第7章: 無限の可能性

 それから数年、美紗と隆二は精力的に研究を続けた。彼らの論文は学会を震撼させ、量子物理学の常識を根本から覆した。

 しかし、二人にとってより重要だったのは、彼らの関係性の探求だった。

 

「ねえ、隆二くん」


 ある日、美紗が言った。


「私たちが出会わなかった世界線はあるのかしら?」

 

 隆二は首を傾げる。


「面白い質問だね。多世界解釈に従えば、理論上はあり得る。でも……」

「でも?」 

「僕は信じないんだ」隆二が静かに言う。


「僕たちの魂の結びつきは、そんな偶然を許さないはずさ」

 

 美紗は微笑む。


「そうね。私もそう信じたい」

 

 その時、研究所のアラームが鳴り響いた。

 

「また異常反応?」


 隆二が慌てて計器を確認する。

 美紗もディスプレイを覗き込む。


「これは……まさか」

 

 画面には、無数の世界線が交差する様子が映し出されていた。

 そして、その全ての交点に、美紗と隆二がいた。

 

「信じられない」


 隆二が息を呑む。


「僕たちの仮説が正しかったんだ。全ての世界線で、僕たちは出会っている」

 

 美紗は感動に震える。


「私たちの絆は、宇宙の根幹に刻まれているのね」

 

 突如、研究所全体が振動し始めた。

 

「これは……」


 隆二が驚愕の表情を浮かべる。


「世界線の収束が始まっている!?」

 

 美紗は隆二の手を強く握る。


「私たちはどうなるの?」

 

 隆二は美紗を抱きしめる。


「どうにもならないさ。僕たちはずっと、一緒なんだから」

 

 眩い光が二人を包み込む。

 そして、意識が遠のいていく中で、美紗は確信した。

 これは終わりではない。新たな始まりなのだと。

 無限の可能性に満ちた宇宙で、彼らの愛の物語は永遠に続いていく。

 量子の糸で紡がれた二人の魂は、どんな時空をも超えて、常に一つなのだから。

 

 (了)

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【SF短編小説】量子の糸で紡ぐ愛 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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