小鳥の埋葬

高黄森哉

小鳥の埋葬


 僕は、小学校の校庭の端っこに、ペッと吐き出されたゲボのような物体を見つけた。あまりにも、なまなましているそれは、ゲボというより、ゲヴォと表現したほうが、正しいのかもしれない。


 まるで死んだ睾丸だった。雫型で、ピンク色だ。おまけに、楕円の先っちょに紐がついている。それは、精索なのではないか、と思われた。


 ただ、睾丸は本当は白色だし、小学校にこんな大きな金玉を持つものはいないだろう。だから、僕の同級生の誰かが落とした、ということはないらしい。


 ではなんなのだろう。ちょっと気が引けるが、先っちょをつまんでひっくり返してみよう。それは、くるっと寝返りを打つように回った。


 そいつは、小鳥の死骸だった。つまり、まだ毛も生えていない雛が睾丸にみえた、というわけだ。なるほど、胃下垂の少年みたいに膨らんだ小鳥の腹の部分が玉の本体で、細長く頼りない首が精索にあたる。


 連日の雨のせいかな。今も校庭には水たまりが多い。水たまりに青空が反射して、その青空は雑音がかったように、一様な青だ。


 さて、昼休みもそろそろだし帰るか、と思ったのだが、現場を何度も行ったり来たり。僕は決心する。くちばしをつまんでゆっくりと持ち上げた。こやつを埋めてやらなければ、ならない。


 数歩あるいたところで、ずるりという感触がして、死体は地面に落下した。ヒナの死骸は、パシャという卵が割れたかのような音をだした。


 鳥たちは空を飛ぶために、骨を軽くしているため脆いのだ。だから、ゴキッ、ではなく、パキッでもなく、パシャ、なのである。


 人差し指と親指の間にはくちばしのかけらが残されていた。そして、改めて確認すると、ヒナが腐りかけであることが分かった。


 指をかぐと、肛門みたいな匂いがした。そうか、腐った鳥のヒナは肛門の匂いがするのだな、と僕は新たに知識を得た。見た目は睾丸だし、匂いは肛門なのだな、という知識。


 次は足をつまみ上げる。ここなら、とれる心配もない。第一、嘴は持つに適していないのである。つるつるしているうえ、三角だ。落とすのは必然だったといえよう。


 さて、僕はヒナを運びながら、ある不安にとらわれた。僕は異常者に見られないだろうか。だって、鳥の赤ちゃんの死骸を素手で運んでいるのである。同級生に見られたらどうしよう。


 でも、僕はただ埋葬がしたいのだった。この鳥を哀れにしておくのが、苦しいのだった。そこに切り取られた行為の不吉さは、一つも含まれていない。


 おかしな話だ。こんなに優しい行為でも、一見すると異常に取られてしまうなんて。ひょっとすると、人間は異常な生き物なのかもしれない。なら、僕は人でなしと思われてかまわない。


 そっとクローバーの上に鳥の赤子を埋めた。さすがに地面を掘ることはしなかった。昼休みも終わりだし、道具なしで掘るのは面倒だったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小鳥の埋葬 高黄森哉 @kamikawa2001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る