エピローグ
俺が身代わりと言う形でウェルズリー家に嫁いでから、今日で1年を迎えた。
「レナード、準備はいいか?」
「ああ、万全だ」
俺とエドワードの手には大きなカバンがあった。
「お忘れ物はございませんか?」
そう言って声をかけてきたのはアンネだ。
「ああ、必要なものは全てまとめたし、何か足りなくなったら旅先で買うから大丈夫だ」
と、俺は答えた。
「本当に出て行ってしまうんですね」
そう言ったアンネは寂しそうだった。
「エドワードのいとこが代わりに跡を継ぐことになったそうだし、俺も離宮にいる必要はなくなった」
そう言った俺に、
「俺はレナードが隣にいてくれるならばどこでもついて行く。
レナードの隣にいていいのは俺だけだから」
と、エドワードは言った。
…自分で言ってて恥ずかしくないのか、おい。
アンネはコホンと咳払いをすると、
「それでは…」
と、俺とエドワードの顔を交互に見つめた。
「レナード様、エドワード様、あなたたちの旅路に幸多からんことを祈ってます」
アンネはそう言った後で、
「お元気で」
と、微笑んだ。
「短い間だったけど、お前には本当に世話になった。
ありがとう、アンネ」
「こちらこそ、レナード様」
俺とアンネは握手を交わした。
「レナード、行こうか」
「はい」
エドワードに声をかけられて返事をした。
「アンネ、またな」
俺とエドワードは手を振りながら、アンネの前から立ち去った。
*
ミレイユに刺されたその傷が化膿することなく、1ヶ月後に傷が治って俺は回復した。
俺の希望により、ミレイユ・サザーランドは処刑されることはなくなった。
その代わりに彼女には爵位剥奪と国外追放を言い渡したと、エドワードから聞かされた。
それらを言い渡した翌日に、ミレイユとその家族は国から出て行ったそうだ。
お互いの気持ちを確かめあった俺とエドワードは、これから先の人生を一緒に過ごすことを約束した。
だけど、性別や立場の問題が俺たちの前に立ちはだかった。
それらを解決するために提案したのは、跡継ぎを誰かに譲ることだった。
その跡継ぎに選ばれたのが父方のいとこだった。
跡継ぎ問題を無事に解決した俺たちは、カーソン家へ向かった。
これまでの出来事を説明した俺に両親は驚いたが、その気持ちが本当であることを知ると俺たちの関係を認めてくれたのだった。
公爵家としての世間体と王族との繋がりのことしか考えていないであろう両親だったが、レイチェルが駆け落ちをしたことや姉の身代わりとして嫁いだはずの俺がいろいろあって幸せになっているのを見たことから少しだけ考え方を変えたのだろうなと俺は思った。
両親へのあいさつを終えると、途中の宿泊先で一緒に過ごした。
「なあ、エドワード」
俺はエドワードに声をかけた。
「これからはどうするんだ?
跡継ぎも解決したし、両親へのあいさつも済んだし、これからはどうするんだ?」
そう聞いた俺に、
「旅をしないか?」
と、エドワードは言った。
「旅?」
そう聞き返した俺に、
「ここ以外にも国があるから、いろいろと見て回りたいんだ。
美味しいものを食べたり、いろいろな人たちと関わったり、とにかく旅をしてみたいんだ」
と、エドワードは言った。
「いいなそれ、楽しそうだな」
「お前なら言ってくれると思ったよ、レナード」
でも旅の資金は…と思ったけれど、俺が働いて貯めた金が銀行に預けてあったことを思い出した。
「でも資金があれか…。
父上に頼る訳にもいかないだろうし…」
思い出したように呟いたエドワードに、
「俺、持ってるよ。
働いて貯めた金があるからそれを使おう」
と、俺は提案を出した。
「頼もしいな、レナード」
エドワードは笑いながら言って、俺の頭をなでてきた。
まさかこんな形で働いた金が使う日がくることになるとは…と思ったけれど、これも俺が誰かと幸せになるために繋がっていたことだったんだな。
「エドワード」
俺は頭をなでていた彼のその手を取ると、手の甲に口づけした。
「ーーッ…!」
いきなりそんなことをされるとは思ってもみなかったのだろう、エドワードは驚いたようだった。
「好きだよ」
そう言った俺に、
「俺は愛してる、レナードのことを世界中の誰よりも愛してる」
と、エドワードは言い返した。
「俺も、あなたのことを愛してます」
俺がさらに言い返したら、
「参ったな…制御ができなくなってしまいそうだ…」
エドワードは顔をほんのりと紅くさせたかと思ったら、俺から目をそらした。
でもチラリ…と、目玉だけを動かして俺に視線を向けている。
「制御しなくていい」
そんな彼に向かって、俺は言った。
エドワードはそらしたその目を俺に向けてきた。
驚いた顔で俺のことを見ている彼に向かって、
