、ウチと婚約したの!」


 ちょっと待てぇ!! 確かにフったのは事実だが、婚約した覚えはないぞ!?


「こ、こんにゃく?」


「婚約!! 耳どうなってるのよ!」


「はわわっ…… こんにゃくさんが怒ってる……」


「ウチはこんにゃくじゃない! ……ハッちゃん、この子と喋ってると疲れる!!」


 ナナちゃんは時々おかしな事を言うんだよ…… 


「ハイジちゃんもだけどね」


 ミケコ!? ……うぅっ、はい、その通りでございますぅ。


「三人とも落ち着いて! ……若いんだしたっぷり時間があるんだから答えを急ぐ事はないんじゃない? ゆっくりお互いの事を知って、それから答えを出しても……」


 何か大人の女性みたいな事を言うな…… 猫だけど。


「ふん! 絶対に譲らないんだから! ハッちゃんを誰よりも愛してるのはウチよ!」


「わ、私だって! ……でもぉ、愛してるからこそ奪われそうになった時のドキドキが…… うぅっ、あの味が忘れられない……」


 間近でそんな告白をされたらどんな顔をすればいいか分からないよ……


「へへっ、ハッちゃんは笑顔でいてくれたらいいんだよ!」


 ベーちゃん……


「はわっ!? ハッちゃんアへ顔? ……ハイジくんのアへ顔、ちょっと見たいかも……」 


 んほぉぉ!? ナ、ナナちゃん? とんでもない聞き間違いしてるよ!? アへ顔なんてするわけ……


「あら、たまーにしてるわよ? ハイジちゃんの部屋で一人でモゾモゾと……」


「「えっ!?」」


 ミケコーー!! プライバシーの侵害だぞ! こちとら健康体の男の子なんだ! 一人でモゾモゾしちゃ悪いのか!? ……あとアへ顔なんてしてない!!


「ハッちゃんったら……」


「はわわぁ…… 見てみたいなぁ……」


 ベーちゃん!? そんな恥ずかしそうな顔をしながら俺を見ないでよ! 余計恥ずかしくなるから! ……あとナナちゃんはもう少し欲望を抑えようね?


「……ハイジちゃん、本当にこの二人で大丈夫? 他に地球だけでも三十五億…… 宇宙も入れたら無限に出会いの可能性はあるのよ?」


 いや…… それはそうだけどさ……


「ミケコちゃん、何を言ってるの!? ハッちゃんをこんなに愛してるのは、全宇宙でウチくらいしかいないんだから! ハッちゃんと添い遂げるのは…… ウチだよ!!」


「うぅっ…… 私だってハイジくんがそばにいてくれないと死んじゃうくらい愛してるよぉ!」


 ぐぅぅ……! そんなすぐにどちらかなんて選べないよ!


「ハッちゃん!」


「ハイジくん!」


「「どっちを選ぶの!?」」


 うがぁぁぁー!! お、俺は一体どうすれば!!


『まもなくN22星に到着します、自動運転を解除し、下降ルートをご確認下さい』


「もう着いちゃったの!? ああ、もう! ……とりあえずみんなスーツを着て!!」


「は、はいぃ…… えーっと、えーっと…… んぐくっ! ……胸がキツくて入らないよぉ!」


「そう? じゃあキャトってあげるわ!」


「はわわっ! や、止めてぇぇー!!」


「まったく、騒がしい子達ねぇ…… ほら、ハイジちゃんも早くお着替えしちゃいなさい? 一人で出来る?」


 ミケコ、おまえは俺の母ちゃんか! しかも過保護気味なタイプの母ちゃんだな!




『二人は俺の翼だぜ!』

 なんて誤魔化すようなことを言ったら間違いなく二人からボコボコにされそう……。


「ハッちゃん! とりあえずN22星に到着したら即婚約よ! それからゆっくり愛を育もうね、へへっ!」


「ダ、ダメだよ! 私だって負けないくらいハイジくんのことが…… でも初夜って盛り上がっちゃったりするんだよね? 私がいない時に二人で…… はわわっ、想像したらダメッ! んー、ちゅぱちゅぱ! 落ち着いて私!」


「にゃははっ、ハイジちゃん、頑張らないとね!」


 グイグイアピールしてくる幼馴染と、だいぶ変態チックになってしまったがある意味グイグイ来る元カノ、そして俺達を見守る猫型地球外生命体…… 情報過多でおかしくなっちゃうぅぅっ!!


 そして見知らぬ星に到着して、そこから始まる三角関係…… そんなのってアリなのか!?


 教えて! おじい…… じゃなくて、誰かーーー!!! 





            第一部 完     

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初カノを寝取られた直後、俺はUFOに連れ去られた ぱぴっぷ @papipupepyou

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