第6章: 収束する波動関数
美紗が目を覚ましたのは、見慣れた研究所のベッドの上だった。
「戻ってきた……」
彼女は起き上がり、周囲を見回す。そこには、彼女が去った日と同じ風景が広がっていた。
しかし、何かが違う。
「美紗!」
声の主は、彼女のよく知る隆二だった。
「隆二くん……私、戻ってきたの……?」
隆二は美紗を強く抱きしめる。
「ああ、やっと目覚めたんだな。君が意識を失ってから、もう1ヶ月も経ったんだ」
美紗は困惑する。
「1ヶ月……? でも、私は別の世界線で……」
隆二は静かに頷く。
「ああ、僕にも分かる。君が経験したことは、全て現実だったんだ」
美紗は驚いて隆二を見つめる。
「どうして……?」
「君が意識不明の間、僕も毎晩不思議な夢を見続けていた」
隆二が説明を始める。
「そこでは、僕は大学の若手教授で、ある日突然現れた天才学生と出会う。その学生は……」
「私だった」
美紗が言葉を継ぐ。
隆二は頷く。
「そう、君だった。そして、その夢の中で僕は、君が別の世界線から来たことを知る。そして最後に、君を送り出す」
美紗の目に涙が溢れる。
「じゃあ、あれは夢じゃなかったの?」
「いいや、夢だ。そして現実でもあったんだ」
隆二が答える。
「僕たちの実験は、予想以上の結果をもたらしたんだ。君の意識は確かに別の世界線に飛んだ。そして、その世界の僕の意識とも繋がった」
美紗は深く息を吐き出す。
「私たちは、量子もつれによって結ばれていたのね」
隆二は優しく微笑む。
「そう、どんな世界線でも、僕たちは必ず出会う。それが量子もつれの真理だから」
その言葉に、美紗は別の世界線の隆二が言った言葉を思い出す。
二人の魂は、確かに時空を超えて結びついていたのだ。
「隆二くん、私たちの発見は……」
「ああ、人類の知の地平を大きく広げることになるだろう」
隆二が言う。
「でも、それ以上に大切なことがある」
「大切なこと?」
隆二は美紗の手を取る。「美紗、君と僕は、どんな世界線でも必ず出会い、そして惹かれ合う。それは、単なる偶然じゃない。僕たちの魂が、根源的なレベルで結びついているからなんだ」
美紗の胸が高鳴る。
「隆二くん……」
「美紗、僕と一緒に、この不思議な宇宙の謎を解き明かしていこう。そして同時に、僕たちの絆の深さを探求しよう」
美紗は決意を込めて静かに頷く。
「ええ、行きましょう。どこまでも」
二人は見つめ合い、そっと唇を重ねる。その瞬間、研究所中の計器が異常な反応を示し始めた。まるで、二人の魂の共鳴が、宇宙そのものに影響を与えているかのように。
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