第14話   春樹のプライド  6月5日 水曜日

  玲香は春樹に今日の予定を伝えた。

「春樹さ~、このエロビデオ 今日までだよ、

ゲオに寄ってからイオンに行こうか、

私、春樹の下着、汚いから全部、捨てちゃったし、

服も買いたいし、食品も買いたいし・・だからいぃい」


「あの、お願いがあるんだけど・・おれ、子供じゃない・・

なんか、傷つくんだけど、その、ズバ ズバ、云うのやめてほしい。

エロビデオも恥ずかしいし。下着が汚いって言われても、なんか、いやなんだ。

なんか、馬鹿にされているようなガキ扱いされているような、

あかねのママもそうだけど、あれ、もしかして、あかねのママと姉妹・・・

俺に対する態度、一緒だよね!」 春樹はふと、そう思った。


「ふ~ん、そうだね、プライドを傷つけているのかな~ごめんなさい」


少し、沈黙が続いた。そして、玲香が切り出した。

「ごめんね、そうだよね、私、春樹に甘えているのかもしれない

男って、みんな、自分中心で、女の扱いって、なんていうのかな、(俺の言う事を聞け)みたいな、一方的なところがあって、ちょっと、反論すると、

オオカミみたいにすぐに牙を向けてくるでしょ。

だけど春樹は、うまく言えないけど、春樹といると、安心できるの、

何、言っても受け止めてもらえるような気がして、

だから、強く出ても大丈夫のような~なんて言ったらいいのかな、

母性本能・・・湧いてくる・・きっと・・・・ママも同じだと思う」

玲香は台所でしゃがみ込んで話した。


「褒められているのか、けなされているのか、よくわからないけど、

ほんと、すべてが、急に変わっちゃって、

ちょっと、待ってくれ、時間が欲しい」


「それって、付き合うのやめるって事、付き合うの、待てって事」


「そうじゃなくて、そうだな~なんていうのかな、

だからさ、心臓を突き刺すような事、ビデオの事とか、汚いシャツとか言われても気分悪いし、ビデオのエロは黙ってくれればいいのに、

汚いのは自分でも、わかっているからさ、いちいち、強調しないでほしいって事、恥ずかしいじゃん、プライドズタズタになるし」


「はい、気を付けます。ごめんなさい、許してください」

玲香は良かったと思った、一瞬、これで終わるのかと思ったのだ。

春樹が立ち上がるとイオンに行こうと言い出した。背伸びしながら、

「言いたい事を言ったら楽になった」と叫ぶように言った。

「私も話したら、楽になった」春樹と同じポーズをとって叫んだ。


考えてみたら、こんな話などした事が無かった。初めて話をした。

玲香はちょっと、自分でも、ひどい女だって気が付いた。

考えてみれば、ぜんぶ嘘、春樹に抱かれてもいないし、

結婚って言葉も作り上げたものだし、本当にひどい女だと自覚したのだ。


 春樹が欲しいばかりに強引過ぎた自分に反省した。

多分、心のどこかに、お金を持っているから、

大丈夫と思っていたのかもしれない、

どちらにしてもこれからは春樹を立てて、良い女になりたいと思った。

春樹はまだ、少し二日酔いが残っていそうなので車は玲香が運転した。


ゲオにビデオを返すと、猪子石原のイオンに行った。

午後3時だ。まだ、6月に入ったばかりだというのに

気温は29度を上回っている。暑いはずだ。

早く買い物を済まして夕飯を作りたい。今日、熱田神宮で花火大会があるらしい、そんなニュースで流れていたが、玲香にはそんな余裕はないのだ。

玲香の頭の中には、買い物項目がぎっしり詰まっていた。


すべて、春樹のものだ。

まずは衣類、下着、靴下、パジャマ、ジャージ 、Tシャツ、

すべて、サイズはLLだ。最初は春樹に選ばせていたが、中々決まらない。

なにしろ、最初に値札ばかりを気にする。

これではらちがあかんと思った玲香は、自分が春樹に着せたい衣類を、

どんどん、買い物かごに入れた。トレーナー パンツ、スニーカー

春樹は、はじめはいちいち、籠の中をチェックしていたが、

結局、玲香の言いなりだった。


「ねぇ、春樹、パンツはトランクス、ブリーフどっちがいい?」


「どっちでもいいけど、これだと、座っていると、股に食い込んできて痛いんだ」


「金玉が締め付けられるの、じゃ、ブリーフにしようか、大きめがいいね」


「言い方が露骨、もう、ちょっと遠回しに言ってよ、恥ずかしいよ」


 小声で云うと続けて、

「まるで、女房見たい。女房でも、金玉なんて言わないと思うけど、もう」

自分で言いながら、なんだか、可笑しかった。そうか、女房になってくれるんだ、と思うとまんざらでもなかったのだ。


「いいじゃない、私、春樹のお嫁さんになるんだから・・・」

といって、玲香は春樹の腕を組んだ。

ユニクロで買った衣類はレジで大きな袋が三袋になって、結構、重いのだ。

玲香は、その袋を先に車の中に持っていくようにと春樹に頼むと、

自分は地下の日用品の所で買い物をしていると言った。

日用品売り場へ行くと、髭剃り 髭剃りクリーム シャンプー、ボディソープ、

歯ブラシ 歯磨き粉、マスク、バスタオル、必要な物、全て買った。

春樹が、自分を探しているのを気が付いていたが、

知らん顔をして買い物をつづけた。きっとまた、口出してくる。

うっとうしいので、早く買い物を済ませようと思ったのだ。

レジに向かうと春樹が寄って来た。 

「探したよ、ここに居たんだ、ここ、結構広いから探すの大変、

人も多いし、なんか、たくさん買ったんだね」


「うん、半分は私の物」そう、言っておけば、春樹は納得すると思ったのだ。

ショッピングカートの中には日用品が山ほど入っている。

食品売り場へ行くと、そのカートを春樹に引かせて、玲香はもう一台、ショッピングカートを持ってきた。食品売り場はフルーツから始まる。

玲香はフルーツを指さすと、春樹にいちいち、好きか嫌いかを聞いた。

「リンゴは好き?ブドウは好き?キウイは好き?嫌い?バナナは?」

最初は答えていたが、食品売り場にあるもの、すべて確認しそうな流れだ。

これはたまらんと思って、トイレに行くと言って、その場を抜けた。

玲香は春樹の好みを知っておきたかったが、もう、5時を回っている、

衣類、日用品で2時間も掛かったようだ。早く帰って夕飯をつくりたい、


春樹に美味しいものを食べさせたいと思った。洋食は苦手だと言っていた。

とすれば、中華か和食だ。中華はあまり得意ではない、つまり、和食、肉ジャガ、ほうれん草の胡麻和え、鶏肉の竜田揚げ、あとはサラダ、これで今日は決まりだと思った。春樹が戻ってきた。

「今日の夕食、肉ジャガ、ほうれん草の胡麻和え、鶏肉の竜田揚げにしたけど、

嫌いなものある?」

「すごい、玲香が作るの、作れるの 、本当にすごいね!すぐ、奥さんになれるね」


「だから、春樹の奥さんになるって言ってるでしょう。すぐにでもなるから・・」


「たしかに・失礼しました」春樹はそうだったと照れていた。

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身も心も過去もすべて受け止めて 安部 満 @maotomo

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