「俺の前では制御しなくていい、どんなあなたでも俺がちゃんと受け止めるから」
と、言った。
「ーーッ…」
エドワードは躊躇いながらも口を開くと、
「本当に、いいんだな…?」
と、確認をするように聞いてきた。
「ええ、いいですよ」
「歯止めが効かなくなるかも知れないぞ?」
「どんなあなたでも受け止めるって、言いましたよ?」
「ああ、そうだったな…」
エドワードはフフッと笑うと、その顔を近づけてきた。
そっと目を閉じたら、お互いの唇が重なった。
この日、俺とエドワードは本当に結ばれたのだった。
*
街の銀行から貯めていた金を全て卸して、エドワードと一緒に旅支度をした。
アンネは離宮の庭の手入れがしたいからと言う理由でウェズリー城に残ることを選んだ。
俺がいなくなるからもうカーソン家に戻ってもいいと言うことも伝えたが、
「レナード様が大切にしているこの庭をお守りしたいので」
と、アンネは笑って返事をしたのだった。
俺とエドワードが出て行った後の庭がどうなるのか誰が手入れしてくれるのかと思って気になっていたが、アンネがウェルズリー城に残って庭の手入れをしてくれるならば安心だと思って俺は彼女にその役目を託すことを決めたのだった。
国外追放をされたミレイユはどうなったのかと言うと、追放先のとある貴族に見初められて穏やかに幸せに暮らしている…と言うことを風の噂で聞いたのだった。
何だかんだで彼女は追放先で幸せにやっているみたいで何よりだ…と、噂を耳にした俺とエドワードはお互いの顔を見あわせたのだった。
そうなってくると、レイチェルも駆け落ちした先でクルトと一緒に幸せに暮らしているんだろうなと思った。
彼女の様子を見た訳じゃないし、手紙とかの頼りや噂も特に何も聞かないけれど、双子の弟の勘と言うヤツで何となくわかった。
物語でのレイチェルの結末は弟が目の前で処刑されたショックで廃人になってしまった…と言う終わり方だったので、駆け落ちと言う訳のわからない展開が起こってしまったものの形はどうであれ彼女は幸せになったのでこれでよかったかも知れない。
「それで、俺たちはどこに向かうんだ?」
ウェルズリー城を後にすると、俺はエドワードに聞いた。
「これから港へ行って船に乗るんだ」
エドワードは答えた。
「船ですか?」
「ああ、“ニホリ”って言う国に行こうかと思うんだ」
何だか日本を連想させるような国名である。
「東にある小さな島国でな、独特の文化が発展している国だそうだ。
船に乗って7、8時間ほどで到着するそうだ」
エドワードが説明してくれた。
まさに日本だなと、俺は思った。
そこに住んでいる人は洋服を着ているのか…いや、着物の可能性もあるかも知れないな。
「いいな、それ。
楽しみだな!」
そう言った俺に、
「レナードならそう言ってくれると思ったよ」
と、エドワードは笑った。
転生先が悪役令嬢の双子の弟と言う何かよくわからないポジションだったうえに、悪役令嬢が幼なじみと駆け落ちをすると言う訳のわからない展開が起こってしまった。
その身代わりとして俺が嫁ぐことになってどうなることかと思ったけれど、エドワードが身分違いの恋をしている相手がいると思って浮かれたり、植物を通じて彼と親交を深めたり、恋人と別れたうえに好きだと告白されて口説かれることになったり、ヒロインが現れたうえに物語の結末や本当のポジションを思い出して…こうして思い出してみると、一喜一憂しているな。
でも…いろいろなことが起こったけれど、最終的にはこうして俺も幸せになることができた。
この先もいろいろなことがあって、エドワードと喧嘩をすることになるかも知れないけれど…その翌日には何事もなかったかのように笑いあうことになるだろう。
「エドワード」
俺はエドワードの名前を呼ぶと、自分の手を彼に向かって差し出した。
エドワードはフフッと笑うと、俺の手に自分の手を重ねて繋いだ。
「俺さ…」
俺は話を切り出すと、
「今がすごく幸せかも知れないんだ」
と、エドワードに言った。
「そうか、俺も今がとても幸せだ。
少し前までは王族としての責務に追われてばかりいて毎日を受け止めることに精一杯だった。
これからお前と一緒に毎日を過ごすことがとても楽しみで幸せで仕方がない」
エドワードは笑った。
その笑顔はとても爽やかで心臓がドキッ…と鳴って、また恋に落ちそうになった。
「レナード、これからも一緒に幸せになろう」
そう言ったエドワードに、
「はい!」
俺は返事をした。
☆★END☆★
悪役令嬢の身代わりとして嫁がされましたが、何故か溺愛されています!? 名古屋ゆりあ @yuriarhythm0214
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